日本の漁業を取り巻く環境が一段と厳しさを増してきた。二〇〇七年度版「水産白書」は、海洋国日本がはぐくんできた魚食文化の危機を強調するとともに、事例を通して再生への取り組みを訴えている。
四方を海に囲まれた日本は、古くから水産物による恩恵を受けてきたが、近年は食卓から魚介類が遠ざかっている。国民一人当たりの年間魚介類消費量は、〇一年の四十キロをピークに〇六年には三十二キロにまで低下した。
背景にはさまざまな要因が絡み合っている。白書は若年層を中心とした「魚離れ」に加え、低価格志向や調理のしやすさなどを重視する消費者ニーズの変化を一因に挙げる。
消費者の要望に応えるためマグロやサケといった輸入依存度の高い品目の扱いが増加した。これが国産水産物の供給減をもたらし、食用魚介類の自給率は〇六年で59%にまで落ち込んだ。一方、輸入水産物も健康志向など世界的な需要拡大で日本の輸入業者が入手できない「買い負け」が起きている。
さらに漁船の燃料である原油価格の高騰による経営圧迫や後継者難、藻場・干潟の減少、水質汚染や地球温暖化などが日本の漁業に重くのしかかる。自給率の低下は、日本周辺の海の魚を中心に知恵や知識を蓄積した魚食文化も崩壊させかねないという白書の危機感を共有したい。日本漁業の衰退に手をこまねいているわけにはいかない。
白書は「もはや輸入にばかりは頼れない」とし、日本周辺の多彩な魚による自給率向上と漁獲量を支える海の再生・維持を掲げる。消費者が国産水産物に寄せる安全・安心の意識は高いこともあり、あらためて原点に立ち返る姿勢はうなずける。
紹介された各地の取り組みを見ると、アマモを傷つけないよう帆を張った船による伝統漁法を続けている地域があれば、干潟の保全に努める所もある。さらに食育を通して消費者との距離を縮めるとか、指導者グループを組織しての担い手育成で成果を挙げているケースなど多彩だ。魚食文化と海を後世に伝えたいとの信念を感じさせるもので、参考になろう。
しかし、八方ふさがりの現状を打開するには漁業者だけの頑張りでは限度がある。食生活の在り方、資源や海の維持・管理を含め持続可能な漁業を確立するためにどうすればよいか、国を挙げて考えていかなければならない。政府は予算を含め、アイデアや意欲を引き出すための支援に一段と力を入れていく必要があろう。
岡山県は、本年度末で期限切れを迎える「おかやま森づくり県民税」(森林税)の導入効果について有識者で構成する県税制懇話会による検証をスタートさせた。今秋をめどに存廃を決める方針だ。
この森林税は、林業の後継者難や国産材需要の低迷などで荒廃が進む森林を県民総参加で保全することを目的に二〇〇四年度に導入が始まった。高知県に次いで全国二番目だった。個人は年間五百円、法人は県民税均等割の5%に当たる同千―四万円を上乗せして徴収し、「おかやま森づくり県民基金」に繰り入れて事業を行っている。
県によると、この四年間で二十事業に計十七億二千五百万円を充てた。台風がもたらした風倒木被害の復旧を含めて六千四百二十九ヘクタールの森林を整備し、担い手の育成では七十三人の新規就業を果たしたという。
森林は水源のかん養をはじめ地球温暖化防止、防災、生物多様性の保全、心の癒やし効果など多様な機能を備えている。その荒廃は県民生活にとっても重大な危機を意味する。恩恵を受けている県民が森林を「共有の財産」として守り、後世に受け継いでいくという森林税の趣旨は妥当といえよう。
しかし、県民への浸透度はまだ十分とはいえない。懇話会では「税の負担を知らない人も多い」との指摘があったという。森林保全という息の長い取り組みには「積極的に支援したい」という県民の意識の高まりと協力が欠かせない。
そのためにも森林税の使途の透明性を高め、県民に納得がいく成果が求められる。幅広い角度から事業を検証するとともに、県は森林の現状と県民の貴重な税金である森林税の意義を説いて、さらなる関心の盛り上げを図らなければならない。
(2008年5月26日掲載)