東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社説・コラム > 社説一覧 > 記事

ここから本文

【社説】

『同意ルール』 報道を規制する不見識

2008年5月28日

 国会同意が必要な政府人事案の提示が一部見送られた。事前報道があったのはけしからんと議会側が拒否したためだ。報道の自由を揺るがす愚、との自覚はあるか。言論の府に不見識は似合わない。

 政府は二十七日午前、日銀審議委員、預金保険機構理事長の二ポストを含む九機関二十五ポストについて、衆参両院の合同代表者会議に提示する段取りだった。

 しかし、二ポストの人事案が事前に報じられたことに、参院の西岡武夫議院運営委員長が反発。衆院の笹川尭議運委員長らと協議した結果、残りの人事案を午後の代表者会議に提示するにとどまった。見送った人事案については差し替えを求めていくという。理解に苦しむ対応だ。

 衆参がねじれ状況になったことで、同意人事は重みを増した。一般の法案と違って、衆院での再可決は認められず、衆参両院での同意がないと、内閣が任命できないからだ。このため、与党だけに事前説明していたのを改め、野党にも一緒に提示するとした新ルールで各党は昨秋合意した。

 問題は、事前に報道された場合は原則として提示を受け付けない、との項目が合意に盛り込まれたことだ。事前報道されれば、既成事実化してしまい、国会の同意が形骸(けいがい)化しかねないというのが、こだわった西岡氏らの主張だった。

 行政組織の重要人事には政権の運営を特徴付ける要素がある。かねて政府側は情報をリークすることで、与党内調整の地ならしをするきらいもあった。

 その点では西岡氏の言い分も分からないではない。

 しかし、その信ぴょう性も含め情報の精度を高め、迅速に読者に提供するのがメディアの責務だ。自由な報道を封じ込めるようなルールには所詮(しょせん)無理がある。

 西岡氏は記者会見で「明らかに政府筋から事前に情報が漏れたと判断した」と語った。笹川氏も自民党役員連絡会で「政府は自重してほしい」と注意を促した。

 ちょっと違うのではないか。情報が先に漏れようが漏れまいが、同意・不同意の権限は国会にある。求められるのは、人事案が適正かどうか慎重に吟味することだろう。西岡、笹川両氏はその責任ある立場にいるのだ。

 不見識なルールは改めるべきだ。そうでないと、混乱が今後も起きる。こんなことで国政の停滞を招いては、その代償は計り知れない。与野党が早急に知恵を出す時だろう。

 

この記事を印刷する