−後編−








花には、水を。
毒の花には…、罪に穢れた血を。



君から貰ったこの毒を、
君に返してあげるよ?


そうして血を毒を糧として美しく咲き誇った君に、

きっと俺は…


また狂って行くんだ ・ ・ ・






































「…だ…抱い…て…」





容赦なく体の奥底から湧き上がる欲望に屈した薫は、

肩を震わせ、
大粒の涙を零しながら、


己の芯で猛り狂う熱を、どうにか解き放って欲しいと懇願した。





「…お望みのままに…」





漸く手にしたその言葉に、黒く微笑んだ剣心の中で。





獲物に狙いを定め、
今か今かとその時を待ちわび堪えてきた野生の獣。

自由を手にした荒ぶる獣が、


早く、早く、 と。
その全てを、早く寄こせ、 と。


一層激しく暴れ出す。





その激情に突き動かされ。

剣心は、脱がせるのも帯を解くのもまどろっこしいと言わんばかりに、
薫の夜着の袷に手を掛け、勢い良く左右に押し広げた。


そうして獣の前に露呈される、白い果実。



「あ…」



それを薫が恥じらう間もなく。

瑞々しさを湛えた果実に、剣心の両手が喰らい付いた。



「んっ…」



散々焦らされ、漸く直に感じられたその温度に。
心中奥深くで待ち望んだその感触に。

ぴくり、と薫の体が揺れた。




剣心の手の動きに合わせ、柔軟に形を変える果実は、

柔らかくて。
柔らかくて。


ともすれば握りつぶしてしまいたい衝動に駆られる程に、柔らかくて。


荒く揉みしだく指の隙間から、
収まりきらぬ白い果実が、今にも弾けてこぼれ落ちそうに顔を覗かせる。


剣心はその光景と感触に更なる興奮を覚え、
次を求めてその頂に指を伸ばした。



「や…んっ…」



その頂は、これまでの充分すぎた愛撫により既に固く熟していて。



「んぅ…」



白い果実の固い一点を指の腹でやんわりとなぞり、弧を描くように弄ぶ。
時折、種を摘み取るように指で挟んでは、くいと拗る。

指先から伝わる果実の美味に酔いしいれ、
剣心は口元を弛めながら、丹念に丹念に慈しんだ。



彼の指が蠢くその度に、じわり、じわりと、
薫の中心に、甘くもどかしい切なさが積もって行く。

それにつられて思わず漏れそうになる声を最小限に抑えようと、
薫は口唇を固く閉ざした。



「ん…んん…」



鼻にかかる短い喘ぎが、剣心の耳を擽る。



けれど、それでは足りない。

もっと、もっと鳴けと。
もっと、もっと聞かせろと。


愛欲に飢えて腹を空かせた黒い獣が、脳に訴えかける。


その声に導かれるまま、
剣心は、美味そうに熟した果実にむしゃぶりついた。



「あっ」



口唇が果実の表皮を彷徨い、紅い印をチクリと刻む。

一つでは飽きたらず、幾つも、幾つも。
微かな痛みと共に、白い肌に刻み付ける紅い印。


それは、征服の証 。


白い果実に無数の印を残した剣心の口唇は、
緩い坂道を辿って、その頂点を目指した。



「あぁ…んっ…あっ」



熱くざらついた感触が頂を這い、器用に絡まる。
その果汁を飲み尽くさんとばかりに吸い上げ、
味わうように口一杯に含んで、かりりと歯を立てる。

剣心が動けば、彼の柔らかい髪が薫の肌を擽って。


その愛撫に呼応し奥底から湧き上がる痺れに、
薫は、目一杯首を仰け反らせて耐えた。





やがて、果実を味わい尽くした口唇は、
次なる蜜を求めて、下へ下へと降り始めた。

それに合わせ、剣心の利き手が夜着の中に侵入する。

若さ湛える肌をざわざわと彷徨いながら這い上がり、
未だ纏ったままの夜着の裾を、じわじわと捲り上げて行く。





彼が何処を目指しているのか…
それに気付いた薫は、今更無駄な足掻きだと知りつつも、
キュッと両足に力を込めた。



「この期に及んで…素直じゃないでござるな…」



くすり、と意地の悪い笑いを零して。



「この中は…きっと待ち侘びている筈…」



剣心の口唇が、その中心の柔らかい茂みに、ゆっくり落ちていく。

と同時に。
強い力で片方の足をぐいっと引かれ、薫の足掻きは敢え無く崩れ去った。



「…!!」



そうして、秘められたる花は、冷たい夜の闇に有られもなく晒される。



「やっ…」



一目見てそれと分かる程に蜜をたっぷりと纏い。
獲物を惑わせる甘い香りを放ち。

妖しく、艶めかしく…毒々しく。


鮮艶の花が、男を誘う。



「…こんなに蜜を湛えて…」



嬉しそうに、そして眩しそうに目を細めて、
剣心は隅の隅まで舐めるように観賞する。


その視線が何処に注がれているのか、
その言葉が何を意味するのか、

それを悟った薫の頬が、一気に紅潮した。



「拙者を待っていたのか…?」



そして、花の色香に焦がれた獲物が、誘われるままに…
未開の花に手を伸ばした。



剣心は花びらを覆い包み込むように掌を添えると、
わざと粘り気のある水音を立てて、ゆっくりと撫で回した。



「や…はぁ…くっ…あん…」



その、もどかしいとも思える緩やかで、
けれど先程までのそれとは比べものにはならない刺激に、
薫の嬌声が一段と高さを増す。



「あぁ…い…」

「何とも良い声で鳴く…」



手の動きはそのままに、
剣心は薫の上にすいと身を滑らせ、その耳に口唇を寄せた。



「…もっと聞かせてくれないか…?」

「んぅ…」



低く甘く囁く声が、薫の耳から脳に甘い痺れを伝えてトロリと溶ける。



くるくると散らぬ花を嬲り続けた指先が、
ついにその中心の蕊(しべ)を捕らえ…

薫の体が、かくん、と宙に跳ねた。



「あぁっ!」



時折二本の指で摘み取りながら、上下左右へと花を揺らし。



「うぁ…だめ…はぁ…んっ!」



初めて彼に抱かれた時とは全く違う、
追い詰めるようにねっとりとした粘着質の愛撫に狂わされ。

薫の奥から止めどなく蜜が溢れ、流れ落ちた。


剣心は流れ落ちる蜜をたっぷりと五指ですくい、口元へ運んだ。

そしてその様を薫に見せつけるように、一つ、また一つと
指に纏った蜜を、丁寧に舐め上げる。



「薫殿の味がする…」

「や…やめてっ…」

「何故…?」



そして指に絡めた全ての蜜を吸い尽くし、
今度は直に、花に顔を埋めた。



「いやぁん!…やっ…あ…、ああぁ」



甘い蜜を求めて舞い降りた蝶の如く。
蜜に集る虫の如く。

剣心は無心にその甘美な味を貪った。



「ふぁ…あん…」



蕊を捕らえて生き物のように妖しく蠢く舌尖に。
開き切らぬ花を押し広げる口唇に。

時折漏れる、剣心の熱い吐息に。


そして、憎からず想う男が、秘められた花に顔を埋めていると言う事実に。


薫は激しく翻弄され、身を捩りながら応えた。



「あぅ…ん…け…けんしん…」



やがて、容赦なく高みへ導かんとする剣心の攻撃に、
薫の芯で、これまでとは違う何かが芽生え始めた。



「あ…?な…に…?だ…だめ!…やめ…てぇ…」



体の奥深くから何かが大波のように押し寄せ、
今まさに殻を突き破って、弾けようとしている。

その未知なる感覚に恐怖を覚えた薫は、
慌てて腰を退き、剣心の頭を押しのけようと両の手を伸ばした。


しかしそれで解放される筈もなく。


剣心は両の腕でしっかりと薫の腿を抱えつつ、
邪魔な二本の手首の動きを封じた。



「いやっ…やだっ!!……あ…」



ぐっと眉を寄せ、歯をぎりりと食いしばり。

いやだいやだと拒否するように首を左右に振れば、
きつく閉じた瞳から、ぽろりと涙が伝い落ちる。


体を固くして堪える薫の様子で、
剣心は目指していた高みが近いことを知り…


蕊を激しく吸い上げた。

そして。



花が、弾けた。



                      !!」



音にならぬ叫びが、闇を劈く。


体の中心で発生した雷(いかずち)が、
足先から頭の頂点までを容赦なく駆け巡り、薫の意識を白銀に染める。

弾けるような、宙に舞うような、
如何とも言い難い衝撃に、
目覚め始めたばかりの幼い体が悲鳴を上げ、激しく痙攣した。





かくかくと揺れる体は、目も眩む程に美しく。
恐怖と快感に歪む顔は、呼吸を忘れる程に艶めかしい。

ひとたび目にすれば、二度と忘れることの叶わぬ。
そしてひとたび手にすれば、二度と手放すことなど出来ようか。

未来永劫、黒い獣を魅了し続け、捕らえて離さぬ魔性の花が…


今、ここに開いた。



剣心はその様子を満足げに見下ろし、しかと目に焼き付けた。

そして。



「…ひっ!!」



荒く乱れる息を整える間もなく、
五体を引き裂く鋭利な痛みと、息が詰まるような圧力を内部に感じて、
薫はヒュッと呼吸を詰まらせた。


それは、覚えのある苦痛。


けれど何分、以前にその苦しさを経験してから随分間が空いている。
その上、それはまだ二度目のことで。

幾ら充分に水分を帯びていようとも、伴う苦痛は半端ではない。



そんな彼女に、剣心は微塵の容赦もなく。

はち切れんばかりに募った飢餓感に突き動かされるまま、
もどかしげに己の夜着の裾をたくし上げ、欲望の象徴を露わにし、
一気にその最奥の海へと身を沈めたのだった。





「う…ぅ…はぁ…はぁ…」



痛みを堪えつつ何とか息を整え、薫が目を開くと、
恍惚とした表情で剣心が見下ろしていた。


剣心は薫の視線が自分にあることを確認すると、
うっすらと口の端を歪めて嗤った。
そして、まるで薫に見せつけるように
未だ口の周りに滴ったままの蜜を、己の腕でクイッと拭う。


その仕草が持つ色香と汚らわしさに、
薫の中心が軽く疼いた。


その収縮を合図に、剣心はギリギリの所まで身を引くと、
再び強く激しく、海を割った。



「くっ…あぁっ!!」



漸く整ったばかりの呼吸を奪うかのような、
内側から内臓を抉り貫くかのような、
そんな鈍い衝撃が、薫の中心から喉を伝い、脳へと到達する。



「うぅ…」



ぎゅっと敷布を握りしめ、痛みと圧迫感に耐えている薫の口から、
微かな呻きが零れ落ちた。


剣心はゆっくりと身を前へと倒し、薫の体にピタリと添わせ、
その耳元に低く囁いた。



「やっと…捕まえた…」





捕まえた。


君を、思うままに求め。
君を、心ゆくまで貪り。
君を、無惨なまでに食い荒らす。
君を、快楽の激流に突き落とし。
君を繋ぐ理性の鎖を、この手で引き千切って。
真っ白い君を、獣のように貪って、乱して穢して。


もう二度と、逃がさない。


捕まえた。


けれど、本当に囚われたのは…?







剣心は、再び体を起こすと、
己の中で渦巻く狂愛を吐き出すかの如く、
激しく、ひたすらに激しく薫の海を乱し始めた。



「あんっ…!うぁ…あぁっっ!」

「はぁ…はぁ…っ!」



寄せては返す容赦ない波に、薫の意識が奪い去られていく。

痛みも苦しさも、全ての感覚が闇に消え、
今感じることが出来るのは、猛り狂う剣心の情熱ただそれのみ。



「くっ…んん…剣心…!」



毒気を孕んだ熱視線を。
ただ己のみに向けられる愛執を。

剥き出しの、激しすぎる狂愛を。


恐い。

と、思うのだけれど。


今この瞬間だけは、それさえも愛おしく。



「くぅっ…かお…る…っの…」



このまま壊されても、それはそれで構わない。


それ程までに囚われてくれるのならば。


その穢れた血を、
その歪んだ欲望を、


この身に受け…

共に、堕ちよう。



「か…ぉる…あ…もう…!」

「あ…ふぅっ…けん…し…んっ」



剣心が立てる波が激しさを増し、薫を濁流に突き落とす。

部屋中に広がる卑猥な波の音と、
二人の荒い呼吸が最高潮を迎えていた。

そして、一際強く貫かれ…



剣心の中で燻る黒い毒が、薫の白い体を駆け巡った。







































闇夜に開く大輪の花は。


艶やかに、
鮮やかに、

際限なく咲き誇る。



この世の物とは思えぬ彩を湛えて。



己が身を餌に、



掴んで離さない。
捕らえて逃がさない。







有毒。








囚われたのは、


君か。

それとも…




俺なのか。











                       【続ク…?】


                                      *書庫*




〜後始末〜

こちらも長らくお待たせしました…m(_ _)m

…もう、捨てるモノは何もございません(爆)

あーあ、ヤっちまったよ、オイ…(何が?そして誰と誰が?(笑))
何度も何度も読み返しては書き直していると、
途中から、何が書きたかったのかわかんなくなってしまい…
裏に意味も何も有ったモンじゃないですが、
散々お待たせした挙げ句がこれでは…しゅいましぇん…
こー言うのはアリなのか、ナシなのか…感想など頂けると、
実は内心ビクついているどこぞの小心者は、非常に救われます(笑)
あ、勿論逆刃で叩きのめしてくださっても…頑張って浮上しますので。

この小説のタイトルは「毒」ですが、後編だけは「花」がメインになってます。
いつの間にかそうなった…なんて大きな声では言えませんが。
女性を花に喩えることも多いし、直接的な表現を避けて考えるとこうなりました。
花と言っても色々ありますが…大輪の花って言う以外には
特にこれというイメージはありませんので、お好みのイメージでドウゾ。
ちなみに私はさしずめラフレシアです(爆)

地上の更新に追われ、ナカナカ進まない地下小説ですが…
長い目で見てやって下さいませm(_ _)m
そして、次作では必ず挽回を…!!