NHK職員が勤務中に株取引している実態が第三者委員会の調査で分かった。モラルの欠如と管理体制の不備をさらけ出したが、調査協力を拒否した人も多い。これでは三度目の調査が必要だ。
今年一月に発覚したNHK記者ら三人(いずれも懲戒免職処分)による株のインサイダー取引問題で、弁護士らでつくる第三者委員会が行ったNHK職員の株取引に関する調査結果は驚かされる内容だった。
問題発覚直後にNHKが行った内部調査では、勤務中に株取引をしていたというのは三人だけだった。だが、第三者委調査では、勤務時間中に株取引をしたことがある職員が八十一人もいたのだ。
人数が大幅に増えたのは、内部調査がいいかげんだったことの表れだ。職員がまともに対応しなかったのだろう。これだけでも、モラルのなさを示している。
報道機関に身を置く者はさまざまな情報に接することができる。それだけにNHK職員ともなれば株取引には身を慎むべきだが、第三者委の調査では、二〇〇八年一月までの三年間に株取引したというのは千四百四十七人だった。
ある職員は五千百三十七件の取引をしていたという。単純計算で一日七件以上の取引だ。「これでちゃんと仕事はしていたのか」とみられても仕方ない。
ライブドアが捜索を受けた際、同社と業務提携していたフジテレビ株を売って損失を免れた社会部記者もいた。「偶然」と説明したようだが、疑念は消えない。
第三者委調査は内部調査よりも踏み込んだが、まだ不十分だ。
本人や家族名義の株保有を認めた職員のうち九百四十三人が取引履歴照会の協力を拒否したからだ。株保有者の約三分の一が調査から外れた。ほかにも百五十人が株保有の有無すら答えていない。
このままでは、視聴者からは、処分された三人は氷山の一角ではないか、と言われてしまう。
NHKが三人のほかにはインサイダー取引はなかったと宣言するには、拒否職員の協力を取り付け、株取引の全容解明を続けるしかない。
疑惑を晴らし、公共の放送機関として信頼を取り戻すためにも三度目の調査を行うべきだろう。
〇六年には日本経済新聞社の広告担当社員がインサイダー取引で逮捕される事件があった。報道への信頼にかかわる問題が後を絶たない。報道に携わる者はあらためて法令順守を肝に銘じたい。
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