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【社説】

最速の水着 格差を招かぬように

2008年5月26日

 「最速の水着」をめぐる騒ぎには首をかしげる。スポーツにも先端技術がかかわる時代とはいえ、水泳の本質はあくまで泳ぎそのものではないか。競技が道具に振り回されてはいけない。

 北京五輪を控えた水泳界を震撼(しんかん)させたのは、英スピード社製の水着「レーザー・レーサー」。米航空宇宙局などの協力も得て開発したもので、生地にも縫製にも最先端技術が生かされている。今季樹立された世界新記録のほとんどは、これを着た選手が出していることからしても、その高機能は間違いないようだ。

 だが、日本の五輪代表はいまのところ、これを着用できない。国内メーカー三社と契約があるためだ。そこで「これではオリンピックで勝負ができない」という声が噴き出し、騒ぎが一気にヒートアップした。日本水泳連盟はとりあえず三社に製品の改良を求めているが、場合によってはレーザー・レーサーの使用を認める可能性もあるとみられている。

 現場の選手がこの事態を見過ごしにできないのは当然のことだ。100分の1秒を争うレースで、これはまさしく死活問題である。ただ、一連の騒動には違和感もおぼえずにはいられない。そこに根本的な疑問も含まれているからだろう。

 何より、用具が主役のように扱われているのが気になる。重要な要素のひとつとはいえ、これは道具にすぎない。基本的に、競技が用具に振り回されるようなことがあってはならないのだ。

 国際水連をはじめとする関係団体には大きな責任がある。今後、最新鋭水着の開発はさらに進むに違いない。用具が勝負に与える影響を誰もが納得できる範囲にとどめておくために、新たな指針、明確な方策を打ち出す必要があるのではないか。道具が勝負を左右するような状況を招いては、競技そのものが成り立たなくなる。

 本来、水泳は身ひとつで誰でも取り組めるものだ。その純粋性を保つためにも、ここは大事な節目となるのではないか。

 平等、公平はスポーツに不可欠だ。競技の発展、普及に先端技術の果たす役割は大きいが、その恩恵を受けられる者はけっして多くない。企業の支援や豊富な資金がなければ勝てない状況は、結果として競技の衰退を招くだろう。スポーツに過剰な格差を持ち込まないよう、どう対処すべきか。水泳だけでなく、すべての競技が問われている。

 

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