まず隗(かい)より始めよ。議論を主導し取りまとめる立場の議長国日本が、踏み込んだ目標に言及しなければ、成果もそこそこでしかない。26日まで神戸市で開いた主要8カ国(G8)環境相会合では、7月の主要国首脳会議(洞爺湖サミット)に向けて、温暖化防止の国際交渉をぐんと加速させるような新しいメッセージは出せなかった。
昨年の独ハイリゲンダムサミットの経済宣言では、温暖化ガス排出削減の長期目標「2050年までに世界で半減」を真剣に検討するとした。洞爺湖サミットではそれを「合意」に引き上げる。「そんな強い意志を今回は確認した」と、議長総括で鴨下一郎環境相は成果を強調した。
しかし、洞爺湖サミットにはG8に加えて中印など温暖化ガスの主要排出国の首脳も招く。そこで、50年半減を再確認する程度では、議長国日本の鼎(かなえ)の軽重が問われると、私たちは指摘してきた。
20年をメドとした中期目標。50年に世界で半減する際の先進国が担うべき具体的な削減量。増え続ける世界の排出をマイナスに転じるピークアウト時期。これらに、より踏み込んだ数字を示す必要がある。途上国を巻き込んで、実効性のある排出削減の枠組みをつくるためには、具体的な数値目標は不可欠だ。
残念ながら今回は、政府の思惑である「50年に60―80%減」という長期目標も、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が科学的に必要と先進国に求めている20年に25―40%削減という中期目標も、具体的には示されていない。
洞爺湖サミットを目前に日本が数字を示せないのは、経済産業省などが踏み込んだ数字の提示に反対しているという、国内の事情もある。20年に1990年比40%減という意欲的な目標を掲げて法整備したドイツは、今回の会合で、中国にも米国にも相応の努力を強く迫った。
各国の利害が絡む国際交渉で、手の内を見せないのは1つの作戦ではある。だが温暖化防止交渉では数字が交渉力を決める。今は中期目標に消極的な米国も、政権交代と共に欧州連合(EU)と同調し方針は180度変わる可能性がある。いつまでも日本式の無手勝流は通用しない。
日本が提案しているセクター別積み上げ方式は、一応の評価を得はしたものの、必要な削減量が目標の基本という見方が大勢を占めた。
福田首相は直轄の有識者会議の議論を基に、前向きで具体的な温暖化対策、福田ビジョンを来月発表する。無手勝流からの脱却を期待する。