2008年04月29日 更新
【柔道】首には金!康生、大逆転北京切符へ全日本Vが絶対条件
大逆転にかける。康生が完全燃焼して、五輪切符を手にしてみせる(撮影・浅野直哉)
体重無差別で柔道日本一を争う全日本選手権(東京・日本武道館)は29日、8月の北京五輪柔道男子100キロ超級代表の最終選考会を兼ねて行われる。負ければ現役最終戦と位置づける井上康生(29)=綜合警備保障=は、夫人のタレント東原亜希さん(25)が選んだ金色のストライプ柄のネクタイ姿で登場。五輪での「金メダル」の願いを胸に、大逆転での代表獲得を狙う。
◇
突き抜けた。おそれもなければ、気負いもない。覇権を争うライバル棟田、石井、鈴木3人と並んだ会見の席上、井上は最後まで穏やかな表情を崩さなかった。現役最後の五輪最終選考会。前日会見の空気でさえ、大切に味わっているかのようだった。
「戦うしかない。(今年で現役)最後と決めた以上、(来年以降)この場所に戻ってこられないという思いはある。あしたという日を大切にやりたい」
東海大相模高3年だった96年に初めて全日本の舞台に立ってから、12年。北京五輪出場を逃せば、現役最後の柔道着姿にもなる。畳に向かう通路は、戻ることができない“一方通行”だ。
五輪、世界選手権と頂点を極めた男の集大成。所属する会社からは、昨年の約3割増となる130人の社員が応援に駆けつける。同僚で五輪代表に決まった女子78キロ超級の塚田真希(26)、78キロ級の中沢さえ(24)もスタンドから、康生の北京行きを祈る。
そして5歳で柔道を始めたときからの師匠でもある父・明さん(60)、1月に入籍した夫人の亜希さんも…。家族、同僚の視線と声援が、完全燃焼への起爆剤となるのだ。
同居する父は「やってきたことをすべて出して、自分の力を思う存分出してこい!」と送り出した。妻は、この日の会見で着用したネクタイに思いをよせた。「暗い色より明るい色で行きなさい」と、金と黄色、赤のストライプ柄のネクタイを選んでくれた。アテネ五輪で逃した五輪の金メダル。再び闘志を燃え立たせて…。亜希さんの痛切な願いが込められた。
「(29歳まで続けたのは)柔道が好きだったんだと思いますし、気持ちは高まっています」
優勝でしか見えてこない北京の空は、いまは視界にない。ただ、目の前の相手を倒すだけ。父と妻、愛する家族の思いを背負い、畳に立つ。
(周伝進之亮)
■100キロ超級五輪代表選考
最も重視されるのは外国人選手に対する戦いぶり。この点で、昨秋の世界選手権無差別級と2月のドイツ国際を制した棟田康幸(27)=警視庁=がリードしている。石井慧(21)=国士大=は昨年末の嘉納杯東京国際と2月のオーストリア国際で優勝したが、けがで今月上旬の全日本選抜体重別選手権を欠場。全日本選手権は結果と内容が求められる。3番手は1月のグルジア国際で優勝した高井洋平(25)=旭化成。井上は世界選手権とフランス国際で敗れたことが大きなマイナス。全日本選抜体重別に続いて最終選考会の今大会を制しても、代表選出は微妙となっている。
■全日本選手権
体重無差別で行われ、「柔道日本一」を決める大会。第1回大会は1948(昭和23)年に開催され、毎年4月29日に日本武道館で開かれる。出場者は全国の各地区を勝ち抜いた代表のほか、主催者による推薦枠がある。今大会は地区代表35人と、前年優勝者の鈴木桂治、準優勝の石井慧、07年世界選手権優勝の棟田康幸が推薦で出場する
★順当にいけば…準々決勝で高井、準決勝で桂治と対戦
五輪代表争いで、厳しい状況に追い込まれている康生。順当に勝ち進めば、準々決勝で高井、準決勝で鈴木との対戦が見込まれる。代表争いでライバルとなる石井、棟田は逆ブロックで、2人が順当に勝ち上がれば準決勝で対戦する。
★前売り券は即売り切れ
大会を主催する講道館と全柔連関係者は「こんなに反響が大きいのは初めて。(井上)康生の人気でしょう」と、その存在感に驚く。会場の日本武道館は約1万3000人収容で前売り券は発売後すぐに売り切れ、当日券はわずか。取材を申請した報道陣は約250人という。康生が、五輪代表争いに競技人生をかけて挑む構図は話題十分。
康生(右)に立ちはだかるライバルたち。左から鈴木、棟田、石井
★棟田「相手より自分」
棟田康幸(警視庁)はこの大会、2位が最高で優勝はない。「自分にとって五輪や世界選手権より位置付けが高い。自分の柔道を出す」と気合十分。現時点では五輪代表争いをリード。それでも、「選ばれなかったら、選ばれなかっただけのこと。当日のことしか考えていない」と、優勝へのこだわりを口にした。全日本選抜体重別選手権では準決勝で井上に敗れている。井上への対策は「とくにない。相手のことより自分のこと」と平常心を保つ。
★石井が絶好調宣言
全日本選抜体重別選手権を臀(でん)部のけがで欠場した石井慧(国士大)は、「五輪切符が頭にあったし、出られなくなったときには、学校の屋上のフェンスに上りました。死ぬか生きるかしかないと考え、心を入れ直した」と“自殺未遂”の心境を告白した。そこから開き直って練習に取り組み、「今は絶好調です」と言い切る。五輪代表レースでは棟田を追う存在で、今大会は優勝が最低条件。一昨年に19歳4カ月の史上最年少で全日本を制した男は「内容は考えていない。優勝だけを考えている」と、結果を求める。
★鈴木桂治「全員倒す」
大会2連覇を狙う鈴木桂治(平成管財)はすでに、100キロ級で北京五輪出場を決めている。「五輪に出られるのはうれしいが、気持ちの余裕が油断にならないように」と気を引き締めた。五輪代表を争う3人と会見で並び、「(大会が)注目されているし、いやでも盛り上がる」とニヤリ。日本一の称号を守るため、「ボクの前に立つ人を全員、倒したい」と4度目の優勝へ意気込んだ。
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◆全日本柔道連盟・吉村和郎強化委員長
「五輪代表はいろいろな状況を加味して強化委員会で決める。一番(五輪に)近いのは棟田。石井は全日本選抜体重別を休んだぶん、ハードルが高くなった。井上は大きい相手とどう戦えるか」