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2008年5月28日

◎多言語メニュー 官民で普及に本腰入れたい

 小松―台北定期便の六月就航を機に「滞在型」観光を推進するため、金沢市は多言語の 飲食メニューの普及策を検討するという。多言語メニューは国際観光都市の必需品ともいえ、官民一体で普及に本腰を入れたい。

 台湾などからの滞在型観光客の増加は富山県も力を入れているところであり、小松―台 北定期便の開設は石川、富山両県が連携を強めて北陸の広域観光を進める好機でもある。そのために必要な共通のソフトインフラとしても、両県で多言語メニューを充実させることが望ましい。

 兼六園を訪れる台湾からの観光客は年間約七万九千人に上る。しかし、金沢市内での宿 泊は昨年で四万人強にとどまり、同市には不満の残る状況になっている。多くの宿泊客を逃す結果になっている原因をさらに分析する必要があるが、滞在型観光の推進に欠かせないのは、外国人旅行者が安心して一人歩きも楽しめる環境にすることである。

 金沢観光の魅力の一つはまさに、そぞろ歩きが楽しめるところであり、そのために必要 な外国語表記の案内標識やネット上の情報提供などは積極的に進められている。ところが、一般の飲食店の国際化対応は遅れており、外国語のメニューを備えているところはまだ少ないという。

 言葉が通じない外国で食事のメニューを理解し、注文をする苦労は海外旅行で多くの人 が経験することである。飲食時の負担と不安を軽減することは、外国人観光客の滞在を促すのに欠かせない条件といってよい。そうした認識から、自治体の観光政策として多言語メニューを普及させる取り組みも本格化し始めている。

 例えば京都市は一昨年、市観光協会や商工会議所と共同で「メニュー多言語化推進事務 局」を設置し、パソコンなどを活用して飲食店の外国語メニューの作成を支援している。従業員らを対象に、外国人観光客の「もてなしセミナー」も開催しているという。

 飲食店の多言語メニューは、まさにもてなしの心を一つの形にしたものであり、おろそ かにできないと心得たい。

◎後期高齢者医療制度 きめ細かな抑制策も要る

 政府・与党は高齢者層の支持離れを食い止めるために躍起になって運用改善を打ち出し 、野党はここぞとばかり廃止法案を参院に提出するなど、後期高齢者医療制度は政争の具にされてしまった。国民の間からもさまざまな意見が出ており、その中の一つに、個々人が無駄な医療費を使わないようにする「きめ細かな合理的配慮」ともいうべき抑制策がセットされていないとの指摘があるのに気がついた。高齢者に対する新しい制度だけでなく、医療保険制度全般についてもあてはまる卓見ではないか。

 新しい制度は、いずれ高齢化する団塊の世代対策として考えついたものといわれる。保 険料の天引きで負担を感じてもらえば、やみくもに医師にかかるようなことにブレーキがかかるとの思惑もあったようだ。

 保険料の天引きで、所得などを配慮することになったが、天引き制度は無駄な医療のブ レーキになるだろうか。お金のない人は天引きがこたえるから不満を持つし、お金のある人は気休めもあってこれまで通り無駄な医療を続けそうである。

 何事にせよ、個々人が負担を感じる仕組みを制度にはめ込まない限り、ブレーキがかか らないのが現実だろう。きめ細かな合理的配慮に基づく抑制策が制度にセットされていないとの指摘はそういう意味のように思われるのだ。

 日本では経済的理由で手遅れになるまで病気を我慢するようなことはほとんどなくなっ た。国民皆保険のおかげである。このこと自体は大変よいことなのだが、その半面、自分の懐が痛まない限り、たいした病気でないのに暇があるから医師通いということになりやすい。救急車に運ばれる何割かが急を要しない疾患ということも起きている。

 福祉が当たり前になって、それへの感謝が失われたことも医療費増大につながった。そ れは今や、福祉国家の共通の悩みともいえるようになった。非常に難しいことではあるが、腰を据えて医療費増大のブレーキはどうあるべきかを考えるときにきたのだ。


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