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【科学】

高カロリーがおいしい理由

2008年5月27日

(1)マウスはうす暗い部屋と明るい部屋を行き来 (2)明るい部屋で油を与える (3)暗い部屋で水を与える (4)油と水を交互に3日間与えると油を求めて明るい部屋にいる時間が長くなる(伏木教授の資料を基に作成)

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 トロ、カルビ、脂肪分たっぷりのアイスクリーム−おいしい食べ物はなぜカロリーが高いの?と恨みにも似た疑問を持つ人も多いのでは。油脂分に富んだ高カロリーの食品が、おいしく感じられる仕組みが科学的に解明され始めた。意外にも“脂ののったうまさ”を感じるのは舌だけではないのだという。 (永井理)

 油脂は精製すると味もにおいもない。なのに油脂分の多い食品がおいしく感じるのはなぜか。科学的な考察はあまりなく、なめらかな食感が加わるためだと考えられていた。

 二〇〇〇年、京都大農学部の伏木亨教授らのグループは、油脂をマウスに与えると三日間で「やみつき」になることを発見し、突破口を開いた。普通の飼料は必要量だけ食べて残すが、油は際限なくなめて肥満してしまったのだ。

■執着の条件

 「食感だけではなさそうだ」。その後の実験で油脂のカロリーが直接に関係することが分かってきた。

 やみつきになったマウスに、コーン油と消化されないカロリーゼロの油を与える。最初は両方を夢中でなめるが、一時間たつとマウスはカロリーのない油をなめなくなった。

 「油脂が消化され、高カロリーかどうかの信号が脳に伝わっている」と考えられる。一時間かけて“片方はカロリーがない”という情報が届いたのだ。

 グループの松村成暢さんらは三月、さらに決定的な結果を発表した。マウスの胃にカロリーの高い油脂や糖質を直接入れ、カロリーのない油脂を与えると今度は飽きずになめ続けた。胃にカロリーが入ることが執着の条件の一つだったのだ。

■油は透明人間

 マウスは油脂の味を感じ、カロリーのあるものと無いものを区別しているようだが、純粋な油脂は人間には無味無臭だ。「人間は、油と共存する味覚成分によって油脂分を認識している。油は透明人間で直接見えない。私たちは、その包帯を見ているようなもの」(伏木教授)という。

 グループはさらに、舌の表面に油脂を感知するCD36、GPR120という受容体があることを突き止めた。これらは味覚を感じる受容体ではない。だがこの受容体が働かないと、やみつき効果が表れないという。

 「味覚の信号と受容体の信号が脳で合わさり、そこにカロリーの信号が加われば、報酬系を刺激する味になるのでは」と伏木教授は推測する。

 報酬系とは、欲求が満たされたとき快感を発生させる脳の仕組みだ。(1)舌の情報(2)胃などのカロリー情報−この二つがそろうと報酬系が刺激され「やみつきになるほどおいしい」という満足感が得られるわけだ。

■だませない胃

 糖分でも油脂と同じことが言えるという。低カロリーの代用油や人工甘味料で「おいしいのに、なにか物足りない感じ」がするのは(2)が満たされないからだという。「口の中はごまかせても、胃まではごまかせません」と伏木教授。

 (2)の情報を出すのが胃などの消化系か、消化後の代謝系かは、今後の研究課題だ。詳しい仕組みが分かれば、口と胃の情報をうまく組み合わせることで、カロリーが低くて満足できる油脂が作れるのではないかという。

<記者のつぶやき> 食事中に仕事の電話が入ると急に味がしなくなる。伏木教授によると、味覚は嗅覚(きゅうかく)に比べセンサーが少なく鈍感で、耳や目からの情報に大きく影響されるという。政財界御用達の料亭と聞けば味は格段にアップする。「やはり地鶏は味わいが違う!」。だまされる人も多いわけだ。

 

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