幕末、明治から昭和初期にかけ、日本の産業近代化に貢献した建物群を「近代化遺産」と呼ぶことがある。瀬戸内海に浮かぶ岡山市の犬島で、直島福武美術館財団が展開するアートプロジェクトの舞台となっている銅精錬所跡もその一つだ。
スポットが当たり始めた近代化遺産に比べ、戦後復興への思いを込めた昭和の建物群は、建設から半世紀以上を経て忘れ去られようとしている。
JR広島駅に近い広島市南区京橋町に、昭和二十九(一九五四)年に建てられた市営住宅兼店舗の「京橋会館」がある。鉄筋コンクリート四階建て。中庭を囲んで周囲に住居・店舗を城壁のように配置した設計はユニーク。中国南部の客家(はっか)の人たちが住む円楼を想起させる。
住居部分に三十四世帯、一、二階に十九店舗が入居して、いまだ現役ではあるが、いかにも古い。だが、どこか懐かしさも感じさせる面影がある。
岡山市内にも、昭和二十六(一九五一)年に建てられた「岡ビル」(同市野田屋町)が健在だ。一階が店舗、二〜四階が店舗で働く人たちの住居になっている。当時、鉄筋コンクリートの建物は市内ではデパートの天満屋、日銀岡山支店ぐらいだったという。
岡ビルはまだまだ元気だが、広島の京橋会館は老朽化で市が再開発することになっている。資材の高騰で民間事業者が決まらず、取り壊しは延び延びになってはいるが、早晩、姿を消す運命にある。私とほぼ同年代の建物が次々消えるのは、ちょっと寂しい。 (広島支社・秋山清和)