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【社説】

築地市場予定地 移転白紙も選択肢だ

2008年5月26日

 築地市場の移転予定地から高濃度の化学物質が検出されている。生鮮食品を扱う市場だけに、食の安全への影響は軽視できない。安心を確保し、費用を考慮すれば、移転白紙も選択肢ではないか。

 「古く、狭く、危ない」。一九九九年九月、東京都の築地市場(中央区)を視察した石原慎太郎知事はこう表現した。水産物、青果物合わせて一日二十億円が取引されているが、開業から七十年たって老朽化して手狭なため、二〇〇一年十二月に豊洲地区(江東区)への移転が決まった。

 予定地は東京ガスの都市ガス製造工場跡地だ。同社の調査で鉛やヒ素、シアンなどの汚染の存在が明らかにされていたが、都の調査で地下水から環境基準の約千倍というベンゼンが検出された。

 このため、都は詳細に調査を実施した。今度は環境基準の四万三千倍のベンゼン、八百六十倍のシアン化合物が見つかるなど千四百七十五カ所で基準を超える有害物質が検出された。

 専門家会議は地下二メートルまでの土壌を入れ替え、さらに深い部分についても土壌、地下水を環境基準以下に処理する提案を行った。

 当初は六百七十億円と見込まれた汚染対策費だが、土壌を入れ替えるとなると、かなり大がかりな工事となる。予定地深部の浄化対策も加われば、移転の費用はどれほど増えるのだろう。

 一千億円を超すとの見方も出ている。都は移転を前提に議論を続けているが、巨費を投じてまで移転すべき場所なのか。

 ベンゼン汚染は基準の四万三千倍という高濃度だ。そもそも、万全対策というものがあるのか。

 汚染された土地だったという事実は否定できず、「風評被害」の問題がぬぐえない。あえて、そんな場所に市場を移転させても、都民の食への安心は得られまい。

 さらには、大地震の際に液状化現象が発生し、汚染物質が地表に出てくるのではないかという懸念も指摘されている。

 築地から豊洲への移転をこのまま推し進めていくことが賢明な政策なのかという疑問は尽きない。白紙に戻すというのも選択肢の一つだろう。

 石原知事は新銀行東京の経営で「進むも地獄、引くも地獄」と言いながら、追加増資として四百億円をつぎ込むことになった。

 役所の仕事は当初の計画を変更することがほとんどなく、結果として税金が余分に使われる。新銀行と同じ轍(てつ)を踏むべきではない。

 

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