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2008年05月28日(水曜日)付

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ミャンマー被災―支援の窓は開いたのか

 軍事政権の厚い壁に、人道支援の窓は本当に開いたのだろうか。

 13万人以上の死者・行方不明者を出したミャンマー(ビルマ)のサイクロンから3週間以上たったところで、ようやく軍事政権は外国からの援助要員の受け入れを表明した。

 被災者は250万人にのぼると推計されている。雨期に入った現地ではコレラが発生した。このままでは赤痢やマラリアなども広がる恐れがある。遅すぎたとはいえ、これ以上の「二次災害」を防ぐため、一刻も早く支援が行き渡ることをのぞみたい。

 国連と東南アジア諸国連合(ASEAN)が共催して、異例の支援国会合を実現させた。その前に、国連の潘基文(パン・ギムン)事務総長が自ら現地入りし、軍政トップのタン・シュエ議長を説得した。その努力を評価したい。

 自国が大地震で被災した中国も、国際支援を受け入れるよう、軍政に促したようだ。日本からも国際緊急援助隊の調査チームが現地入りした。アジア諸国が軸となって、積極的な人道外交を展開してほしい。

 ただ、軍政は人命優先へ本当に姿勢を転換したのだろうか。残念ながら、そうは思えない。

 支援会合で軍政側は「緊急支援の段階は終わった」と宣言して、農漁業の再建や電力設備など復興の支援を求めた。被災支援が終わったとは、とても信じられない。被災地では、飢えた子供たちが道を通る車に追いすがって食料を求めているという。被災者の4分の1にしか支援物資が届いていないと、国連も推計している。

 まず、国際機関の専門チームが被災地へ自由に入り、被害の実情と必要な援助について正確に把握することが先決だ。しかし軍政は支援会合の後も、被災地への立ち入りは一部の要員にしか認めていないようだ。

 外国の援助要員についても「政治的意図の絡まない人道目的」と条件をつけ、「受け入れは我が国の優先順位に基づいて決める」としている。

 しかし、これまで政治的意図を優先させてきたのは軍政の方ではないか。被災者の救援を後回しにし、新憲法草案への国民投票を強行した。

 今回、潘事務総長が軟禁中の民主化指導者アウン・サン・スー・チーさんの解放にあえて触れなかったのは、人道支援の実現を最優先にしたからだ。

 人道支援は本来、政治と切り離して行うべきものだ。援助する側だけでなく、受ける側も守るべきルールだ。

 それなのに、軍政はスー・チーさんの軟禁延長を通告した。世界が人道支援へ動こうとしているときに、なんとも腹立たしいことだ。

 いまの段階では、被災者の支援を優先し、あらゆる救援を受け入れるよう軍政に迫るしかないことが悔しい。

消費者庁―首相は各省を説き伏せよ

 人はだれでも消費者であり、生活者だ。そこを基本に行政を進めようという福田首相肝いりの「消費者庁」が、具体化へ向けて動き出している。

 どんな組織をめざすのか。有識者でつくる政府の消費者行政推進会議が、その青写真を示した。

 人々の安全や安心にかかわる問題を幅広く担当する。各省庁が扱う法律のうち、消費者にとって身近なものは消費者庁の受け持ちに変え、必要があれば他の役所に勧告もする――。

 権限と責任を持った「消費者行政の司令塔」というイメージである。

 これまで多くの省庁は、産業の振興や業界の育成に軸足を置いてきた。消費者を守る部門があっても、分野ごとに担当する役所が違うから、国民にとっては、どこに相談すればいいのかわかりにくい。役所同士の連携も不十分で、縦割りのすき間に落ちてしまい、対応が遅れるケースもある。

 そうしたお粗末な態勢が浮き彫りになったのは、家庭用器具による事故や食品の偽装、冷凍ギョーザ事件をめぐる役所の対応の不手際だった。

 消費者行政の窓口を一本化し、必要な権限を集められれば、人々の生命や暮らしを守るのに大いに役立つ。消費者庁をつくることを支持したい。

 だが、霞が関の動きや地方の現状を考えると、気がかりな点がある。

 まず、青写真に描いた通りに、各省庁から法律や権限、それに伴う職員を引きはがし、消費者庁に移せるかどうかである。

 これに対しては、案の定、権限や職員を奪われることになる役所が抵抗している。消費者庁への移管が議論されている割賦販売法や日本農林規格(JAS)法、貸金業法など約30の法律のうち、省庁側が移してもいいと言っているのはまだ一部にすぎない。

 法律や権限の移管が中途半端なものになれば、消費者庁をつくっても満足には機能しない。ここは提唱者の福田首相が今こそ正念場と考えて、自ら関係閣僚を説き伏せるしかない。

 二つめの懸念は、消費者と直接向き合っている地方の窓口が、財政難の中で軒並み弱体化していることだ。

 昨年度の都道府県の消費者行政の予算は約10年前の半分に減った。担当する職員が減らされた地域もある。これを立て直さない限り、消費者を守る機動的な仕組みはつくれない。地方に任せるだけでなく、政府による財政的な支えを考えるべきだ。

 まず消費者ありきの行政、という考え方では、民主党も違いはない。与野党が知恵を出し合い、機能しやすい組織をめざしてもらいたい。

 大事なのは、立派な役所をもう一つつくることではない。消費者の視点に立った行政へと、霞が関の発想を変えていくことである。

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