落語指導 林家染丸さんインタビュー

写真

---どんな風に落語指導をされていますか?

我々は一生落語家ですから、普段はのんびりしたスタンスでやっています。30歳までにこのネタをやればいいとかね。ところが俳優さんは、短時間の稽古で上手に演じないかんでしょ。ですから、自分の弟子にするのとはちょっと違う教え方をしているんですよ。弟子には口伝えで教えていますが、俳優さんには私が吹き込んだ落語のテープをお渡しして、覚えてもらっています。
 渡瀬(恒彦)さんが「愛宕山」を録音した時のこと、一度はOKになったんですけど、本人が聞き直して「もう一回録らせて欲しい」と言うんですね。渡瀬さんは前もって私が吹き込んだテープを聴いて「愛宕山」を覚えたわけですが、そのテープと比べるとテンポも息継ぎの位置も違うとおっしゃって。結局、録り直しましたが、確かに二度目の方が断然いいんです。そんな風にみなさん熱心にやってくれはるので、私も指導のしがいがありますね。

---脚本にもアイデアを出されているそうですね

落語家の普段の生活とか、もちろん落語についてもアドバイスをさせてもらっています。でも、現実の落語家と違ったらダメというわけでもない。例えば、喜代美が「辻占茶屋」の下座※に挑戦したとき間違って「ふるさと」を弾いたことがあったでしょう。さすがに、あんな極端な失敗というのは現実ではまずないんです(笑)。でも、あれはドラマのエピソードですからね「逆におもろいんと違いますか」と言わせてもらいました。実際、お稽古で貫地谷(しほり)さんと青木(崇高)くんが掛け合いしているのを見ていて、すごく面白くてね。落語のシチュエーションを借りてあんな風に面白くドラマを作ってはる脚本家の方は素晴らしいなと思いました。だから、実際には起こらないような出来事でも「ドラマやから面白いんとちゃいますか」とお答えをすることが多いんです。落語家の世界の温かささえ見ている方に伝われば、必ずしも現実と一緒でなくてもええと思っているんですよ。

※下座…落語家が高座に上がる時にかかる出ばやしや効果音などを演奏する人たちのこと

---落語家の世界の温かさというのは…?

落語の場合、高座では一人でしょう。案外、孤独なんですよ。一人で悩んで、一人で演じて、失敗しても全部自分の責任なんです。その代わり、笑いも全部自分のものですから喜びもありますけどね。ただ、良いにつけ悪いにつけ一人ですから、誰かと気持ちでつながっているというのは非常に大事なことなんです。お互いに精神的に支えあっているというかね。そういう意味で言うと、落語家の世界というのはいわゆる人間関係でもっているといってもいいでしょうね。
 その落語家にとって一番大切な人間関係と言えば、師匠と弟子の関係ですよね。ですから、ドラマでもそんな師匠と弟子の関係を出来るだけきちんと描いてほしいとお願いしたんです。表向きはちゃらちゃらしているような商売ですけど、実は義理堅いところがあったり、情にもろかったり。そんな温かい落語家の素顔を皆さんにも知っていただけたらいいですね。

---ドラマでは大勢の落語家が登場しますが、ズバリ落語の魅力とは?

いくつになっても新しい演目に挑戦することができる。また、若い頃から演じているものでも年を重ねたからこそ良くなるものもあるんです。人情の機微とか心の動きとか、ある年齢になって初めて分かることってあるでしょう。そういうもん全部が落語に表れるという点が醍醐味ですね。人生の経験イコール落語やと思います。だから、私も弟子にこう言うんです。「人間の内面がええもんでないと、ええ落語はでけへん。ネタを勉強するのもええけど、自分自身の人間性を磨くことが一番大事なんや」と。人間を磨いていると自然に落語も良くなっていくものなんですよ。
 『ちりとてちん』では、たくさんの俳優さんに指導させてもらっていますけど、それぞれのキャラクターの違いが出て面白い。みなさんええ個性を持ってはって、これはええ勝負になるんと違うかなと思います。一度、『ちりとてちん』のメンバーで落語会やったら面白いですな。

---ドラマのみどころを教えてください

毎日、落語界のお話しが描かれるやなんて画期的なことですね。そうやってみなさんに注目してもらったら落語の方もお客さんが増えるんじゃないかと思うんですよ(笑)。
 ストーリーとしても面白くできていると思いますよ。草若にしろ、草々にしろ、喜代美にしろ、どっか不器用な所がありますよね。そういう人たちをクローズアップしているという視点が優しくていい。普通やったら、地方から娘が出てきて、苦労して一人前になってというサクセスストーリーが多いと思うんですけど、これが決してそうじゃない。周囲の人たちが大丈夫か、大丈夫かってヒロインを心配しながらジリジリ進んでいくんですな。「もっとしっかりしいな」と見ている人も思わず応援してしまいそうでしょう。そんな風に不器用な喜代美を描くからこそ『ちりとてちん』は人生の応援歌なんやないかと思いますね。