神々との共生(きょうせい)
 
 アイヌの人たちは、自分たちがくらすアイヌモシリの動植物、道具類(どうぐるい)津波(つなみ)地震(じしん)、流行病などはラマッと呼ばれる"(れい)"をもっており、これらの事象(じしょう)はそのラマッが住む世界からそれぞれの役割(やくわり)をもってアイヌモシリにやってきており、その役割(やくわり)を終えるとふたたびもとの世界にもどると考えていました。
  一方、アイヌの人たちにとっての神々は、そのくらしに欠くことができないもの、あるいはアイヌの人たちの力が及ばないものなどです。生活のかてとなる動植物はおおむね良い神ですが、流行病(りゅうこうびょう)天災(てんさい)はくらしをおびやかす悪い神とされています。
 アイヌの人たちは事あるたびに、神への祈りを行いますが、どの神に祈るときにもまずアペフチカムイと呼ばれる火の神に祈り、そしてその祈願(きがん)が正しく神に(とど)くようにお願いします。アペフチカムイはチセのなかに(もう)けられた()におり、アイヌの人たちのくらしをあたたかく見まもる、もっとも身近な神です。


クマの(れい)送り(財団法人アイヌ民族博物館が平成6年に実施。同館蔵)


イクパスイとトゥキ(杯)。神々に祈る(さい)(もち)いる。イクパスイは人間の祈り言葉を神々に伝える役目を持つ(旭川市博物館蔵)


イナウ(木幣)。神々に祈る(さい)に用いる。イナウ自身が神であったり、神への供物(くもつ)となったりで、役割(やくわり)多様(たよう)である(旭川市博物館蔵)


神々の(れい)を送る
 
 アイヌの人たちが行う「クマ祭り」は多くの人びとに知られています。しかし、その本意(ほんい)とするところは、毛皮(けがわ)や肉などをアイヌの人たちに届ける役割(やくわり)を果たすために、アイヌモシリを(おとず)れたクマの"(れい)"をそれが住む世界へ送り帰すための儀礼(ぎれい)です。したがって、正しくは「クマの(れい)送り」です。(れい)を送るにあたっては丁重(ていちょう)儀礼(ぎれい)が行われ、そして盛大(せいだい)饗宴(きょうえん)とおみやげが(ともな)います。アイヌの人たちにとって、アイヌモシリに生起(せいき)する事象(じしょう)がもつ"(れい)"をその世界へ送り帰すことは、とても大切な儀礼(ぎれい)となっています。それがアイヌの人たちのくらしに密接(みっせつ)であればあるほど、盛大(せいだい)かつ厳粛(げんしゅく)に行われます。

イノカ(木偶(もくぐう))。サハリンアイヌが用いたもので、クマの(れい)送りのときにつくり、豊猟(ほうりょう)を祈る(旭川市博物館蔵)


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