政府は四川大地震被災者に救援物資を送る航空自衛隊機の派遣を見送った。実現すれば、日中の歴史的和解に向けた一歩だっただけに残念だ。急な方針転換が日中関係を波立たせてはならない。
町村信孝官房長官は見送りの理由を「中国で慎重論が出ていることも考慮した」と説明した。
中国の派遣要請が日本で報道されると、中国国内ではインターネットに「歴史を忘れるな」など反対意見が数多く書き込まれた。
中国紙「環球時報」は専門家の見方を紹介する形で、日本のメディアが大々的な報道で中国に自衛隊機受け入れを迫る「事実上の圧力」を加えていると批判した。
批判の高まりで一時、自衛隊機受け入れに傾いた中国政府も慎重論が強まったようだ。「心変わり」を不快に思う向きもあろう。
冷静に経過を振り返れば日本側にも反省点は多い。救援物資運搬に自衛隊機使用を認めるとの意向は二十七日に北京で行われた日本の防衛駐在官と中国国防省幹部との協議で中国側が示した。
日本の中国大使館はメディアの取材に、こうした情報を知らないと答えている。要請そのものが中国対外部門の十分な検討を経たものだったかどうか疑わしい。
しかし、日本の一部メディアが二十八日昼に中国の派遣要請を報じると、同日午後の会見で町村長官は「自衛隊のテントや毛布を自衛隊機で運んでもらいたいという趣旨」と述べた。防衛省はただちに準備に取り掛かり、愛知県小牧基地からC130輸送機を現地に向かわせる計画を立てた。
政府の積極姿勢は災害救援が緊急を要するためと理解したい。しかし、中国がくぎを刺してきた自衛隊の海外派遣を拡大する好機という思惑は全くなかったか。
結果的には、日本側の発言や動きがメディアで大々的に報道され、中国に根強い反日感情を刺激したのは否めない事実だ。
中国の対外政策は最近、世論の影響が増している。インターネットでは四川大地震被災者に対する日本の救援を称賛し感謝する意見が数多く書き込まれたが、自衛隊派遣には拒否反応を示した。日本の善意を受け止めようという意見も見られたのは救いだ。
中国の民衆は日中戦争当時の「感情の記憶」が強く時に政府の思惑を超えた激しい反応も示す。こうした特徴を踏まえ対中外交を組み立て、民意を変える粘り強い働き掛けをするほかない。
この記事を印刷する