今回は、昔の仕事の話を。
私は信託銀行に入社してから最初の4年間ほどは、「クオンツアナリスト」という年金運用に関連する投資理論の研究と投資手法の分析を仕事として行っていました。
そのクオンツアナリストとして初めて行った仕事は、外国債券の運用シミュレーションでした。
これは、複数の国の外国債券インデックスの相対魅力度を判断して、最適な資産配分をどのようにすればよいかをバックテスト、つまり、過去データを使って検証するというものです。
個人投資家の世界でいま流行りつつあるシステムトレードですが、私はその検証作業を機関投資家に合う環境下でやっていたのです。
私自身が自己資金でシステムトレードを始めたのはつい最近ですが、検証作業に相当する部分は仕事としてかなり昔からやっていたことになります。
システムトレード関連の商材をいくつか販売している手前、そして、実際のファンドでも使える売買ルールの開発を行うという目的から、様々な検証作業をやっているのですが、いま思えば、機関投資家のデータベース環境というのは非常に恵まれているなあと感じています。
機関投資家のデータベース環境というのは、QUICKやBLOOMBERGなどの情報ベンダーが使いたい放題ですし、それに加えて、独自データベースなども整備されていますので、検証ヲタにとっては非常に素晴らしい環境なのです。
こんなことを言うと機関投資家のメインストリームを突っ走っている人からは
「インモラル野郎」
と思われてしまうのですが、機関投資家の運用部門に在籍している方で、個人的投資、とりわけ、システムトレードに興味があるならば、機関投資家のデータベース環境を利用しない手はないと思います。
もちろん、仕事の合間をぬって残業時間などを使ってこっそりと検証作業を行うことになるのですが、機関投資家の人というのは個人的投資に興味がある人が少ないせいか、そのように使っている人はあまり聞いたことがなく、そういう意味では宝の持ち腐れ状態だと思います。
まあ、そんな人は、私みたく機関投資家の世界では出世できないのですが。というより、ドロップアウトしたのですが。
それはともかく、システムトレードの検証作業を行うにあたって、機関投資家の環境と個人投資家の環境がどのように違うかというのを、FXを事例にそれを取りあげたいと思います。
FXのリターンは、「スワップ収支」と「為替変動」の合計で決まります。
スワップ収支とは、2国間の金利差のことです。なぜ、2国間の金利差なのかですが、以下のように考えるとすぐに分かります。ここでは、日本円/米ドルを例に考えます。
●日本円を売って米ドルを買うという取引を行うとき、日本円の金利を受け取ることを放棄する代わりに米国の金利を受け取ることになる
↓
●外貨預金と違いFXの場合、「証拠金」という形式で支払い能力を担保するための見せ金は必要だが、米ドルを買うための日本円を用意する必要がない
↓
●つまり、FXというのは、日本の銀行から借金をして、それを米国の銀行に預けるということと同様の経済効果がある
↓
●米国の銀行に預けると米国金利を受け取り、日本の銀行に預けると日本金利を支払うことになる
↓
●その結果、FXのスワップ収支は「米国金利−日本金利」という2国間の金利差となる
ちなみに、スワップとはデリバティブズの一種でもあり、「交換する」という意味があります。この場合、日本金利と米国金利を交換するという意味です。
このことから、日本円売り/米ドル買いのポジションの場合、
●FXのリターン = 米国金利 − 日本金利 + 為替変動
ということになるので、FX関連のシステムトレードを行うために必要なバックテスト環境を整備するためには、最低でも
●米国金利のデータ
●日本金利のデータ
●円/ドル為替レートのデータ
の3種類が絶対に必要だということになります。
機関投資家が持っているデータベース環境だと、これらのデータは当たり前のように揃いますが、一般の個人投資家がアクセス可能なソースでは、為替レートのデータの取得はともかく、金利のデータを取得することさえ困難です。
金利の時系列データがきっちりとそろっていることが期待できないので、中央銀行のホームページやFX会社のホームページなどをくまなく回って、データをつぎはぎして作って検証作業をするのがやっとのことです。
ましてや、実際のシステムトレードの検証では殆ど役に立たないものの、為替レートに関連すると経済学の世界で考えられているマクロ経済指標(鉱工業生産指数とか消費者物価指数など)の時系列データともなると、個人投資家の環境ではどうにも取得不可能です。
FXでさえこのような有様ですから、株式の世界だともっと大変です。次回は、株式のことも書いてみたいと思います。
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