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Speaking:そこが聞きたい 奈良県医師会長・塩見俊次さん /奈良

 ◇医師の偏在と不足、綱渡りの医療続く--患者との信頼関係取り戻す

 医師不足や産科・小児科医師の疲弊、後期高齢者医療の問題など、安心が求められるはずの医療への不安が広がっている。現場の医師は問題をどう受け止め、考えているのか--。今年3月に奈良県医師会長に就任した塩見俊次さん(58)に考えを聴いた。【上野宏人】

 ◇制度の改善求めたい

 --後期高齢者医療制度が不評ですが、反対ですか。

 塩見さん 今のまま続けるのは反対です。しかし、制度は動き始めていますから改善を求めたいと思います。私は整形外科医で、高齢の人も多く来られます。74歳でも75歳でも病気が同じなら同じ治療が必要で、年齢によって差をつけてはなりません。それに、懸命に働いてきた高齢者に急な制度の変更で「永遠に保険料を負担せよ」と言うのはどうでしょう。もし私が制度設計するのなら、すべての保険を一元化し、保険料の負担は年齢に上限を設け、それまでは収入に応じた負担とします。さらなる国庫負担も必要です。

 --今後の高齢者医療についての基本的な考え方は。

 塩見さん 医師1人で患者のすべてを診ることが本当にいいことかどうか。テレビのDr・コトーのような医師はまずいないでしょう。地域の開業医や病院が連携し望む医療が受けられる状況にしないといけません。

 --しかし、診療科がそろっていない地域もある。

 塩見さん それを改善するのは行政の主導と医師会の協力です。ほとんどの地域はカバーできると思います。また、大学が果たしていた医師の供給機能は、新医師臨床研修制度によりうまく働かなくなってしまいました。システムの再構築が必要です。

 --小児科医の疲弊も総じてひどいと聞きます。

 塩見さん 使命感で頑張っていますが、いつか崩れます。地域で連携を取り合ったり、一つの病院に医師を集中させるといった方法もあるでしょう。兵庫県立柏原(かいばら)病院では、小児科を守ろうという市民グループができ(便利だからと休日・夜間の救急医療を利用する)コンビニ受診を減らした。医療を守る良い事例だといえます。

 --勤務医は過酷、開業医は比較的そうでもないといわれがちなことについては。

 塩見さん それは当たっていない。開業医と勤務医とは、いわば“町の小さな工場の社長と大企業の社員”のようなもので、仕事内容、責任の重さ、交代の有無など異なる事情が多いのです。なお、よく誤解されますが、医師会は開業医の団体ではありません。県医師会員の半数は勤務医です。

 ◇不幸な事例一つでも減らさないと

 --奈良県では町立大淀病院の妊婦死亡や、橿原市の妊婦が昨年死産しました。周産期医療問題のこの間の展開については、どう評価されますか。

 塩見さん 医師の偏在と不足にかかる問題で解決は難しいですが、患者さんにとっては気の毒な事態で、こうした不幸な事例は一つでも減らさないといけません。この問題以前から、綱渡りの状態が続いており、現場の医師は「いつ、どの科で事故が起きてもおかしくない」と思っていました。制度の改善が進まない中、奈良県で2件続き、実態が広く知られるきっかけになりました。

 --県立医大には総合周産期母子医療センターが開設され、夜間・休日の産婦人科1次救急を輪番で対応する在宅当番医制も始まりました。

 塩見さん 当番医制は今は全県一つですが、動きは広がっていくと思います。開業医が自分の患者を抱える中で全体に協力する難しさはありますが、それこそ使命感だと思います。産科に限らず、こういう協力態勢がとれればいい。

 --残る課題というと。

 塩見さん 救急も人手不足です。この態勢が続く限り問題はなくならないでしょう。例えば、2次救急でも夜中に手術できるだけの麻酔科医や看護師らが足りません。消防のように常時安心できるシステムは医療にも必要です。

 --医師会としての取り組む姿勢を聞きたいと思います。

 塩見さん 医師は今から養成しても役立つのは5年、10年先。今ある人的資源をどう活用するかです。私案ですが、開業医はほとんど勤務医を経験し技術、知識がありますので、人手不足の病院の応援要請を受けて出向き、手伝える体制が組めれば。病院は設備はあっても人がいない。逆に開業医は設備がありません。ハードルはありますが、うまくマッチングさせれば改善されると思います。

 --越えないといけないハードルといいますと。

 塩見さん 病院を部外者の開業医が利用して事故があった際の問題です。医療事故はいつ起こるか分かりません。その責任体制をどこでどうカバーするかが大きな山でしょうね。

 --訴訟リスクが医療現場の委縮につながる点が指摘されていますね。

 塩見さん 医療の専門家と警察などの見方には違いがあります。もともと危険があったやむを得ない事故に対し刑事罰を与えることがないように、専門職を入れた第三者的なシステムが必要です。

 --医師会会長に就任しての一言を。

 塩見さん 患者との信頼関係をどう取り戻すかが一番大きな命題です。今のままではだめ。患者を治療して喜んでもらう喜びを大切にしたい。話をする機会があれば、どこへでも行くつもりです。

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 ■人物略歴

 ◇しおみ・しゅんじ

 1949年、大阪市生まれ。74年、奈良県立医科大学卒。県立五條病院整形外科部長などを経て、91年、橿原整形外科クリニックを開設した。98年に県医師会理事、04年に同副会長。08年3月、県医師会(開業医など1058人、勤務医971人ら会員計2042人)会長に就任した。同4月、日本医師会理事。奈良市在住。

毎日新聞 2008年5月28日 地方版

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