毒−中編−
君は未だ、芽吹いたばかりの小さな蕾。
俺によって育て上げられた蕾は。
やがて、
目が眩む程華麗に、
そして禍々しい程鮮やかに、
匂い立つように美しく花開くだろう。
その時を待ちわびて。
その姿を夢描いて。
艶やかな君の幻影に取り憑かれた俺は。
それを現のものとする為に。
未開の花に手を伸ばす ・ ・ ・ 。
「ふっ…。
何時まで、強がっていられるでござろうな…?」
毒を孕んだ男の瞳が、その禍々しさを増す。
と同時に、剣心の不適な笑みが、薫をザワリと貫いた。
その笑みが目に留まった瞬間、
既に思考能力を失いつつあった薫の脳内に、警鐘が響き渡る。
これ以上は、危険。
これ以上彼の自由にされてしまっては…
後戻り出来なくなる。
一度 たがが外れたら、最後。
きっと、何処までも溺れて行く。
際限なく、堕ちて行く。
何故なら…
本当は、それを求めているのだから。
「…っ!!」
彼から、
そしてその先にある未知なる自分の姿から逃れるべく。
薫は両手の戒めを振り解こうと、力の限り藻掻いた。
しかし、どれだけ腕が立とうとも、所詮は女の力。
当然ながら、押せども引けども動いてはくれなかった。
剣心は暴れる薫の両腕を掴んだまま、彼女の体に己の体をそっと添わせ、
やんわりと体重を掛けた。
腕が自由にならぬ今、腰の力のみでは当然その重みに耐えきれず、
薫の体は均衡を崩しグラリと揺らぐ。
「きゃっ…」
“ドサリ”
体勢を崩して倒れ込んだ彼女の体を、
柔らかい布団が、優しく受け止め、ふわりと包み込んだ。
その衝撃から続けざまに、薫の上にズシリと剣心の重みがのし掛かる。
『これ以上の抵抗は許さぬ』 とばかりに体をピタリと密着させて覆い被さった剣心は、
力を込めて更なる重みを薫に掛けた。
「うっ…」
その重みに堪えきれない薫の口から、苦しげな呻きが漏れた。
そして、目を上げた瞬間。
近い場所で合う二つの視線。
怯えたような眼差しで、男を見上げる女。
そしてその様を、眩しそうに見下ろす男。
「そんな顔して…男を惑わすなんて…」
「…なっ!そ…そんなコトしてないっ!」
薫の頬に、サッと朱みが差した。
未知への恐怖に、美しい柳眉が苦しげに歪み。
困惑の色に満ちていた大きな瞳は、涙を湛えてユラユラと瞬いている。
二人の雫で濡れた紅い口唇は、艶々と光りを映す。
朱に染まった頬が、これらに より一層の鮮やかな彩りを添えて。
それはまさに、毒の花。
目にした者の自由を、意識を、魂を。
確実に汚染していく。
これに惑わされぬ男が、居ようものか。
これに囚われぬ男など、居ようものか。
それを狂おしそうに見詰める剣心の顔が、
吸い込まれるようにゆっくりと薫に近付いた。
「薫殿は…綺麗だ…けど…」
剣心の口唇が降りてきて、薫の両目の灯りを消した。
「乱れ咲く君は…」
口唇はそのまま下へと移され、幾度か頬を彷徨い…
やがて到達した耳元で、低く囁く。
「もっと綺麗でござろうな…?」
「…っ」
ふう、と生暖かい空気が、薫の耳に送り込まれ、
「…く…ぅ…」
「狂い咲く君を…」
その中に、熱く湿った舌尖が侵入する。
「やぁ…ん」
「拙者に、見せてくれないか…?」
剣心の舌が耳の中で蠢くたびに、
卑猥な水音が、薫の脳に直接響いて。
剣心が言葉を発するたびに、
低く甘い振動が、薫の意識を遠のけていく。
「ん…あぁ…」
吐息が、口唇が、舌が、薫の耳を思うがままに弄ぶ。
初めは こそばゆかったような感覚も、
何時しかじっとりとした快感へと姿を変え、
薫の手から、足から、腰から、全ての力を奪い去っていった。
幾らその執拗な愛撫から逃れようとしても、
彼の口唇は何処までも薫の後を追い掛けて離さず。
それどころか、逃れようと薫が首を捩れば捩る程に、
白い首筋が、まるで次なる愛撫を待ち受けているかのように、
剣心の前に晒されることとなった。
「…何と細い…」
剣心の口唇は耳を解放すると、そのままピンと張った首の筋に狙いを定め、
ゆっくり、丁寧に堪能し始めた。
下から上へとなぞり上げ、時折啄んでは印を刻み。
彼の熱い舌が動くたび、首筋から全身へと駆け巡るざらりとした感触に、
薫は堪らず唇を噛み締めた。
「ん…っ」
剣心は薫を戒めていた腕を解き、
自由を得たしなやかな指先で、反対側の首筋を幾度か撫で上げた後、
じわり、じわりと移動を始める。
その手は ざわざわと妖しく夜着の上を彷徨い、
やがて辿り着いた柔らかな丘に、激しく喰らいついた。
「あっ…だめ…」
咄嗟に、薫の口から小さな拒絶の言葉が漏れた。
しかし、そのようなことを受け入れるはずもなく。
剣心は目的地に辿り着いた己の手を追うように、首筋から口唇を離し、
夜着の上から、反対側の丘へと口付けた。
「やっ…やめ…て…」
骨張った手が、熱っぽい口唇が舌が、
時に荒々しく、時にねっとりと、薫を翻弄し始めた。
布越しにじんわりと感じる、剣心の熱。
薄い衣を通して与えられる、微かな甘い刺激。
けれど、二人の間を隔てる一枚の砦は、何時になっても取り払われることなく。
薫の身を包み、守っているように思えた薄い衣は、
今は、彼女の更なる自由と解放を戒める鎧でしかなかった。
熱が、感触が、快感が。
全てが、足りないままで。
薫の奥深くで燻りだした暗い炎は、激しく燃え上がることを望み、
もっと、もっとと、欲を増す。
けれど、そんなもどかしさに薫が苦しんでいることを承知の上で、
剣心の指も口唇も、決して先に進もうとはしなかった。
衣の上からでも分かる程に固く結んだ二つの蕾を、
器用な指先が、生き物のように蠢く舌が、
上手に愛し、育てていく。
幾度も啄まれている内に、夜着のその部分だけが水分を帯び、
うっすらと蕾の色形が浮かび上がってきた。
それを丹念に味わいながらも、並行して
既に堪能し終えていた首に、耳に、そして薫の口唇にも
再び指を這わせ、口唇を寄せる。
そうしてただひたすら繰り返される責め苦に、
薫が屈服するまで、どのくらいの時間が過ぎたであろうか。
「んあぁ……や…もう…」
焦らされるだけ焦らされ、
しかし何時まで経ってもそれ以上の感覚を与えられぬ苦しさに、
きつく閉じられた薫の瞳から、ついにポロポロと水滴が零れ落ちた。
「…どうかしたでござるか?」
薫を嬲る手を止めぬまま、剣心は黒い笑みを浮かべた。
「…もう…いや…」
「いや? …それは済まないことをした。
ではここらで止めるとしようか?」
そんなつもりなど毛頭無いというのに。
そして薫が何を望んでいるのかなど分かり切っていながら。
剣心は敢えて、意地の悪い問いを口にする。
「…ち…ちが…ぅ」
「…どうして欲しいのでごさる?」
「…っ」
どうしてもその先が言えず、口をつぐんでしまった彼女の首筋に、
剣心は再び顔を埋めた。
固く尖らせた舌尖で甘い感覚を与え、先を促す。
「やぁ…ん」
「言わないと、わからない」
冷たい声でそう言いながらも剣心は、
わざと派手に水音を立てて、耳をまさぐった。
「あぁんっっ…おっ…お…ねが…い…」
「何を?」
耳朶に歯を立て、微かな痛みを残し、
「ちゃんっ…と…はぁ…」
「ちゃんと?」
ふぅ…と、熱く湿った吐息で耳の奥を嬲る。
「んん〜っ!…あ…あぁ……。 …ぃて…」
漸くの思いで紡がれた、消え入りそうな程に細い哀願の言葉を、
剣心は冷酷にピシャリとはね除けた。
「聞こえない」
その一言を。
君の口から聞きたくて。
その許しを。
君から得たくて。
君を、思うままに求めることを、
君を、心ゆくまで貪ることを、
君を、無惨なまでに食い荒らすことを、
君自身のその口で、認めて欲しい。
「…どうして欲しい?」
薫を繋ぎ止めていた 『理性』 と言う名の呪縛の鎖は、
既に剣心の手によって微塵に粉砕されている。
少女だとか、穢れだとか、
そんな事にしがみついている余裕など、もう何処にも残ってはいなかった。
容赦なく体の奥底から湧き上がる欲望に抗えず。
その言葉を口にする恥ずかしさに身を震わせながらも、
薫は、重い口を開かざるを得なかった。
「…だ…抱い…て…」
同時に、薫の瞳から、ポロリと大粒の涙が流れ落ちた。
そして剣心は、
望み通りの言葉が得られたことに、
薫の自由を手中に収めたことに、
満足げに黒い微笑いを漏らした。
「…お望みのままに…」
【続ク】
*後編* *書庫*
〜後始末〜
うぎゃおーーーー!! )*0*(
つ… つ ひ に や っ て し ま ひ ま し た ・ ・ ・
「後編」って予告したのに、「中編」に…
いや、違う。
いえ、それもそうなんですが(笑)
なるべくモロな単語は慎んでる筈なんですが、
結局ヤッてるコトは変わらないんですよねσ(^◇^;)
「中編」でさえ恥ずかしいことこの上ないのに、「後編」なんて…
どうすんだ、私よ。
しかも、何度も書き直している内に、最初の趣旨が分かんなくなってしまい…
まぁ、裏小説に趣旨も何もあったモンじゃないか〜と諦めました。(^_^;A
これで終わりだと思ってらっしゃった皆様には…
待っていてくださった皆様には大変申し訳ないのですが、
すいません、後編はもう暫くお待ち下さいませ…。