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社説:球界薬物汚染 違反の摘発は「くじ頼み」か

 昨年度からドーピング(禁止薬物使用)検査を本格導入したプロ野球で、2人目の違反者が出た。日本プロ野球組織(NPB)は26日、巨人のルイス・ゴンザレス選手の尿から禁止薬物が検出されたとしてゴンザレス選手を1年間の公式戦出場停止処分にした。

 検出されたのは、いずれも興奮作用があるとして禁止薬物に指定されている3種類の薬物だった。これらは以前、大リーガーの間でまん延していると指摘された通称「グリーニー」と呼ばれる興奮剤を使用したときに特徴的に検出される薬物だという。

 昨年8月、禁止薬物が含まれた発毛剤を飲用したソフトバンクの外国人選手がドーピング違反で20日間の出場停止処分を受けた。だが、今回検出された薬物の反社会性はより悪質だと認定、重い処分となった。

 ドーピング違反は反スポーツ的な行為で、青少年へ悪影響を及ぼすことは改めて述べるまでもない。さらに、プロ野球のように記録を重視する世界では、偉大な記録の価値を失わせ、尊厳を損なうことにもつながりかねない。

 昨年、大リーグでバリー・ボンズ選手が通算最多本塁打記録を樹立しながら、薬物疑惑のため全米の野球ファンからは冷たい視線を浴びせられた。こうした不幸な記録を日本で生まないためにも、NPBには厳格なドーピング検査の実施と運用が求められる。

 その観点から、NPBと球団にはいくつかの注文をしなければならない。

 まず、検査の徹底だ。ゴンザレス選手はくじ引きの結果、他の3選手とともに検査対象になったという。くじからはずれていたら、今回の違反も発覚しなかったということだろう。

 昨年1年間、NPBが実施したドーピング検査の検体数は134。全プロ野球選手の2割にも満たない。1軍選手全員、あるいは一定額以上の年俸の選手は全員、検査を受けるように改めるべきだ。

 1検体当たり数万円の検査費用がかさみすぎるというのは資金の乏しいアマチュア競技ならいざ知らず、メジャースポーツのプロ野球では通用しない。プロ野球の「尊厳」を守るための必要な経費と考えれば高すぎることはあるまい。

 ゴンザレス選手に即日、解雇の方針を伝えた巨人の対応も疑問だ。

 ゴンザレス選手はNPBと球団の事情聴取に禁止薬物の摂取を否定しているという。求められるのは真相の解明だ。なぜ禁止薬物が検出されたのか、不正な薬物なら入手経路はどうしたのか。解明すべきことは山ほどある。解雇はいつでもできる。疑わしきは追放、では疑惑にふたをするに等しい。

 今回の薬物違反を12球団共有の教訓として今後に生かさなければならない。その場しのぎの対応ではファンの信頼を得られまい。

毎日新聞 2008年5月28日 東京朝刊

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