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2008年5月27日

◎国が漆、いしり支援 「ブランド力」に自信持とう

 輪島塗と山中漆器、能登の「いしり」のブランド化、国際化戦略を、国が強力に支援す ることになったのは、世界に通用する日本独自の商品としてのポテンシャル(潜在能力)の高さが認められたからだろう。「JAPANブランド」のお墨付きをテコに海外に販路を広げ、同時に国内での売り込みを強化したい。

 漆器やいしりは、あまりにも身近な存在であるために、地元ではむしろ正当に評価され ていない印象がある。国際的に日本文化が注目されている今、もっと自信を持って「ブランド力」を磨く必要があるのではないか。

 輪島塗は、海外での販路開拓が本格化しており、一昨年、デザイナーを起用してニュー ヨークにアクセサリーを出品した。常設展示場での広報・販促活動を通じ、外国人の好みを調査しながら商品開発に取り組んでいる。山中漆器も欧米向けに「NUSSHA(ヌッシャ)」という統一ブランドを設立し、パリの国際見本市に出品している。これを契機として大英博物館やニューヨーク近代美術館のミュージアムショップ、パリの高級デパートでの販売も始まった。

 ニューヨークの展示会で西洋料理の一流シェフや料理関係者に絶賛されたいしりを含め て、地域から世界市場を目指す試みは、すぐに結果が出るものではあるまい。国の後押しにより、これらの事業を継続できるのは誠に心強い。ルイ・ヴィトンは輪島塗と共同制作した小物ケースをつくったが、ふるさとの一流は、世界の一流にまったく位負けしなかった。一流は一流を知るのであり、世界の最先端で勝負し続けることができれば、そこから思いがけない展開が生まれる期待も膨らむ。

 JAPANブランドの冠はまた、国内での知名度をさらに高めるチャンスでもある。ニ ューヨークでは、一流シェフが、いしりをサラダやスープに使ったが、こうした調理法は、私たちが持っているいしるのイメージを良い意味で打ち壊すものだ。欧米で得た評価や思いがけない使い方などをヒントに、国内向けに現代生活に合った新商品の開発、用途の提案などもできるのではないか。

◎長崎市長射殺で死刑 厳罰化の流れに沿う判決

 長崎市長射殺事件で、暴力団幹部城尾哲弥被告に死刑を言い渡した長崎地裁判決は、近 年の厳罰化の流れに沿った判断といえる。

 死刑適用の指針となってきた「永山基準」に照らせば、被害者が一人で、殺人など凶悪 犯罪の前科もない被告に対しては極刑回避の選択もあり得たが、判決は「選挙の自由を妨害する犯罪の中でもこれほど強烈なものはなく、民主主義社会において到底許し難い」と断罪し、量刑理由に極刑選択の躊躇はみられなかった。

 山口県光市の母子殺害事件に続き、今回も死刑判決が出たことで、「死刑は極力控える 」という例外的な適用方針が必ずしもそうではなくなってきた印象を受ける。少なくとも、「被害者一人」はそれだけで死刑回避の理由にはなりにくくなるかもしれない。量刑基準の変化を司法だけの問題とせず、国民的な関心事にしていきたい。

 判決は、選挙中の現職市長を殺害するという犯罪史上例のない凶行である点や、市民を 巻き添えにしかねない暴力団による銃器犯罪という犯行態様を重視した。事件のきっかけとなった長崎市への不当要求、いわゆる行政対象暴力は全国各地でみられ、暴力で要求を押し通そうとする同様の事件が起こらないとも限らない。極刑によって社会にはびこる不気味な風潮への抑止の意図も働いたことは間違いないだろう。

 一九八三年の「永山事件」最高裁判決は、死刑適用のポイントとして、犯行の罪質や動 機、態様、結果の重大性、遺族の被害者感情など九項目を示した。被害者が一人で、近年に死刑が確定した事件では、殺人の前科がなくても、子どもへのわいせつや金銭強奪などの悪質性が伴っていた。今回はそれとは異なり、「永山基準」を超えて死刑適用の範囲が広がったと指摘する識者もいる。社会への衝撃度や世論の受け止め方に傾斜しすぎれば、客観的な判断が難しくなることも確かである。

 相次ぐ死刑判決による厳罰化の流れは今後、論議を呼ぶ可能性もある。判例の積み重ね や量刑論議の深まりを通して、合理的な刑罰体系のあり方を探っていきたい。


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