日本政府は、四川大地震の救援物資輸送に自衛隊機を派遣する方針を見合わせた。日中戦争の過去から、中国国内には日本の防衛力に警戒心が強い。
中国が要請に傾いたのは、地震被害がすさまじかったからだ。避難民千五百万人に三百三十万張りのテントが必要とされるが、配給できたのは五分の一に満たない。多くの被災者が野宿を余儀なくされ対策の遅れに不満を募らせ、感染症拡大の恐れが増している。
日本の国際緊急援助隊は被災者の救出や医療に当たり仕事ぶりが中国国内で称賛された。自衛隊輸送機が飛来しても反発は小さいと中国政府は一時判断したのだろう。
こうした動きは日中関係改善の成果だ。今月、胡錦濤国家主席が来日して署名した日中共同声明では両国の公式文書として初めて中国が「戦後日本の平和国家としての歩み」を評価した。
中国は戦後も長く「日本軍国主義復活」を警戒し日本の防衛力強化に懸念を表明してきた。戦後日本を公式に評価したことは、この懸念を自ら否定したに等しい。
また、首相の靖国神社参拝問題の影響で中断してきた防衛交流も昨年、国防相来日に続き中国軍艦の寄港が実現し、来月には自衛隊艦艇の訪中が予定されている。
中国は一九九二年の天皇陛下訪中で関係が好転すると翌年、自衛隊のカンボジアPKOを評価し、軍事分野を含む日本の国際貢献拡大を支持する動きを見せた。
しかし、その後、歴史問題などで両国関係が悪化し再び日本の国際貢献をけん制するようになった。今回の自衛隊派遣は国際貢献の分野で日中協力が進展する機会だった。
もっとも、派遣の一時見送りは中国の動きを日中関係の「歴史的転機」などと小躍りして喜ぶ風潮への警告だ。中国のインターネットには「援助隊と自衛隊は違う」「許せない」など批判的な意見も目立つ。
中国政府も根強い反日感情に配慮して、国内で活動する援助隊への自衛隊参加を非公式に拒否してきた。日本の防衛力への不信解消は、まだ始まったばかりだ。
今回の派遣見合わせは、不信をぬぐい去ることが容易でないことを示した。絶望や中国への反発に傾くことなく、今後も日中関係の「過去」の克服に努力を重ねたい。
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