阿修羅
天平彫刻の傑作・阿修羅像が
興福寺所蔵佛であることを知らない参拝者が意外に多い。
そこで、五重塔の木柵拡張工事にともなって
阿修羅像の案内看板ポスターを設置したところ、
内陣での諸像撮影は禁止しているせいか、
その看板が参拝記念のシャッタースポットになった。
阿修羅は、もともとゾロアスター教の主神・アフラ・マズダーであり、
自動車メーカー”mazda”の社名もこれに因むという。
BC800年頃までに中央アジア西トルキスタンのアーリア人が分派し、
一方はインド大陸に入ってバラモン教を、
もう一方は少し遅れてイランへ入りBC630年頃にゾロアスター教をそれぞれ生みだした。
佛教が興る200年以上も過去の出来事である。
ササン朝ペルシアではゾロアスターを国教としたが、
やがてイスラム教徒の侵入で衰退し、
現在はインド・パキスタン・イランの一部のおよそ11万人によって信仰されている。
バラモン教の聖典「ヴェーダ」には、アグニ(火天)やアスラ(阿修羅)が森を焼き、
雷神のインドラ(帝釈天)と闘争する修羅場が説かれているように、
インドでは、ア・スラ(非・天)とされて、怒りの世界に生きる悪神と位置付けられてしまった。
後に佛教が興り、
その教えに触れて帰依すると同時に修羅界から抜け出し、
その瞬間の姿を見事に具現したのが興福寺の阿修羅像とされる。
他宗教の主神であっても包み込んでしまう佛教の寛容な精神がここにも見てとれる。
阿修羅像を遠くから観ると、顰めた眉が強調されて悲しい表情に映るが、
近づくにしたがって、それは穏やかな表情へと変っていく。
また、拝する人の心の状態が、阿修羅の表情に投影されているのかも知れない。
追申:
『興福寺 国宝 阿修羅展』
2009年3月31日~6月7日・東京国立博物館
7月14日~9月27日・九州国立博物館
- 投稿者:fukui
- 日時:17:58
comments
良俊さま
今年の春は阿修羅像を国宝館では拝見できないのですね。その分、普段公開されないものが展示されるのでしょうか。期待しています。