今月13日から15日まで、筋ジストロフィーという難病と生きる若者の姿を描いた「いのち輝かせ」を本紙地域面で連載した。下唇でマウスを動かして日々の思いを五行歌に託す今津泰三さん(33)、電動車椅子サッカーに打ち込む梶山智成さん(20)、売れるTシャツで販路拡大をねらう西坂久己さん(30)。全身の筋肉が失われていく難病を抱えながらも、彼らの姿からは、たとえ寝たきりでも、体が動かなくとも、日々を存分に生きようというたくましさが感じられた。【小坂剛志】
「彼らだってデートもしたいし、小遣いだって稼ぎたいんですよ」
私が筋ジストロフィー患者を取り上げる連載を書こうと思ったのは、国立病院機構松江病院児童指導員・藤崎敏行さん(35)の一言がきっかけだった。筋ジストロフィーの患者が病院内で活動に打ち込んでいるのは知っていたが、どこか「病院内のこと」と考えていた面があった。少なくとも、西坂さんらTシャツを制作しているグループのように「ショップに出しても売れるものを制作したい」と販路拡大を狙う患者たちの姿は新鮮だった。
西坂さんらで構成するTシャツ制作グループ「イースト・ファイブ・ファクトリー」のエースは人工呼吸器をつけ、ベッドから起きあがることができない患者だ。動かせるのは指先だけ。だが、その指先でマウスを操り、繊細な今風のイラストをデザインする。それこそショップで置いていても違和感がないくらいだ。グループを手伝っている藤崎さんにそう指摘すると、「そうでしょう、そうでしょう」と笑顔を見せた。「コラボとかで、ショップに置いてくれないかな」。冗談っぽく言ったが、目は本気そのものだった。
電動車椅子サッカーのチームを作った梶山さんは「チームの後輩を思いやれるようになった」と振り返る。「みんなに車椅子サッカーの楽しさが伝われば。もっと県内でチームを盛り上げたい」と力強く語る。
取材に行った際には、私も電動車椅子に乗ってサッカーに参加させてもらった。ボールをけろうとするが空振りばかり。ボールが転がる方に行こうとしても、違う所へ行ってしまう。梶山さんは笑いながらも、「外部の人と接する機会が少ないから。また来て下さい」と言ってくれた。
青春の日々を病院で過ごす筋ジストロフィー患者たちがいる。ある人は電動車椅子に乗りながら、ある人は病床に横たわりながら。それでも、彼らは自分を表現したいと願っている。外部との接触を望んでいる。連載を読んでくれた人が五行歌のブログを見てみたり、電動車椅子サッカーにボランティアとして参加してくれたり、どこかで彼らが制作したTシャツを買ってくれたらうれしい。今津さんのブログ「日々の五行歌」は、http://shimaumare.cocolog‐nifty.com/blog。Tシャツ購入は、http://east5factory.web.fc2.com/。電動車椅子サッカーへの問い合わせは、藤崎さん(fujisaki@matsue.hosp.go.jp)まで。
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毎日新聞 2008年5月29日 地方版