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クラスター爆弾全面禁止合意 専守防衛に空白

5月30日8時2分配信 産経新聞


 日本侵攻阻止の切り札・クラスター爆弾が「即時全面禁止」になれば、日本政府は「専守防衛」という“国是”を含む戦略・戦術の抜本的見直しを強いられる。新型クラスターの大量導入で回避するだろうが、それには莫大(ばくだい)な支出を伴う。それ以前に、配備完了まで「空白の10年」が生じる。確かに、着上陸侵攻の可能性は冷戦時に比べ低いが、国土防衛は確率論ではない。国家の決意を示し、途切れることのない抑止力につなげることが大原則である。禁止の背景である不発弾による非戦闘員の殺傷多発は痛ましい。だが、国家・国民の安全が損なわれる事態も悲劇ではないか。(野口裕之)

 クラスター爆弾は1発の爆弾に数十から数百の子爆弾を詰め、投下後に空中で子爆弾を飛び散らせる兵器。戦闘機や多連装ロケットシステム(MLRS)から発射し、敵頭上で子爆弾の雨を降らせ、一気に撃退する。米軍は湾岸戦争でクラスターを多用し、イラク軍から「鋼鉄の雨=アイアンレイン」と恐れられた。イスラエル軍もテロリスト殺害に使ったが、いずれも攻撃後、不発弾に触れた非戦闘員が死傷している。

 だが、専守防衛という、国土防衛力を著しく阻害する“戦略”を信じる日本の場合、クラスターの使用は海空自衛隊の装備がほぼ全滅、敵が着上陸侵攻を仕掛けてくる、いわば本土決戦の時。運用は次のように“最終兵器”としての重要性を帯びている。

 《襲来する敵に湾内遠方、次いで水際でクラスター攻撃。それでも、敵の一部は上陸に成功する。だが、上陸地点には地雷原がある。敵が地雷原を前に前進をやめれば、味方火砲・戦車が攻撃するから、敵は動きを止められず、地雷のない地点に移動・集中する。実はトラップ=ワナで、味方火砲・戦車が移動地点を狙い集中攻撃する》

 「誘致導入攻撃」という戦法だが、従来型対人地雷は禁止され、もはやない。クラスターまで失えば戦法は絶望的だ。

 従って(1)子爆弾が10個未満(2)攻撃対象識別機能(3)不発時の自爆−など、条約の定義をクリアしているドイツ製など、極めて限られた新型クラスターを新たに大量導入しなければならない。しかし、過去4年、平均年340億円も減らされ続けている防衛費を考えると、段階的に導入せざるを得ない状況で、配備を完了するには10年の空白を覚悟せねばならない。

 代替火砲の導入となると、さらに非現実的だ。MLRSの1発射機当たりの瞬間制圧面積は、155ミリ自走砲を主力とする1個特科(砲兵)連隊(1100人)の火力に匹敵。従って、現有5個MLRS大隊(90発射機/1500人)を廃止するのなら、90個特科連隊(9万9000人)の増強が必要となる。1分間に発射可能な弾薬重量でも、155ミリ自走砲と比べると3倍近くの開きがある。人員で計算し直すと、1個MLRS大隊(300人)の瞬間交戦能力は3個特科連隊(3300人)に相当。現有5個MLRS大隊を解隊すれば、その穴を埋めるため15個特科連隊(1万6500人)を新設しなければならない。

 ところで、クラスター反対国の共通項は非保有か、保有していても旧式である点。「人道」を隠れみのに、急進的規制を成功させ自国の安全を高める軍事上の計算が透けてみえる。終始、協議をリードしてきたNGO(非政府組織)が、非保有国を会議の場に引っ張り込み、反対を主張させてきた成果でもある。この点、非捕鯨国を参加させ、感情的意見に支配されてきた国際捕鯨委員会(IWC)での協議をほうふつさせる。

 それでも、日本政府の拙攻は目に余る。対人地雷禁止条約調印国の英国、オーストラリア、ニュージーランドなどは、国益が損なわれた場合の地雷使用を「留保条件」としたが、自衛隊は約20億円もかけて従来型対人地雷約100万個を廃棄させられた。クラスターでは、日本も「主に侵攻軍に対する使用」など、条件を突き付けるべきであった。

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最終更新:5月30日11時55分

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