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企画特集4

【夕張再建 2年目の危機】

(2)医師の怒り

2008年05月27日

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老朽化が激しく、維持管理に膨大な費用がかかる診療所=夕張市

■医療対策 切迫感なく

 171床あった旧夕張市立総合病院を、19床の公設民営診療所として引き継いだ夕張医療センター。その理事長、村上智彦医師が激怒したのは5月初めの連休明け間もないころだった。

 経営難のセンター救済策として、道と市の幹部が「診療報酬を担保に金融機関から融資を受けてしのごう」という案を検討中、と耳にした時のこと。東京の医療勉強会のメンバーからの情報だった。すぐに道庁筋や市幹部に確認したところ、事実と分かった。

   ■   ■

 1年前の春、予防・在宅医療を中心にした地域医療の理想を夕張で実現しようとしていた村上医師の思いと、財政破綻(はたん)の街でも住民の命と健康を保障する中核的医療施設は守ろうという当時の総務省、道、市の幹部の考えは一致していたはずだった。

 だが何カ月もたたないうちに旧病院時代の建物の老朽化のひどさや、医療機器を含む施設の修繕費増加などで予想外の出費を強いられた。1年を経て光熱水費だけで5千万円近く、全収入の12%を占めることが明らかになった。

 旧市立病院の経営の問題点を洗い出した前病院経営アドバイザー伊関友伸・城西大准教授は「(この1年の)延べ患者数も3千人近くになり、医療経営は順調。老朽施設への出費がなければ黒字になっている」と分析した。

 「夕張に来てもらう以上、できる限りの支援をする」と約束したはずの市幹部は退職してもういない。村上医師らは市に何度も「約束を守って医療ができる条件を整えてほしい」と訴え、4月からは資金ショートの可能性も示唆し続けた。

 「その回答が、医療機関にとって生命線の診療報酬を担保に出せ、ですよ」。村上医師ら幹部は夕張撤退も視野に入れた対応を考えざるを得なくなったという。

 その後、総務省の指導や藤倉肇市長の決断もあって、この案は撤回され、道や市は新たに2700万円を上限とする補助金での支援策に転換していった。

   ■   ■

 「そんな話は聞いていない」「新聞情報が先行するのはいかがなものか」。市が何か始める時、市議らは自分が知る前に報道されると、そんな不満をよく口にする。この補助金支援策が報道された際にも議会常任委員会などで同種の声があがった。

 同市では住宅家賃の滞納総額や学校統合方針案など、市民に即座に情報公開すべきようなことであっても、記者の取材に「議会に報告するまで待ってほしい」とびくびくする職員さえいる。

 新聞は毎日出ているが、議会は毎日開かれているわけではない。有権者と市政の架け橋にならなければいけない議員が先に報道されるとメンツをつぶされたように思うのは、「市民より自分たちが上と思っている旧態依然の議員感覚ではないか」と、森啓・前北海学園大教授(自治体学)は指摘する。「市民が直面している事態への危機感が議会には見られない。議会と市民の対話集会も実現していない。議会は市民から見放されてしまう」と心配する。

 市に問われているのは、財政破綻の中でどんな地域医療の体系を構築していくのかというビジョンだ。議会も「聞いていない」などと行政を批判するだけはなく、積極的にビジョンを提言する力量が問われている。

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