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皆さんは「力を抜くと身体が重くなる」ということをご存じでしょうか?武術の世界では、この原理を様々な術理(突き・投げ)に応用してきました(例えば中国武術では「沈墜勁(ちんついけい)」という名称で概念化されています)。

殺陣にこの原理を応用すれば、技のキレを増してくれるばかりでなく、表現力をも飛躍的にアップさせてくれるでしょう。ここでご紹介するワークをしっかりと練習して、本物の表現力を身に付けてください!!

ここでご紹介するいくつかのワークは、武術の鍛錬法を元に考案されたものばかりです。ですから、その性質上ある程度の危険性(転倒等)を持つことをご了承ください。


1.

脱力と重さの関係

2.

引き込みのワーク

3.

押し込みのワーク

4.

応用


脱力と重さの関係


力を抜くと重くなる?!

先ずは、本当に力を抜くと身体が重くなるのか、ワークを通して試してみましょう!下の写真のように二人一組になり、片方の人がもう片方の人を「おんぶ」します。

  1. おぶさっている方は、最初、全身の筋肉を緊張させます。おんぶしている方は、その重さを感じます。
  2. 次に、おぶさっている方が全身を脱力させます。もうグニャグニャに、まるで酔っぱらいのようにです(笑)。おんぶしている方は、さっきとの違いを感じます。

全身を緊張させる
とにかく脱力!!

注意

おんぶをする側は、しっかりと「腰を入れ」て行いましょう。
腰を丸めた姿勢では、腰を痛めてしまいます。

良い腰
悪い腰

どうです、重くなったでしょう? おや、「確かに重く感じたけれど、それはおぶさっている人の姿勢が変わったからだよ」という声が聞こえてきました。いいでしょう!それでは、次のワークも試してみて下さい。

  1. 先程と同じく、おぶさっている方は全身を緊張させます。
  2. おぶさっている方は、その姿勢をなるべく保ったまま、注意深く全身の力を抜いていきます。おんぶしている方は、重さの違いを確かめます。

全身を緊張させる
姿勢を保ったまま脱力

どうです?姿勢が変わらなくても重くなったでしょう? 但し姿勢を変えずに全身の力を抜くことは、実は熟練を要する「技」でして、最初は上手く力を抜くことができない人もいることでしょう。次にその練習方法を紹介しますので、騙されたと思って十分に練習してください。きっと「重さ」を自由自在に操れるようになるはずです。


スワイショウ

  1. 下の写真のように、楽に真っ直ぐ立った状態で肩の高さまで腕を上げます。
  2. 一気に全身の力を抜いて腕を振り下ろします。それと拍子を合わすように膝の力も抜いて屈伸させます。
  3. 腕の振りが戻る力を利用して最初の姿勢に戻ります。
  4. 以上を繰り返します。(30〜50回)


アニメ


注意

  1. この時、腕はそれ自体の重さで落ちていくのが肝要です。力で行ってはいけません。
  2. 膝の力をスムーズに抜けるようにします(武術の極意)。
  3. 力を抜くことは大事ですが、写真の様に姿勢を崩してはいけません。
    (「これ以上力を抜いたら姿勢が崩れてしまう」ギリギリを狙います)


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引き込みのワーク


身体の重さが使えるようになったら、次は実践のワークに移りましょう。下の写真のように、二人の手を自分の両肩に置いて貰い、それを両腕で上から押さえるようにします。その状態から、二人を後方斜め下に引っ張り降ろすように動きます(急に力を入れてはいけません)。引っ張られる方も身体の重さを効かせて耐えてみます。

  1. 先ずは引っ張る方が、力で引っ張ります。
  2. 次に引っ張る方は、力を抜いて身体の重さで引っ張ります。
  3. 引っ張られる二人は、腕にかかる力の違いを感じます。
二人の腕に両腕を乗せて・・
力で引っ張っても意外と抵抗される
脱力して身体の重さで引っ張れば
相手はズルズルと引きずられる

脱力の引き込みを横から見た図

アニメ

いかがでしょうか?身体の重さを使えば面白くらいに相手を引き込むことができたでしょう?このワークはあくまでモデルですが、武術の上級者の投げ技はこの感覚を利用して行われるのです。



引き込む方向

相手を引き込む方向は、自分から見て後方斜め下です。転倒を防ぐため、写真の様にお尻を突き出した姿勢を保ちましょう。

アニメ


注意

  1. 引っ張る人は、動き出しの際、いきなり動かないようにしましょう
    (思わぬ事故の原因になります)
  2. 「脱力の引き込み」は予想以上に「威力」が出ます。最初は確かめながら、徐々に脱力を効かせていって下さい。
  3. 引き込む側の腰が下の写真の様に丸まっていては、後ろに転倒して大怪我を負う虞があります。お尻を突き出した姿勢を守って下さい。


手の置き方

相手の腕に乗せる腕は、写真左のようにそのまま乗せて下さい。写真右のように両手を組んでしまいますと、相手の肘・肩に強力な力が掛かって怪我をさせてしまいます。

両腕はそのまま乗せる
手(指)を組んではいけません

また、脱力する際に腕の力まで抜いてしまうと、写真のように腕がはずれてしまいます。全身の力を抜いても、腕をホールドさせておく力だけは残しておきましょう


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押し込みのワーク


「引き込みのワーク」が十分慣れたら、次は「押し込みのワーク」です。二人に組体操の要領で腕を組んでもらい、そこに自分の前腕を乗せ、前方斜め下に押し込むワークです。

  1. 先ずは押す側が、力で押し込みます。
  2. 次に押す側は、力を抜いて身体の重さで押し込みます。
  3. 押される二人は、腕にかかる力の違いを感じます。
二人の腕に自分の前腕を乗せる
力で押し込んでも抵抗される
脱力して重さを加えれば
相手を簡単に動かすことができる

脱力の押し込みを横から見た図

アニメ

こちらも「重さ」を使った方が簡単に相手を動かすことができましたね。この「前方斜め下に体重を落としていく」やり方は、武術の突き技、剣術の斬撃等に応用可能なものです。


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押し込む方向

相手を押し込む方向は、自分から見て前方斜め下です。ジェットコースターが滑り落ちるような感覚が生まれたら、この動きはほぼ完成と言えます。

アニメ


手の置き方

二人で組む腕は、写真左を参考にしてしっかりと組んで下さい。乗せる方の腕は、写真右のようにどこも掴まず、楽に乗せます。


注意

  1. 押し出す人は、動き出しの際、いきなり動かないようにしましょう
    (思わぬ事故の原因になります)
  2. 「脱力の押し込み」は予想以上に「威力」が出ます。最初は確かめながら、徐々に脱力を効かせていって下さい。


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応用


前述した通り、「力を抜いて重さを使うこと」は、武術の根幹といっても差し支えありません。ここでは三つの例を挙げておきますが、皆さんの工夫と精進次第で、その応用範囲は無限の広がりを見せることでしょう。是非是非、ご自分の稽古に取り入れてください!!

武術の例

重さを効かせた突き
重さで相手を崩す


殺陣(武術)の例

脱力の素振り
「重さ」で六尺棒も軽々と振れる

アニメ


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