ああ息子

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ああ息子2・思春期編:毛利甚八さん×西原理恵子さん対談/下

西原理恵子さん(左)と毛利甚八さん
西原理恵子さん(左)と毛利甚八さん

 ◇存在感薄い父親たち

 思春期の子は上手に放っておけばいい。毛利甚八さんの提起は、簡単そうで難しい。なぜなのか。そして、親としてどう生きるべきか。対談はここから佳境--。【司会・潟永秀一郎、まとめ・佐々本浩材、大迫麻記子、写真・馬場理沙】

 ◇ふれあい、手遅れになる前に--毛利/母親は煮詰まったら外に出て--西原

 西原 親子関係って、恋愛に似てませんか。「あんな男、追っても無駄よ」って周りは言ってんのに、お母さんは気付かない。

 毛利 母子は特にそう。こじれてる親子は、親が子のストーカーになっている場合が多い。父親不在で、お母さんは夫への愛情が息子に行くわけです。

 西原 子どもに激高するようになったら、親子関係は煮詰まってます。煮詰まったら仕事でもカラオケでもいいから、外に出た方がいい。そしたら大したことじゃないと分かる。彼氏のことで「あんな人だと思わなかった」って泣いてたら、周りはみんな「いや、ずっとあんなやつだった」って。痴情のもつれと一緒(笑い)。

 --なぜ煮詰まる?

 西原 それは男の言いぐさ。だって子どもに何かあったり、何かしでかすと全部母親のせいだもん。私、今までいろんな仕事をしてきたけど、専業主婦が一番きついですよ。24時間365日働いて、ほめられない、休みはない、給料もない。それで子どもと共依存して、共倒れしちゃう。

 --毛利さんは少年院を回っていらっしゃいますが、非行に走る子はどうなんですか。

 毛利 僕は別に彼らの内面に入るわけじゃないので、少年院に出入りして分かることはただ一つ。「ほかの子と全く変わらない」ということだけ。少年院にいる子は特別だとか、みんなそう思ってると思うけど、それはないですねえ。

 --両親と言いますが、子育てに関してはお父さんの存在感って希薄ですよねえ。

 西原 みんな、どんな男も「家のことやっている」って言うけど、女性に聞くと1%もやってないって。

 毛利 非行で悩んでいるお父さんの多くは、思春期に突然子育てに介入している。子どもはもう親を突き放しているのに、そんな時に入ってきても、もう遅い。3~7歳の、父親ってダメなやつって分かる前の時期にコミュニケーションを取っておかなきゃ。

 --思春期に介入するのは、受験という理由もあるようです。

 毛利 僕はどうしてみんな何かのコースに乗って、未来を確定しようとするのかよく分からない。みんな、この学校に行ってこう頑張ると、いい大学を出ていい就職して、とか。そういうコースを漠然と思ってて、外れそうになるとギョッとする。

 西原 女性の結婚と同じですよね。花嫁修業のために自分を磨くけど、結婚した後のことって空白なの。すごくいい生活ができるかもしれないけど、そこで地獄が待ってたりする。すごく危険なカケなんですよ。それと同じことだと思うんです。いい大学を出た後に何が待ってるのか。

 毛利 日本のサラリーマンって、自己肯定できない人が多いでしょ。親が楽しそうだったら、「40歳になっても楽しく生きられるんだ」って最大のメッセージでしょ。なのに親が自分の身をすり減らして「今頑張れば未来は明るい」なんて言いながら、電車に乗っている大人は皆、楽しくなさそうなわけよ。これはかなり大きな問題だと僕は思う。

 西原 働き盛りの自殺者って異常な数。年間3万人前後と言われてる。交通事故死が年間5000人台だよ。そんな競争社会に、早々と子どもを放り込む怖さを思いますね。

 毛利 そう、未来なんて分からないのに、未来の予約を親が一生懸命して、子どもも一生懸命なんだけど、ある日「あなたはこのコースから外れました」って言われる。で、髪を染めたり、引きこもったり。予約できない今の苦しみを子どもが表現しようとして、表現したときに親がまたあわてふためく。今トップのところにいけば、人生安泰という幻想を抱いて、予約行為をしてるでしょ。

 西原 ただ、今の子に「22歳までに一生をかけられるものを見つけろ」というのも、酷かもしれない。自分で人生切り開けと言っても、ひもじい思いをしてないと必死になれない。そんな思いをさせたくなくて、親は頑張ってひもじい思いさせてないのに。とりあえず参考書を開くしか思いつかないんだもん。

 だから私、やりたいことが見つからない子には「人に感謝される仕事っていいよ」って言うの。人に「ありがとう」って言われるのって、生きていくのに快適だよって。生まれて20年くらいでやりたいことなんて分かんないって。「12歳の文学賞」の審査員やっているけど、ぐちゃぐちゃ悩んでいるのよ、みんな。30年前の自分を思い出したよ。子どもたちって変わらないんだなあって思った。

 毛利 子どもは思春期に「俺(おれ)はなんで生まれてきたのか」っていうようなことに出合う。命令が多すぎてコンピューターがフリーズするのと似ている。これを周りが直そうとすると、こじれるんですよ。黙っていても、頭の中はめまぐるしく演算をしている。それが終わるまで待ってやらないと、大人になれない。僕が「ぼんやりさせてほしい」と言うのは、そのことなんです。子どもが未完成で何で悪いの。いいじゃん、20歳くらいまでぼんやりしてぐちゃぐちゃしててもさ。大人もそうしてきたはずなのに、忙しく塾やスポーツさせて、どうして黙って見てやれないんだろう。

 --親に余裕がない?

 西原 どんな恋人同士だってずっと2人きりだったら最後は大げんかですよ。家の中でお母さんが朝から怒ってると、すごい嫌じゃないですか。何でおふくろ、こんな目覚まし時計みたいに7時半から怒ってるんだろうって(笑い)。それは2人きりだから。もし自分が子育てに迷ってて家で子どもと2人きりのお母さんだったら、ちょっと深呼吸。外に出てね。子どもだって、ずっと一緒にいたらたまんないんですよ。

 --お父さんは?

 毛利 思春期には、子どもは親を軽蔑(けいべつ)してナンボ。親を嫌いにならないと、自我なんてできない。「俺はこういう人だよ」はいいけど、「お前はこうしろ」というメッセージはやめた方がいい。それから、ボーッとして見えるとき、子どもはとても大切なことをしている。誰よりもそれを理解して、大切にしてあげてほしいなあ。

    ◇

 「毎日かあさん」は20日、西原理恵子さん思い出の地「タイ」編で再開します。

毎日新聞 2008年4月13日 東京朝刊

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