「介護型」療養病床の廃止撤回を

 自民党の「療養病床問題を考える国会議員の会」(会長・中山太郎衆院議員)は5月28日、「介護療養型医療施設の存続を求める会」の医師や厚生労働省の担当者と意見交換した。この中で、厚労省側が療養病床再編について、「医療の必要がない人が療養病床に入院している部分を適正化する」との方針を示したのに対し、けんなん病院の藤元秀一郎理事長は、「医療療養病床と介護型療養病床は現実的には役割が違う。介護療養病床は医療療養病床で提供できない介護保険サービスを補う、ちょうどよい施設だ」と述べ、介護型療養病床の廃止を撤回するよう訴えた。

【関連記事】
「医療介護難民は11万人」―療養病床削減問題
「療養病床削減は救急医療を圧迫」
救急受け入れ「ベッドがない」(1)〜特集・救急医療現場の悲鳴
「療養病床なくさないで」
転換老健の利益率、マイナス7.3%と試算

 国会議員の会は、厚労省が2012年度末までに、現在37万床ある療養病床について、介護療養病床を全廃し、医療療養病床を残すとしている療養病床再編の方針について議論してきた。

 意見交換の中で、信愛病院の桑名斉理事長は、「介護療養型医療施設の患者が肺炎になると、『一般病院に入院させてほしい』という家族の希望がない限り、そこで治療し、治ってからも(介護療養型医療施設に)いていただく。それが介護療養型『医療』施設で、介護と医療があるという意味」と説明した。その上で、「療養病床をなくすと、急性期から慢性期、次に回復期、そして在宅へとスムーズに移行できないため、救急医療にまで影響を及ぼす。厚労省が『シームレスな医療』と言う割に、制度上でぎくしゃくしたものができてしまう。厚労省の考えていることは分かるが、あまりにも連続性がなさ過ぎて、うまくいかないのが現実」と述べ、慢性期病床が整わなければ、入院から在宅までの患者の流れに影響するとした。

■療養病床再編「エビデンスない」

 永生病院の安藤高朗理事長は、「介護保険ができた当初の厚労省との勉強会で、急性期病床は60万床、療養病床は40万床必要という話があり、東北大の濃沼信夫教授も『病床を減らすべき』と主張しながらも、慢性期病床は回復期も含めて46万床は必要と言う。もともと療養病床が減ったのは、自民党のある幹部が地元の療養病床を見て、患者が多いというイメージを持ち、その当時の厚労省が『高齢者については、高齢者住宅とかかりつけ医の連携を図れば何とかなるのでは』という、違うベクトルがくっついて、(当時の)小泉純一郎首相のブームに乗ってすっと流れてしまった、というエビデンスが乏しい状態」と、療養病床の再編に至る経緯についての認識を示した。また、「今後、医療が進歩すると、今まで治らなかった病気も治るようになってくる上、急性期病院の在院日数も減っていく」と指摘し、慢性期病床の必要性を訴えた。
 さらに、安藤理事長の運営する病院でも慢性期病床を有していることを紹介し、「入院待ちが50人以上いて、そのうちの2、3割が行政の方からのご紹介。急性期病院から追い出されて、『行くところがないから、最後まで面倒見てもらえないか』というのが本音では」と述べた。木村義雄衆院議員が「厚労省のOBか」と尋ねると、安藤理事長は「国会議員の先生もいる」と応じ、「本音の部分はそういうことでは。やはり国民のニーズとして(療養病床は)あるのだから、それを踏まえて施策に反映していただくことが必要」と述べた。

■在院日数減と療養病床削減「矛盾どう解決」

 
木村議員は厚労省側に対し、「急性期が在院日数を相当減らしてきている一方で、受け皿の療養病床もなくす。この矛盾をどう解決するのか。医療費削減のために急性期も慢性期も両方放り出すのか、その辺りをどう考えているのか」と聞いた。

 厚労省の矢田真司老人保健課地域ケア・療養病床転換推進室長は、「わたしは介護の方を担当しているので、医療に詳しいわけではないが、基本的に急性期医療の改革も、日本の急性期医療はベッド数が多いのに医師や看護師の配置が薄いということで、その辺りの再編もしながら機能分担を図ることが必要として進めているのだと思う」と答えた。
 矢田室長は療養病床再編について、老人医療費の無料化以降、社会的入院の問題が顕在化したと指摘した上で、「そういう方たちにできるだけ身の丈に合った、というか、必要以上のサービス提供体制の中にいていただくというのは、コスト面でも、適切なサービス提供という面でも、ふさわしくないということ。医療が必要な人には医療を、介護が必要な人には介護を提供するという考え方。在宅に帰っていただくのでなく、施設側が地域に必要な施設に転換していただくということ。定員を減らすわけではない」と述べ、非効率になっている部分を適正化する必要があると主張した。

■「医療型と介護型を分けて考えるべき」

 
これに対し、けんなん病院の藤元理事長は「今出ている話のほとんどは医療療養病床」と指摘した。「医療療養と介護療養は現実に役割が違う。医療療養病床に社会的入院がいるというが、医療療養病床で症状が改善すれば、当然『なぜこのような人が入院しているのか』となるが、その人たちは自宅に帰れないから介護が必要な状態。医療療養病床では介護保険は適用できないから対応できない。介護療養はそれを補うという意味でよくできた施設で、医療の方にウエートを置いた病院に近い施設だった」と説明。介護療養病床は、医療と介護の両方を提供する役割を果たしているため、介護療養型医療施設を廃止してはならないと訴えた。

■「医療区分は現場に合っていない」

 上川病院の吉岡充理事長は、「肺炎になると喀痰(かくたん)吸引するが、7回だと医療区分1。これが8回になると、医療区分2になる。医療区分1のすべてが、医療が必要な患者ではないというわけではない。医療区分はスケールにはなりうるが、これを利用して介護医療型をなくそうとしている」と述べ、医療区分が現場の実態に合っていないことを指摘した。療養病床の問題については、「後期高齢者医療制度ほど分かりやすくないので、国民はこの問題を知らない。85歳を過ぎたら3分の1の人が認知症になる。もう一度考えないと。勝手に決めてもらっては困る」と危惧(きぐ)した。

 安藤理事長は「医療区分の決め方はひどい。前回の診療報酬改定で保険局は、『本当は開業医の再診療を減らしたかったが、それが無理だったから、申し訳ないけど医療保険の療養病床からもらうよ』と言っている。医療区分は全くエビデンスがなく、お金がないということからきているので、こういうことは撤回しないと国民のためにならない」と指摘した。木村議員はこれに対し、「医療区分を決めたのは、医療の中身でなくて財政か」と尋ね、安藤理事長は「開業医の再診療を減らせなかった代わりだ」と答えた。

 司会の飯島夕雁衆院議員は、「なかなか大変な問題が出てきたが、人の命や死にざまが、お金の面から決められていいのかという指摘が出てきた」と、問題点を整理した。

■「療養病床削減断念」報道を否定

 
議員から厚労省側に対して、「5月24日に『療養病床削減を断念する』という趣旨の報道があったが、これについてどうか」と質問があった。矢田室長は「都道府県がまとめている医療費適正化計画について(報道側が)独自に推計して記事にしたものだと思うが、厚労省にそれについての取材はなかったと聞いている」と答え、国として数値目標を決めた事実はないと、報道内容を否定した。


更新:2008/05/29 19:20     キャリアブレイン

このニュースをメールで送る

ご自身のお名前:


送信元メールアドレス(ご自身):


送信先メールアドレス(相手先):


すべての項目にご記入の上、送信ボタンをクリックしてください。

ようこそゲストさん

※無料会員登録をしていただくと、すべての記事がご覧いただけます。

医療ニュース動画

08/05/23配信

必見!AEDの救命の実際(協力・済生会横浜市東部病院)

最近、駅や学校などで見掛けるAED(自動体外式除細動器)は、急に倒れた人を助けるための医療機器です。いざという時のために、AEDの使い方を学びましょう。