東京・歌舞伎町のコマ劇場東側。“眠らない街”のど真ん中に、通称「ビデオ村」と呼ばれる一角がある。雑然と並ぶ雑居ビルの中にひしめく無修正アダルトビデオ・DVD専門店の数々は、日本の“欲望の鏡”でもある。警視庁は17日、裏ビデオの“聖地”に捜査のメスを入れ、わいせつ図画販売などの容疑で43人を逮捕し、DVD9万3500枚を押収した。何度も大規模摘発を受けながらしぶとく再生を続け、警察を歯がみさせてきたビデオ村。だが現場を歩いてみると、ビデオ村にはかつてない逆風が吹いていて…。(森浩、中村翔樹)
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押収されたわいせつDVD
■摘発わずか3日後に復活…ファンでごった返していた
「きょうから営業を再開しました」
警視庁の一斉捜索から3日が経過した20日。ビデオ村にはすでに“営業再開”した店舗があった。
細い階段を上ると2坪ほどのスペースに雑然とDVDが並ぶ。店員がさらりと話した。
「19日の月曜日に再開していた店もありましたよ」
棚に並ぶのはすべて無修正のアダルトDVD。店舗に在庫はなく、客が注文すると、離れた場所にある倉庫から商品を運んでくるのだ。
「ブツを置かない店が近年特に増えた。明らかに摘発逃れだ」。警視庁幹部は苦々しそうに言う。
今回、警視庁は「倉庫」だったマンションに立ち入り、室内から4万枚のDVDを押収した。
しかし、店内は早くも詰めかけた“熱烈なファン”でごった返していた。この店では4枚5000円、14枚で1万円という価格設定だ。
売られているDVDは、国内AVメーカーが海外向けに発売した商品を逆輸入したものや、インターネットで配信されている画像をDVD化したものが現在の中心だという。
日本人の若い女性が多数出演している「スカイエンジェル」など定番化する売れ筋のシリーズも。
店員が胸を張った。
「うちの強みは新作です。週2回入荷してますから。とにかく(入荷が)早いですよ」
■暴力団に流れる売上…「3割ぐらい持っていかれる」
警視庁保安課は今回の摘発で、「ビデオ村」のDVD店42店舗と倉庫を摘発し、わいせつ図画販売などの容疑で計43人を逮捕した。
逮捕された簗取義博容疑者(57)らは、4月5日から5月10日までの間、東京都新宿区歌舞伎町の店舗などで、男性客(44)ら11人にわいせつなDVDを販売した疑いが持たれている。
歌舞伎町のビデオ店のルーツは、かつての「ビニ本」(ビニールの袋で包装した無修正ポルノ写真集)店にさかのぼる。
「風俗街ということでビニ本店が勃興した。以降、ビデオ、DVD…とメディアが進化するとともに、業態が変わっていった」(風俗ライター)
10年ほど前はビデオ村だけで50以上の販売店があった。警視庁は過去に10回以上大規模な摘発を行っており、2年前に摘発したときも“一掃”に近い状態に追い込んだという。
「だが…」と警視庁幹部が言う。
「潰しても潰しても、いつの間にか復活するんだ。いたちごっこだよ」
店舗には“連絡役”がいて、横の連携がきわめて密だ。「1店舗摘発すると、その日のうちに全店舗に情報が知れ渡ってトンズラする」と警視庁捜査員。
したがって散発的な摘発では効果が上がらず、250人もの捜査員を動員して、一斉に着手しないと成果はないのだという。
警視庁が歌舞伎町の「ビデオ村」を問題視し、摘発を繰り返す理由は、「暴力団」の存在だ。
ビデオ店の上部には暴力団があり、売り上げが暴力団の利益になっているからだ。
あるビデオ店の店員が証言する。
「シノギは正直厳しい。3割ぐらい(暴力団に)持っていかれることもある」
警視庁幹部は「結局、叩き続けないと暴力団を利することになる。攻撃の手は緩めない」と語気を強める。
■「最大の脅威」は警察ではなく「ネット」
男性たちの欲望に支えられ、“尋常でない生命力”を見せてきた「ビデオ村」だが、その立脚基盤は地盤沈下ともいうべき逆風が吹いている。
「ビデオ村」を揺るがしているのは「ネット」なのだという。
「やっぱりネットの影響ですよ。商売あがったりです。かつては月1000万円を売り上げた店もあったが、今や昔です」
ビデオ店店主は寂しげな表情で振り返る。
インターネットで無修正画像は当たり前。さらにファイル交換ソフトの発達で、大容量のビデオが無料で簡単に入手できるようになった。
「客層が一気に高齢化してしまった。客として来るのはおじさんかおじいちゃんですよ。支えているのは団塊の世代と言っても過言でない。かつては性への興味ではちきれんばかりの高校生が来ていたものですが…」
警察から摘発されても復活はするが、「ビデオ村」全体の市場規模は縮小しているようだ。
最近ではパソコンのハードディスクにアダルト動画を詰め込んで「1台5万円」と販売する例もあるというが、主流になるには至っていない。
ただ、利用者はネットにはないメリットを感じているようだ。客に話を聞いてみた。
男性(45)はビデオ村に来る理由について、「ネットはワンクリック詐欺などが怖い。自分で買うほうが安全だし、(店に来たほうが)ネットより種類が多い」と強調する。
男性会社員(33)は「インターネットは、家族に気づかれやすい。こういう店は自分で直接手に入れられるので助かる。買ってマンガ喫茶で見ます」と笑顔で話す。
「結局、ビデオ村はアナログ人間が支える場所になっている。ただ、ネットの猛威をしのぎきれるとは考えにくい。“裏ビデオの聖地”も、今後は緩やかに衰退していくはず」
前出の風俗ライターはそう分析している。
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