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社説:視点 1院制議連 「ねじれ対策」では寂しい限り=論説委員・人羅格

 「ねじれ国会」対策なら、ご都合主義に過ぎる。自民党でにわかに再燃している国会の1院制導入論議についてである。

 仕掛け役は、16日に結成された自民有志の議員連盟だ。現在の衆参両院廃止による新たな「国民議会」の創設を提唱した。小泉純一郎元首相らが顧問となり、約80人が名を連ねた。設立趣意書では衆参2院制がもたらす機能の重複や、審議遅延などの弊害を強調。両院による二重チェックの長所を「損失」がはるかに上回ると結論づけた。

 憲法改正を必要とする1院制導入論は、以前からある。そもそも終戦後、連合国軍総司令部(GHQ)が作った憲法草案は1院制だった。この論議と密接に絡むのは参院改革問題だ。自民、社会両党のいわゆる「55年体制」が確立してから参院議員は急速に政党単位の構成に変化。独自性を失い、衆院の「カーボンコピー」との屈辱的呼称までついた。ならば衆院と統合した方が効率的ではないか。これが従来の主な論拠である。

 議連の代表世話人、衛藤征士郎衆院議員は、国会の「ねじれ」とは別物の運動と説明する。しかし、与野党逆転で、参院が異例の「存在感」を発揮するさなかである。自民党が05年にまとめた新憲法草案は、現在の2院制を堅持している。早々に見直しを提起する動機は、ねじれが数年間は続くとみる危機感以外にあるまい。民主党には、参院での強硬姿勢が参院無用論を加速させることへの警戒がある。そんな心理にプレッシャーをかける狙いも透けてみえる。

 むろん、参院改革論議は必要だ。野党が多数を取ったとたんに国会審議が行き詰まるのも、政党化の裏返しだ。テーマによっては党議拘束の緩和などを大いに検討すべきだろう。

 一方で、日本の2院制が、両院が似通った性格を持つことも事実だ。議院内閣制の下で2院制を敷く場合、他国は日本の参院にあたる上院は議員の選出方法を州代表や任命制とすることが多い。衆院にあたる下院と機能を分離するためだ。自民党にも、「道州制」を実現した場合、参院を道州代表に改編すべきだとの意見がある。

 だからこそ、2院制の下で両院の「すみ分け」を図る選択肢を最初から捨て去るのは性急に過ぎる。衆参議員の選出方法や衆院優位の強化の是非も含め、与野党は制度改革を幅広く議論すべきだ。その中で、一案として1院制も冷静に精査できよう。国家百年の大計というよりは、ねじれ対策の安易さが議論につきまとうのでは、何とも寂しい。

毎日新聞 2008年5月26日 東京朝刊

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