いつの間にか「勝ち組」「負け組」という恐ろしく競争心をあおる言葉が平然と使われるようになっていた。職場がぎすぎすしていくのと、時を同じくしていたように思う▼働く現場に詳しい人に話を聞いたら今はもっと恐ろしく、極論すれば「過労による死」か「貧困」の選択を迫られかねない状況だという。競争社会によって働く環境が悪化していても勝ち組になるため我慢するか、やめてどん底の生活をするかである▼厚生労働省による二〇〇七年度の労災認定のまとめでは、百四十二人が長時間の残業を原因とする心筋梗塞(こうそく)などで「過労死」した。これだけでも深刻な数字だが、同じ年度に「過労自殺」した人は未遂も含め過去最悪の八十一人に上る▼ストレスなども加わり、うつ病などの「心の病」にかかっている。体にせよ心にせよ、過労でぼろぼろになりながら働き続けたのである。明日はわが身かと思う人もいよう▼心理学者の加藤諦三さんは自著で日本が不況によって壊れることはないが、心の不健康を放置しておけば壊れることは十分あると警鐘を鳴らしている。五年前のことで、もう壊れ始めているのかもしれない▼同省所管の労働政策研究・研修機構の調査では貧富の差の少ない「平等社会」や「終身雇用」を求める人の割合が増えている。働く人たちのSOSに聞こえる。無視していいはずがない。