中国・四川大地震の被災者に対する救援物資輸送の手段として検討されていた航空自衛隊機の派遣−。30日、一転して見送りとなったが、中国側のあいまいな「要請」にふりまわされたドタバタ劇を検証する。(今堀守通 北京 野口東秀)
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【写真で見る】 派遣が想定されていたC130輸送機
29日、第4回アフリカ開発会議(TICADIV)が開催されている横浜市内のホテルで朝を迎えた福田康夫首相は、携帯電話を取りだして町村信孝官房長官にかけ、強い口調で指示を出した。
「最優先なのは、救援物資を早く送ることであり、自衛隊機を出すことではない!!」
同日付の各紙朝刊の1面にどれも「自衛隊機派遣」の大見出しが躍っているのを見て、怒りが込み上げた。「自分の真意と違う動きになっている」−。電話せずにはいられない状況にまでなっていた。
首相官邸を留守にしていた福田首相と、留守を預かっていた町村氏らとの意思疎通が十分図られていなかったのだ。首相の指示を受け、自衛隊機派遣の動きは急速にしぼんだ。
■前のめり
町村氏ら政府側のこれまでの話によると、27日に北京の日本大使館の駐在武官に中国国防省の「担当者」から緊急支援の要請が来た。「担当者」はこのとき「(輸送手段は)自衛隊機であっても構わない」とも発言したという。
その報告を聞いた町村氏や二橋正弘官房副長官らは「中国は猫の手も借りたいほどの状況なんだ」(政府高官)、「日中関係進展のシンボルになる」(外務省幹部)と判断。直後から緊急援助物資をC130輸送機で輸送しようという動きが出始めた。
中国側からの支援要請は、横浜にいた首相に町村氏から秘書官を通じて連絡が入った。
アフリカ40カ国首脳との「マラソン会談」に追われていた首相は、支援を惜しむ必要はないとの思いを込めて「やってくれ」と返事をしたという。これで首相の「お墨付き」も得たと判断した町村氏は、28日午後の会見でこう言い切った。
「自衛隊が現地で活動するという意味合いではないが、自衛隊機で中国の空港まで運んでもらいたい、という趣旨だと理解している」
官邸内からは、「週内になるべく(輸送できるように)結論を早くしろと、関係者には言っている」「福田首相は、胡錦濤国家主席や温家宝首相に『できる限りのことをする』『何でも遠慮無しに言ってくれ』と伝えているんだ」という声が続出し、自衛隊機派遣が既定路線のようになっていった。首相の優先順位を理解しないままの「発進」でもあった。
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