政府の地方分権改革推進委員会が、福田康夫首相への初の勧告をまとめた。国道や一級河川、農業分野などの国の権限を地方に移譲するとともに、都道府県の三百以上の事務事業を市に移すことを明記した。首相は六月二十日にも開く全閣僚による地方分権改革推進本部で、勧告への対応を決める予定だ。
昨年四月に分権委が発足して以来、四十九回の審議を経てまとまった勧告は、「生活者の視点に立つ『地方政府』の確立」を副題としている。冒頭には、住民に最も身近で基礎的な自治体である市町村の自治権拡充を掲げ、国の出先機関が担う事務・権限を含めて、地方自治体への移譲を推進する必要がある、とした。
しかし、国から地方への移譲項目の中にはあいまいさも目立つ。勧告は、一つの都道府県内に起点と終点がある直轄国道などの整備・管理や、一つの都道府県内だけを流れる一級河川などの管理について、権限を都道府県に移譲するとした。ただ、対象の国道や河川について、地方自治体との調整のうえ「第二次勧告までに具体案を得る」としており、移譲に消極的な国交省に歩み寄った形となった。
全国一律で義務づけている福祉施設の設置基準の撤廃や、公営住宅の入居者資格の要件緩和も打ち出したが、生活保護については二〇〇八年度中をめどに制度改正の方向性を得るなど、結論を先送りした項目も多い。一方、大規模農地の転用許可を都道府県に移譲するよう勧告では明記しているが、若林正俊農相は反対したままだ。
新しい国のかたちに向け、小出しの改革では道のりは遠かろう。今後も省庁の抵抗は続きそうで、族議員を含めての巻き返しも予想される。政府内での調整は予断を許さない。
分権委は引き続き、今秋の第二次勧告に向けて、国の出先機関の改革について審議を続ける。権限の移譲には税財源や人員の移譲が前提だ。「二重行政」と指摘される国の出先機関はもとより、中央政府のスリム化を図り、地方の受け皿整備を進めなければならない。三月に政府の道州制ビジョン懇談会が中間報告で盛り込んだ「地域主権型道州制」も、「地方政府」のあり方として想定されよう。
政府は、来春の第三次勧告を受けて分権推進計画をまとめ、秋の臨時国会で新地方分権一括法案の提出を目指している。分権改革には政治の主導が欠かせず、福田首相の決断と実行力が求められる。地方も声を上げて、後押しすることが必要だ。
訪中した台湾与党・国民党の呉伯雄主席は北京の人民大会堂で中国共産党の胡錦濤総書記(国家主席)と会談し、中台対話を六月にも約九年ぶりに再開することで合意した。
一九四九年の中台分裂以来、政権党同士としては初の国共トップ会談となった。中台関係は、対中融和路線をとる国民党の馬英九氏が台湾総統に就任したことで緊張緩和が進んでいる。トップ会談での合意は、関係改善の動きに弾みを付けよう。
中台対話は九二年に実質的にスタートしたが、九九年に当時の李登輝・台湾総統が中台関係を「特殊な国と国の関係」と定義した「二国論」を表明したことで中国側が猛反発、対話が中断していた。
対話再開は、双方の交流窓口である台湾の海峡交流基金会と、中国の海峡両岸関係協会が行う。合意を受け、中国側は六月十一日から十四日まで中台対話を北京で行いたいと台湾側に書簡で伝えた。
トップ会談では、七月からの週末チャーター直行便の就航と、中国人の台湾旅行解禁の早期実施でも合意した。
北京五輪を目前に四川大地震など災難続きの中で前向きな話題をアピールしたかった中国と、国際社会での活動空間が狭まって孤立化する台湾。現状打破を目指したい双方の思惑が一致した結果の会談だったといえなくもない。
ただ、中台の関係改善では、経済的実利を期待する台湾側と、「祖国統一」への足掛かりとみる中国側との間に、立場のズレがみられるのも否定できない。トップ会談でも、中台間に横たわる政治的な争いは棚上げし、双方の利益を追求していくとの考えで一致した。経済交流などで安定した関係構築を目指す双方の努力が望まれる。
(2008年5月30日掲載)