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2008年05月27日(火曜日)付

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市長殺害死刑―テロへの怒りを新たに

 長崎市の伊藤一長市長を選挙運動中に銃撃し、殺害した元暴力団幹部の男に、求刑通り死刑が言い渡された。

 殺された人が1人の場合、死刑判決はめったにない。あえて死刑を選んだ理由として、長崎地裁は次のように述べた。

 男は市役所に不当な要求を繰り返して拒まれたため、市長を逆恨みした。市長を殺して当選を阻止し、自らの力を誇示しようと考えた。暴力によって、選挙運動と政治活動の自由を永遠に奪い、有権者の選挙権の行使も妨害した。これは民主主義を根幹から揺るがす犯行だ。到底許しがたい――。

 暴力で言論や政治活動を封じようというのは、民主主義に対するテロである。裁判官はテロの社会的な影響の深刻さを重く見て、いまある刑罰の中で最も重い死刑を選んだということだろう。厳罰化の流れが背景にあるとはいえ、そうしたテロに対する厳しい姿勢は十分うなずけるものだ。

 政治家や経済人、言論人を狙ったテロは戦前から後を絶たない。長崎市では、「天皇の戦争責任はある」と発言した先代の市長が右翼団体の男に銃撃されて重傷を負っている。

 そうしたテロや暴力を恐れて、縮こまってしまう動きもある。東京のホテルが日教組の集会を断ったり、一部の映画館が「靖国」の上映を取りやめたりしたのは、その典型だろう。

 民主主義に対するテロや暴力をいっそうはびこらせるのか。それともここで踏みとどまって、言論や政治活動の自由を広げていけるのか。そうした流れに影響を与えるという点でも、今回の判決は意味がある。

 もうひとつ、判決で注目されるのは、暴力団にきわめて厳しい目を向けていることだ。今回の事件について、行政を脅して利益を得ようとする「行政対象暴力」の中でも、「類例のない極めて悪質な犯行」と断罪した。

 判決は「暴力団の無法さ、銃器犯罪の恐怖を改めて全国に知らしめることになり、社会全体を震え上がらせた。各自治体の職員などの不安を増大させた」としたうえで、「同種事犯の再発防止を求める社会的要請は非常に大きい」と指摘した。

 判決はさらに「市長を逆恨みした犯行の動機は、暴力団特有の身勝手きわまりないもので、酌量の余地は全くない」と述べた。その通りだと思う。

 今回の事件をきっかけに、暴力団対策法が改正された。行政の許認可への介入や入札への参加を要求する行為にも中止命令などを出せることになった。警察は行政と連携を強め、あらゆる法令を使って、暴力団を排除していってもらいたい。

 テロを憎み、暴力団を追いつめる。今回の判決を機に、その思いを新たにしたい。

環境相会合―歩み寄りの芽を育てたい

 京都のバトンを次の走者につなぐ。神戸はその一助を果たしたか。

 神戸で開かれた主要国(G8)環境相会合は、脱温暖化が最大のテーマとなる7月の北海道洞爺湖サミットに向け前進の芽を見いだしたようだ。

 二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出削減を先進国に求める京都議定書は、12年で期限が終わる。そのあとは、排出量が多いのに途上国扱いで義務のない国々を抑制・削減の仲間に呼び込めるかどうかがカギになる。とくに米国と並ぶ二大CO2排出国の中国に視線が集まっている。

 この温暖化での南北問題で、もつれが解ける兆しが見えたのである。そうなったのは、なにより先進国の責任の重さを明言したことが大きい。

 議長総括は、世界の温室効果ガス排出を今後10〜20年で減少に転じさせ、50年までに半減させるという道筋を示した。そのうえで先進国に国ごとの削減目標を掲げるよう促し、先頭に立って大幅に削減するよう求めた。

 「50年までに半減」は、去年のG8サミットで「真剣に検討する」と申し合わせた世界目標だ。このゴールをめざすなら先進国が多めの負担を引き受けるのは当然だが、その姿勢をはっきり打ちだしたことは、途上国との話し合いの出発点になるだろう。

 総括は途上国へも巧妙な変化球を投げた。成長が急な途上国に「排出量増大のスピードの抑制を目指すことが重要」と呼びかけたのである。先進国との間に線を引きつつ、ブレーキだけはかけてほしい、と求めたことで、いきなり削減義務を課されることへの疑心暗鬼が和らいだかもしれない。

 今回の会合には、経済成長の大きい国を中心に途上国も参加した。これらの国々の間でも、脱温暖化の計画がすでにある国や目標を掲げようとしている国がふえつつある。

 成長途上の国にとって、脱温暖化は省エネルギーや公害防止につながるので、大きな利益になる。日本政府は「神戸イニシアチブ」の一つとして、脱温暖化とほかのねらいを同時に追求する「相乗便益」の技術支援を提唱した。このようなかたちで手をさしのべることは、途上国の歩み寄りを引き出す切り札になるだろう。

 今回は、日本が呼びかけている「セクター別方式」も議論された。国ごとの目標づくりなどで、産業などの部門ごとに削減可能量を積み上げる方法だ。だが、可能量と削減必要量との落差をどう埋めるかが課題とされた。むしろこの手法は、途上国で省エネを進めるときに先進国の支援と組み合わせて活用できるかもしれない。

 先進国として説得力のある目標を掲げ、途上国を脱温暖化の動きに引き寄せられるか。サミット開催国の政府として力量が試されている。

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