6月1日から施行される改正道路交通法により75歳以上のドライバーに高齢者マーク(もみじマーク)の表示が義務化されることに対して、異論が噴出している。「高齢者の線引き」と批判が強い後期高齢者医療制度(長寿医療制度)の「第2弾」となりかねないだけに警察庁は慌てて今後1年間は違反者摘発を見送る方針を決めたが、批判はますます強まる公算が大きい。(坂井広志)
改正道交法は安倍前政権の平成19年6月の通常国会で社民党を除く与野党の賛成多数で成立した。6月からは75歳以上のドライバーに「もみじマーク」の表示を義務付け、違反者反則金4000円、1点減点を科される。
高齢者ドライバーの事故増加を受けての措置だが、昨年の国会審議ではほとんど議論にならなかった。 改正道交法には、飲酒運転やひき逃げの罰則強化▽児童・幼児の自転車乗用時のヘルメット着用努力義務▽後部座席シートベルトの着用義務化−なども含まれており、当時はこれらの方が注目されたからだ。
ところが、20日の自民党総務会で突如批判が吹き出した。口火を切ったのは市川一朗参院議員だった。
「後期高齢者医療問題で紛糾しているときに高齢者マークの義務化をすれば大変な問題になる。そもそも高齢者に『枯れ葉マーク』とは失礼ではないか」
これを受けて他の総務も「そもそも『高齢者問題をどう考えるか』という哲学がないから、こんな話が次々に出てくるのではないか」などと同調。「もみじマーク」が初心者用の「若葉マーク」と葉っぱの形状が逆さまで、オレンジ色と黄色の“渋い色調”となっていることにも批判が上がったほか、「マークの縁取りが黒いのもいかにも暗示的でけしからん」との声も上がった。
総務会では最終的に伊吹文明幹事長が議論を引き取ったが、批判は収まりそうもない。
こうした自民党内の動きを受けて警察庁は慌てて今後1年間は違反者を摘発せず、指導にとどめる方針を全国都道府県警に通達した。1年後の対応は「表示率の状況を勘案して決める」(担当者)という。ある警察庁幹部は「もみじマークの普及率は現在4割。運転に問題があるドライバーほどマークを張りたがらない傾向もあり、義務化はやむを得なかった」と説明する。
しかし、民主党は終盤国会で後期高齢者医療制度を徹底的に追及する構えを見せており、「もみじマーク」にも批判が飛び火する可能性は高い。福田康夫首相も後期高齢者医療制度への反発を受けて「心ならずも高齢者に冷たい印象を与えてしまった」(19日の自民党役員会)として自民党に高齢者対策の抜本見直しを指示しており、「高齢者にレッテルを張る政策」としてマーク見直しの動きは強まりそうだ。
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