富士山頂「住所」どこ? 世界遺産向け論争再び2008年05月26日18時26分 静岡、山梨の県境さえはっきりしない富士山頂の「住所」問題が、あらためて浮上している。8合目以上を所有する神社が今春、このままでは所有権登記ができないと静岡県に対処を求めたためだ。世界文化遺産登録を目指す両県は「相手を刺激して運動に水を差したくない」と線引きに及び腰で、解決への道のりは遠そうだ。
富士山をご神体と仰ぐ富士山本宮浅間大社(静岡県富士宮市)は3月、境界画定を求める要望書を石川嘉延・静岡県知事に提出した。外山貴寛権禰宜は「一般の住宅も登記して初めて『自分の家』となる。ご神体の富士山をお守りするため、境内地を宙に浮いた状態にしておけない」と訴える。 大社にとって8合目以上はご神体がいらっしゃる「奥宮境内地」。明治維新後に国有地に編入されたが、大社は57年、徳川家康が山頂を大社に寄進したとする古文書などを証拠に、無償譲与を求めて国を提訴。最高裁は74年、8合目以上の約385万平方メートルの所有権を大社に認めた。 ところが、自治体の境界線が定まらないため、国から大社に譲与通知が出されたのは判決から30年後の04年だった。そして現在も登記できない状態が続いている。 富士山が07年に世界文化遺産登録を目指す国の暫定リストに入ったことから、本登録に向けてあらためて注目されることが想定される。その前に「山頂は境内地」とはっきりさせておきたいとの思いが背景にはあるようだ。 一方、静岡・山梨両県は世界文化遺産本登録に向けて「県境を超えた協力」をうたっている真っ最中。関係者の間には、「境界問題は、両県にとって長年触れてこなかった腫れ物のようなもの」として改めて取り上げることへのためらいもある。 国土地理院によると、県境未画定地域は全国で18カ所(07年10月現在)。富士山頂付近はさらに、富士宮市(静岡県)、小山町(同)、鳴沢村(山梨県)、富士吉田市(同)の市町の境界も定まっていない。「山頂はどこに所属するか」の議論に加え、日本のシンボルで「そもそも境界線を引くべきではない」という意見も根強いからだ。 このため、山頂にある山小屋「銀明館」には毎年、固定資産税の納税通知書が2通届く。大社のある富士宮市と富士山を挟んで反対側にある小山町からの通知書だ。 もともとは富士宮市に納税してきたが、82年、当時の環境庁が登山道の位置関係などから所在地を小山町としたため、同町も課税を始めた。以来、二重課税状態は続き、銀明館はやむをえず税額を法務局に供託している。両市町とも解消の必要性は認めるが、「市町の境界より先に県境を定めてほしい」という。 これら「住所」の画定を求める動きについて、静岡県の担当者は「富士山は日本の象徴。それぞれの自治体が納得するためには、よほどの根拠が必要」。山梨県側も「富士山には、どこからどこまでと線を引くべきではないという県民世論と歴史的な背景がある」とする。(竹田麻衣) PR情報この記事の関連情報暮らし
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