社説ウオッチング

文字サイズ変更
ブックマーク
Yahoo!ブックマークに登録
はてなブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷
印刷

社説ウオッチング:ガソリン税再可決 「環境整わず」と批判

 ◇「環境整わず」と批判--毎日

 ◇道路財源法案の矛盾を指摘--各紙

 ガソリン税をめぐり鳴動した国会の与野党攻防は4月30日、衆院での再可決により、失効していた暫定税率が復活した。値下げが1カ月とつかの間に終わり、連休さなかのドタバタにうんざりした人も多いだろう。ただ、ものは考えようでもある。身近なガソリン代が国会の動向と直結したことは、政治が決して生活と無縁な「劇場」でないことを実感する機会ともなったはずだ。各紙は、この局面をどう論じたのか。

 毎日は再可決について「先にすべきことがあった」との見出しで「納得いくものではない」と批判した。4月29日付社説も「再可決の環境にはほど遠い」と、与党が衆院で再可決に踏み切る状況にないと強調した。

 衆院で与党が3分の2以上の賛成で法案を再可決したのは、海上自衛隊によるインド洋上の給油活動を継続する新テロ対策特措法が成立した今年1月以来だ。参院で否決された法案としては57年ぶりだった新テロ法再可決の際、毎日は「今回は非常事態と心得よ」と、あくまで例外的措置とするよう注文した経緯がある。

 では、なぜ今回は容認できないか。福田康夫首相が3月に表明した道路特定財源を09年度から一般財源化する新方針が空手形に終わる疑いがある中、税率だけ先に戻すことは認められない、というのが最大の理由だ。

 ◇「一般化」道筋示せず

 毎日は暫定税率の水準そのものに反対ではなく、特定財源の一般財源化こそが道路問題の本質、との主張だ。従って首相の新方針を評価すると同時に(1)自民党の党議決定などで方針を裏づける(2)道路特定財源を10年間維持する内容の道路整備財源特例法改正案は大幅に修正する--の2点を主張してきた。こうした手だてが十分取られず、官僚の天下りや公費無駄遣いに切り込む具体案も不足している。このため再可決は認められないと判断した。加えて国会の混迷打開に向け、衆院解散・総選挙が必要と改めて主張。早期に民意を問うよう、首相に発想転換を促した。

 他紙は、朝日も「とうてい納得できない」と再可決を批判した。道路特例法改正案を温存したままの再可決を道路予算を聖域とする表れとみて「首相はこの(特例)法案を断念すべきなのだ」と主張。東京も「国民の政治不信が増幅するのを懸念する」と批判した。

 ◇再可決支持派は3紙

 一方、読売、日経、産経は再可決による税率復活に賛成した。いずれも、国と地方合わせて年間で2兆6000億円の歳入欠陥が生じる事態の回避を優先すべきだ、との立場からだ。「再可決で関連法を成立させたのは、政府・与党としての責務」(読売)、「厳しい財政事情や環境対策を考慮すると再可決はやむを得ない」(日経)、「再議決に踏み切ったのは当然だ」(産経)と擁護した。

 しかし、支持派3紙とも、1日付社説はそろって一般財源化の努力も首相に促した。特に、道路特例法改正案については一般財源化方針と整合しない点を3紙とも指摘、「日経」「産経」は法案修正も促した。再可決について主要紙の判断は分かれたが、一般財源化の具体化を促す論調はそろっている。政府・与党は特例法案を衆院再可決で今月中旬に成立させる方針だが、主要紙のほとんどから理解は得られていない。

 また、再可決に先立ち注目を浴びたのが、27日投開票の衆院山口2区補選だ。福田内閣発足後初の国政選挙で民主前職が自民新人を2万票差で降しただけに、各紙は28日付社説で取り上げた。

 毎日は後期高齢者医療制度と、ガソリン税復活方針への有権者の反発を自民の敗因に挙げ、首相に「敗北を謙虚に受け止め、政権運営のあり方を反省」するよう求めた。国民世論の怒りが反映されたとみて、ガソリン税の再可決を容認しない論拠のひとつとした。同時に、高齢者医療について、制度のあり方も含め再点検を求めた。

 一方、読売は補選の自民敗因を新医療制度への反発にほぼ特定し「十分な準備や説明を怠り、混乱を招いた」と政府対応を批判。日経も29日付社説で新医療制度を敗因として、運営の立て直しを求めた。主要紙のほとんどが新医療制度への反発を自民の敗因に挙げたが、ガソリン税問題の影響の評価には濃淡がある。今回の再可決の評価にもやや連動しているようだ。

 ◇民主への論調も辛口

 深まる与野党対立。国会の展開は全く予断を許さない。ただ、攻勢に出る民主党への各紙の論調も依然として厳しい。再可決を批判した3紙に限っても毎日は一般財源化に向けた与野党協議に慎重な同党の対応を「問題は多い」と批判。朝日は「政権打倒も、政策も」(29日)と両立を要求。東京も「政局優先の対応をしたことはほめられたものではない」と注文をつけた。民主党は果たして補選の追い風を持続できるのか。参院での首相問責決議案の提出をどうさばくか、という難題がその試金石となる。【論説委員・人羅格】

毎日新聞 2008年5月4日 東京朝刊

 

おすすめ情報