この期に及んでなお、多数の職員が調査に回答を拒否したり、協力しなかったりしたというのだから、あぜんとしてしまう。NHKの記者ら3人による株のインサイダー取引事件を受けて、弁護士らでつくる第三者委員会が行った調査に対してである。
懲戒免職になった3人は別々に、端末に集約されるニュース原稿を放送直前にのぞき見て関係する株を売買していた。端末にアクセスできるNHK職員は約8200人。ならば、3人以外にも同様の手口でインサイダー取引をしている職員がいるのではないか。委員会が全職員や契約スタッフら計1万3221人を調査対象にしたのは、そうした疑問に答えるためだった。
ところが、まず株を保有しているかどうかの質問に150人が回答しなかった。さらに、保有していると答えた人の3分の1に当たる943人は取引履歴調査への協力を拒んだり、急に「株は持っていなかった」と回答を訂正したりして調査が進まなかった。
協力拒否の理由にプライバシーを挙げる人の気持ちもわからなくはないが、NHKに向ける視聴者の目が厳しくなっているこの時期の対応としては自覚がなさ過ぎるのではないか。回答訂正者の中には履歴調査に進むのを嫌がり、慌てて保有していないとうそをついた人もいるのではないか。
いくら任意の調査とはいえ、きちんと答えようとしない職員がこれほどいては、やましい点や怪しい取引があるに違いないと疑われてもやむを得まい。国民の信頼を回復するにはほど遠い調査結果だ。
3人以外に勤務中に株取引をしていた人は81人に上った。最も多かった人は1日に平均7回も取引をしていたというから驚く。企業情報を知り得る報道関係者が頻繁に株売買するのは不適切と言わざるを得ない。
インサイダー取引と断定されたのは3人以外になかったが、社会部記者がライブドアの家宅捜索の前に同社と業務提携していたフジテレビの株を売却して損失を免れたケースもあった。また、3人には他にも疑わしい株取引が22銘柄で見つかった。報道関係者は国民から疑いの目を向けられるような行為を厳に慎まなければならない。
事件発覚後、NHKは短期の株売買禁止や端末アクセスの管理強化などを打ち出した。それでも委員会は「相変わらず派閥抗争に明け暮れたり、NHKがなくなることはないと高をくくったりして、組織全体の危機意識が乏しい」と厳しく指摘した。
その危機意識をNHK全体で共有し、国民の信頼を取り戻すには、まず調査を再びやり直して、全職員が誠実に応じることだ。調査を尽くすことなく、国民から疑念を抱かれたままの組織に、他の企業の不正や疑惑を報じる資格はないと自覚すべきだ。
毎日新聞 2008年5月30日 0時03分