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医を創る〜広島から〜

【救急】

3 小児電話相談で混雑解消

2008年05月27日

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電話相談は「0・5次救急」と話す桑原正彦さん=広島市安佐南区

 救急患者が一部の病院に集中し、診断や治療に時間がかかる問題の解決策の一つは、軽症患者が受診を控えることとされている。だが、幼い子どもが急病になった場合、判断が難しい。今行くべきか、明日まで待ってよいか――。迷いが生じた時に小児科医らが助言を与えてくれる電話相談「#8000」は、広島で始まり全国に広がっている。親たちも、医師や病院に頼るばかりではいけないと動き始めた。(辻外記子)

 電話相談を提唱した県小児科医会の桑原正彦会長(71)に経緯や課題を聞いた。

 ――どうして電話相談を始めたのですか

 子どもの具合が急に悪くなったとき、今すぐ病院に連れて行くべきか明日まで待っても大丈夫か。見極めは難しい。特に救急病院にたどり着くまで時間がかかる中山間地域や離島に住む親たちにとって、小児科医や看護師の助言があったら役立つのではないか。同時に、都市部の救急病院の混雑を少しでも減らすことができるのではと思い提案した。小児科医が少ない地域でも、平等な機会を得られる安心ネットになると考えました。02年9月、県内の小児科医の協力によって始まりました。当時は厚生労働省の科学研究事業で土日曜の午後7〜11時に実施。05年4月から同7〜10時に、06年4月以降は看護師にも相談員になってもらい、毎日実施している。

 ――どのような助言をするのですか

 年齢や症状、普段と様子が違う点を聞く。内容を「聴き取り票」に書き、重症かどうか推定する。全体の約4割を占める「発熱」の相談の場合、生後3カ月未満ならばすぐに病院へ。3カ月以上では8度5分より高熱だとか、嘔吐(おう・と)や下痢など他の症状があればすぐに受診を勧める。熟練の医師でも判断は簡単ではない。私たちは、聞き取り手法や重症かどうかの鑑別法、軽症患者への初期対応の方法などを研究し、03年に電話相談対応マニュアルを作った。

 ――助言後、相談者はどうしたのでしょうか

 02年9月から03年12月までに受けた相談は2883件。そのうち696件についてはがきによる追跡調査ができた。「翌日の昼間にかかりつけ医に行った」のが45%、「受診する必要がなかった」が23%、「すぐに救急病院に行った」21%、「救急車を呼んだ」0・9%だった。今後も電話相談を利用したいか聞くと「大いに利用したい」50%、「利用したい」40%と満足度は高かった。電話相談は、軽症を主に診る「初期救急」の一歩前の「0・5次救急」となりうると感じた。

 ――今後の課題は

 1回の相談時間は約7分。電話をしても話し中ということがある。全国でみれば、未実施が4県あり、土日のみの実施というところもある。地域間格差をなくし、24時間365日対応できる全国センターが求められる。
 ただ、知ってほしいのは電話相談では治療はできないこと。行動するのはあくまで保護者。近頃は「普段とどう違うのですか」と聞いても「わかりません」と答えるお母さんが増えるなど、家庭の看護力が落ちているようだ。医師を頼りにしてくれるのはありがたいが、まずは自ら子を守る姿勢を持ってほしい。普段から幅広く相談できるかかりつけ医を持つことも大事だ。

《取材後記》
 「肩こりがひどくて」というお年寄りが重症の心筋梗塞(こう・そく)だったというような例もたくさんあると知った。不安だから病院に来たという、患者やその親を責めるだけでは何も解決しない。不安を解消するために、行政ができること、住民がすべきことがある。電話相談も親の会も発展途上だが、その進化を応援したい。救急搬送を断らざるを得ない事態をなくすため、今後もさまざまな動きを追いかけていきたい。

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