中国政府が四川大地震の緊急支援で、自衛隊派遣を含めた物資輸送協力を日本政府に要請してきた。日本側は、航空自衛隊の航空機派遣を検討している。
これまで防衛交流で自衛隊幹部が訪中したことはあるが、自衛隊の部隊が中国国内に足を踏み入れたことはない。装備した自衛隊の派遣が実現すれば歴史的な出来事となる。戦前の旧日本軍による侵略の歴史から、中国国内に依然として自衛隊に対する強い拒否感があるのは事実だろう。自衛隊の活躍が両国民の信頼醸成につながることを期待したい。
今月、胡錦濤国家主席が中国の元首として10年ぶりに来日した際にまとめた日中共同プレス発表では「(日中)双方はPKO(国連平和維持活動)、災害救援等の分野での協力の可能性を検討していく」とうたわれた。自衛隊の活動が、首脳合意を実現する大きな一歩となるのは間違いない。
自衛隊海外派遣の根拠法は、湾岸戦争後の掃海艇派遣を除いて、PKO協力法、国際緊急援助隊派遣法、インド洋に海上自衛隊を派遣したテロ対策特措法、そして、イラク復興特措法の四つである。今回の派遣は、国際緊急援助隊派遣法に基づくものとなる。
この法律による派遣は過去、99年のトルコ地震、05年のスマトラ沖大地震・津波災害などがあり、自衛隊は空輸や物資支援、医療などで実績を積んできた。四川大地震への支援でも重要な貢献ができるはずだ。
そのためには、まず、中国側が何を求めているかを把握する必要がある。現地は雨期を迎える。大量のテントや毛布、医薬品が候補に挙がっている。他に、地震湖の決壊を防止するための重機の輸送は必要ないのか。事は急を要する。両政府で早急に支援内容を詰めなければならない。
どの国も外国の軍事組織が入国することには神経質になるものだ。そして、中国の閉鎖的な体質は他国以上だ。その中国政府が自衛隊派遣を打診してきたのは、地震被害が予想を大きく上回っているからだろう。日本としてもこの期待に応えなければならない。
近年、アジアでは地震や津波、サイクロンなど大型の災害が相次いでいる。そして、国際的な援助体制づくりが政治課題になっている。アジアにおいて他国の援助で中心を担うのは日中両国だ。自衛隊の中国での支援活動は、今後のアジアで起きた災害に対する両国の共同支援活動の大きな教訓となる。
日中両国は、小泉政権時代の「冷たい関係」を脱却し、今年から防衛交流も始まった。自衛隊の派遣は、儀礼的な交流を超えて、実質的な信頼醸成を一気に進める可能性もある。そして、両国関係の緊密化は、中国が日本をはじめとするアジア諸国と利害を共有する国家として国際社会に登場する環境整備ともなる。
毎日新聞 2008年5月29日 東京朝刊