かがみふみお『まちまち』を読み直してたんですが、やっぱり、この作品は良いですね。前作『ちまちま』もそうだったんですが、読んでるこっちが身悶えしてしまうほど初々しいんですよ。
思春期の若者って、ものすごく敏感なんです。どんな些細なことでも妄想します。ほんのちょっとのことで慌てたり、落ち込んだり、喜んだりもできます。あらゆることに気が付いて、どんなことにでも反応ができるんです。
『まちまち』は、ほとんど全く起伏のないお話なんです。普通に高校に行って、お喋りして、マックに寄って。ただ、それだけしか起きないんです。でも、その何の変哲もない日常が、ものすごく細かに描かれています。平凡な日常が、とてつもなくエキサイティングなんです。

雨の日の相合傘のシーン。背の大きな女子と背の小さい男子のカップルです。「傘は男が持つもの」と必死に持っていますが、傘の位置を背の高い女子に合わせているので、腕が震えだしています。女の子は、必死になっている男子に気づいて、感動しています。この見落としがちな、些細なエピソードを拾い上げるから、かがみふみお先生はすごいんですよね。

これは好き合ったカップルが、マックに寄ったところ。お互いが好きで、一緒にいたくて、いるだけで幸せです。でも、話したいことはない。思いつかないのです。楽しいけど気まずい時間。マンガを読んでいる俺が、叫びだしたくなります。

マックのシーンの後、ギクシャクしたまま時間が過ぎ、落ち込んだ二人。「このままではいけない」と張り切った男子が、「また明日」と別れ際に言います。それだけで、女子は満開の笑顔なわけです。「好き」とか、愛情を示す言葉ですらない。「また明日」。これだけで二人は幸せになれるのです。
『まちまち』は物語は全く起伏がないんですけど、キャラクターの心が震度6くらいで、常に津波状態なんです。その心理描写がとてつもなく上手い、良い作品なんです。
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