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2008年5月29日

 ことし二月に金沢で公演された谷崎潤一郎の名作「細雪」は、大阪船場の老舗に生まれた四姉妹の話だった。家を守る長女と妹たちの愛と葛藤(かっとう)が描かれている。婿はいても影が薄かった

廃業に追い込まれた「船場吉兆」も、創業者が息子以外に四人の姉妹にのれん分けをして京都や東京などに店を展開したのが始まりだ。それぞれの女将(おかみ)と婿たちが「吉兆」ブランドを守りながら家業を競いあったのだという

娘に婿を取って家系を継ぐ伝統は大阪の老舗だけではない。相撲部屋の継承もよく知られる。親方の息子を力士にするよりも、才覚ある力士を娘婿にした方が確実に部屋が発展するからだ。実業家にも似たケースが少なくない

「船場吉兆」の不祥事で矢面に立ったのは女将だった。あの「ささやき女将」のキャラクターに、一時は救われたはずで、影の男たちはだらしなかった。伝統的な家系継承の裏表、落とし穴を見た思いだった

姉妹店同士の葛藤もあったろう。自業自得とはいえ、一時は華やかさを競った女系の老舗がはかなく消えて行く姿は「細雪」に似ていて、どこかうら悲しくもある。


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