「ふ…あぁ…あぅ…」



絶頂からくる疲労感。
ひとまず解放された事への安堵。

そして、良いようにされそれに応えてしまった屈辱感。


それらが彼女の足から力を奪い、
薫は橋脚に背中を預けたまま、ずるりとその場に崩れ落ちた。


剣心はそんな彼女を複雑な面持ちで見下ろしていた。



「…薫殿…」

「…」



剣心の呼び掛けに対し、薫の返した応えは無言。
苦しげに伏せた瞳も、彼の方に向けられることはなかった。


剣心はすっと膝を折り、彼女の戒められている手を取った。

そっとリボンを解いてやると、
漸く解放された両腕が力無くだらりと地に落ちた。


彼の手の内にあるリボン。
それは、いつもの明るい薫の、無垢な少女の象徴のようなもので。

しかし、今は…


それをぼんやりと眺めながら、剣心は静かな声で薫に語りかけた。



「薫殿…いくら薫殿が腕に覚えがあったとしても…
 この様なことをされては…どうにもならんのでござるよ」

「…」

「誰もが皆そうではござらんが…。 男など単純で卑怯な生き物で…
 優しくされるとつけあがるし、一旦たがが外れると…」

「…」

「…などと言い訳した所で…。 結局は拙者の詰まらぬ嫉妬…か」

「…っ…?」



それまで沈黙を守っていた薫が、小さな声を漏らした。
が、言い知れぬ嫌悪感に見舞われて、それに気付かなかった剣心は、



「悪かった…本当にすまんでござる」



と、それだけを言い残し、立ち上がろうとした。

しかし、つんっと何かが袖に引っ掛かる感覚を覚え、
それを確認すべく目線を動かした。



「…薫殿?」



見れば、薫が着物の袂を握りしめている。

彼女は相変わらず顎を落としたままで、
剣心からはその表情を伺うことは出来ない。

けれど、それにどんな意味があるにせよ、
去ろうとした自分を薫が引き留めたという事実に、剣心の胸が少し解れた。



「…って…に」

「え?」

「嫉妬って…なに?」



それは、あまり深く追求されたくない部分であるが。



「いや、それは…」

「答えてくれないなら…剣心がしたこと、赦さないから」



剣心は言葉を濁したが、今は何分、立場が悪い。
薫を怒らせ、傷つけてしまったかも知れない負い目もある。

そして 『赦さない』 等と言われてしまっては…

ここは正直に話すより他はなかった。



「…薫殿は、自分で気付いていないと思うが…
 意外と男達に人気があるのでござるよ」

「…意外とって何よ、失礼ね…」

「いやっ…そのっ…とにかく!薫殿を好いている男が多い!と言うことでござる!!」

「…まあ、いいわ…それで…?」

「それで…その…拙者はそんな男達に…
 あの…薫殿をどうにかされないかと…」

「…はっきりしないわね」



薫のドスの利いた低い声でじわじわと追い詰められ、
剣心は半ば自棄になりながら叫んだ。



「〜〜〜っっ!! あ〜…だから!!
 拙者は薫殿が他の男に好かれていることに嫉妬したのでござる!!」

「…そう」

「そう…って…あの…」



自棄になったとは言え、かなり恥ずかしい事を口走ってしまったのだが…
薫はそれをたった一言で流してしまった。

あっさりと話を切られ、剣心がどうして良いか分からずに呆然としていると、
今度は薫がポツリ、ポツリと話し始めた。



「…それで、こんな事…」

「…え?」

「…嫉妬したからって…、こんな事していいと思ってる訳…?」

「いやっそれは…だから…」

「…何してもいいと…?」

「そっそんな事はっ!」

「…嫌だったんだからね…」

「…わ…悪かった…このとおりでござるっ」

「…恐かったんだから」

「…すっ…すまないでござる…」

「手は痛いし」

「うぅっ…すまない…」

「恥ずかしいし」

「う…すまん…」



そのやり取りの中で、薫の声が少しずつ元の高さを取り戻す。

それに比例するかのように、剣心は徐々に項垂れ、
さほど大きくない背中は所在なさ気に縮こまっていった。


だから、気付かなかった。

薫の温かい眼差しが、既に彼を赦していることに。



「…でも、もういい。 赦してあげる」

「えっ…?」



急に和らいだ彼女の声に、剣心は一瞬戸惑い、
言われた言葉の意味を理解しきれず。

不安げに顔を上げたのと同時に、
彼にとってこの世で最も威力のある雷が、彼の頭上にピシャリと落ちた。



「聞こえなかったの!? 赦してあげるって言ったのよ!!」

「はっ はいでござる!!」



その怒鳴り声に、思わずその背筋がシャンッと伸びる。

…悲しいかな、
それは薫に頭の上がらない、彼のいつもの習性である。

兎にも角にも、赦しを得たことで、
剣心は幾分か気持ちが軽くなるのを感じた。


と、その時。



“きゅっ”



剣心の肩に、柔らかい感触がまとわりついた。



「…か…薫殿…」

「もう、いい…剣心の気持ちに気付かなかった私も悪かったし…」

「いや…これは拙者が…」

「いいって言ってるでしょ」



薫は剣心の言葉を諫めると、彼の首に回した腕に更に力を込め、
ピタリと体を添わせた。



「…もう…いいのよ…」



赦し。



非道い仕打ちも。
情けない自分も。

醜い嫉妬も。



全てを、薫は包んでくれる。



こんなにも優しい愛にくるまれて。
こんなにも優しい人に想われて。



何を、案ずることがあったろうか…?





剣心は薫の背にそっと腕を回し、彼女の赦しを受けた。





「…すまない…そして、ありがとう…」


















                       【完】


              【これで終わるのは物足りないかと】


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〜後始末〜

「えっと…拙者の贈り物は一体何処に消えたのでござろうか…?」

そんな事は知りませぬ。むしろ、赦して貰っただけでも有り難いと思いたまへ。
「罪」のリンクから先は、贈り物など存在しないアナザーWORLDなのです(無茶苦茶)

そして、この頁にはまだ先がありまする。
甘いままで終わりたい方はこのままで、
隠し頁なのにヤラないなんて!と思う方は↑のリンクから続きをドウゾ。
         (↑裏だからってストレートすぎやしないか?)

こちらにも他の道をご用意しました → 「戻ってもう一つの選択をしたい」
鬼畜な緋村さんに出逢える…筈です、多分、恐らく。

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                            (すいません、桔梗館地下牢と兼用です・汗)