テーマ曲
作曲 佐橋俊彦・ピアノ演奏 松下奈緒

雄大なオープニングを…

『ちりとてちん』では、塗箸や落語など何世代にも渡って受け継がれてきたものが描かれます。番組サイドからは、そういったものを大切な柱として考え、雄大な時の流れのようなものを音楽で表現してほしいとご要望をいただきました。
 制作に取りかかる前には、台本を読み、脚本の藤本(有紀)さんとドラマの内容に関する深いお話しまでさせていただきました。そうすると、色んな場面でのビーコの心情が伝わってきて…。“雄大”なイメージのなかに、喜代美の視点もとりいれたいと思うようになっていきました。

雄大さと喜代美の視点の融合

試行錯誤の結果、やはり雄大さと喜代美の視点という2つのモチーフを融合させることにしました。でも、意外とバランスが取りづらくて…。最初に出したデモ※は、今思うとかなり喜代美に寄り沿った雰囲気の曲になっていましたね。もちろん『ちりとてちん』に対して作ったものなので、大きく外れているわけではなかったのですが、番組全体のテーマとして考えると、こぢんまりしているんじゃないかと。遠藤さんともお話をするうちに、自分でもだんだんそう感じるようになったので、一度作業を打ち切って、“雄大”というイメージにポイントを置いた曲を一から作り直すことにしました。そうして出来たのが今の曲です。

※デモ…資料用として作成するテープ。その曲のこと。

トランペットからピアノへ

曲自体はほぼ完成しましたが、当初は朗々とトランペットで演奏するという案で進行していました。でも、今度は喜代美の視点はどこに行くんだろうって、ちょっとした堂々巡りになってしまって(笑)。結局、雄大なイメージのなかで喜代美らしさを出すためには、トランペットじゃないだろうと思い始めたんです。どうもトランペットだと「親父が説教しているみたいだな」と(笑)。時にはそういうのも必要なんだろうけど、どうしても男性的なメロディに聞こえがちでしたしね。そういうことがあって、一番身近な楽器で優しい音のピアノがいいかもしれないと、思うに至りました。

ヒロインと同世代の女性をピアニストに

演奏家を喜代美と同世代の女性にしたいという思いは、メインの楽器をトランペットにと考えていた時からありました。それは、若い女性ならではの音の感じ方、演奏の仕方があると思ったから。でも、トランペット奏者がなかなか見つからなかったんです。そんなとき「ピアニストならぴったりの人がいますよ」と知り合いに言われ、名前をうかがうと松下奈緒さんでした。松下さんは、僕が以前、音楽を担当したドラマでデビューされたというご縁があって、音大のピアノ科に通っていると聞いていたんですよ。喜代美と同年代ですしね。このお話が出たころ、ちょうどメインの楽器をピアノにしようかと考え始めていて「いいかもしれないな」と思いました。
 実際に彼女の演奏を聴くと、すごく瑞々(みずみず)しい感じがして…。やはり松下さんのような若い方は、何十年、音楽業界でピアノを弾いてきた人たちとは違う。まだ音楽家として熟し切っていない部分が今回のテーマ曲にはぴったりだと思いました。

とにかく弾いてみてほしい

日本人には“ピアノは毎日練習するもの”というイメージがあると思うんですよ。だから、小さい頃にやっていても練習が嫌で辞めてしまう人が多い。実際、僕も途中で一度辞めちゃったんですよ(笑)。今になって思うのは、ピアノは練習する前に楽しむもので、何もみんながうまい必要はないということ。日本人は「上手でないと…」と尻込みしがちですが、欧州の方々などは下手な人でもどんどんピアノを弾くんですよ。それは純粋に楽しいからでしょう。いいですよね。
 だから、このテーマ曲を聞いたみなさんにはぜひピアノを弾いてみて欲しいんです。下手でもいいじゃないですか。片手だけでも楽しんでいただけたら、とても幸せです。

ピアノ演奏 松下奈緒
・温かい雰囲気が伝われば…

今回はドラマへの出演ではなく、テーマ音楽の演奏という形で『ちりとてちん』に参加させていただきました。
 ドラマでは、家族のあたたかい愛情が描かれているとうかがっていたのですが、このテーマ曲を初めて聴いたとき、その通りの懐かしい雰囲気だと思いました。ですから、演奏も人間味あふれるあたたかい感じにしたいと思い、意識したつもりでいます。みなさんが、毎朝この曲を聴いてあたたかい気持ちになっていただければうれしいですね。

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