この記事は、ある問題に巻き込まれた元市民記者・河合豊彦さんの名誉回復のために執筆するものです。
その問題を引き起こした当該記者Aさん、河合豊彦さんのいずれとも面識があった編集部・馬場が、今回の問題で彼らとの話し合いの場に同席し、全体像を把握し、馬場の視点からこの記事を執筆しています。メール対応など、記事中に書かれている実際のやり取りは、オーマイニュース総合窓口担当者である編集部・小宮山が行いました。それらの点、ご理解の上、お読みください。 ◇ 正直、わけがわからなかった 4月上旬、オーマイニュース編集部にメールが届いた。 「日韓市民交流会でお会いした河合豊彦です。諸事情により、記者登録を抹消しましたが、私が投稿した記事についても削除していただきたく思います。理由は、ネット上に半永久的に河合豊彦の名前が残されていることや、私が執筆していない記事(友人のブログに掲載されていたものを無断盗用した)まで投稿し、読者から苦情をいただいたことが理由です。そのため、私の記事・川柳を全件削除していただきたいのです」 確認してみると、たしかに河合さんは市民記者登録を抹消している。そして、退会理由の欄には異常に長い文章が書き連ねられていた。しかし、よく読んでみると、それは、あるブログのエントリ内容だった。 何があったのかはわからないが、そのまま、記事を削除することはできない。記事の取り下げには、納得できる理由をもとに、両者の合意が必要だからだ。 まず、メールの文面から取り下げを希望する理由を検証してみる。 「ネット上に半永久的に河合豊彦の名前が残されている」 これは言語道断。「ではなぜ記事を投稿したの?」と、そもそも論から始めなければならない。 しかし、次の「ブログに掲載されていたものを無断盗用」となると、話は変わってくる。事実確認を行い、対処する必要がある。 そこで河合さんに対し、「詳細を教えてくれ」という内容のメールを送信。 するとただ一文、 「早急に全件削除の対応をされますように」 との返信。事情がつかめない。再度メールを送信するも、今度は音さたなし。どうも様子がおかしい。 河合さんとは日韓市民記者交流会で一度会っている。そのときの印象は「さわやかな好青年」だった。しかし、記事やコメント欄に登場する彼の姿はその印象とはかけ離れた、エキセントリックなものが多く、人は見かけによらないものだ、などと日和見的に思っていた。それに加えて今回のメール、そしてコピペの退会理由。わけがわからない、というのが正直な感想だった。連絡がとれないのだから対処のしようもなく、この件はしばらく棚上げに。 しかし、その後、思わぬ事実が判明する。私が会った河合豊彦さんと、“市民記者、河合豊彦”は別人だったのである。 「熱意ある」と感じた回答も、第3者のブログの転載 再度のメールから約2週間後。編集部に1本の電話が入った。 「河合さんの件でお電話したのですが……」 電話の主(ぬし)は、日韓市民記者交流会にも参加した別の市民記者の1人、Aさんだった。河合さんの件で、なぜAさんが? との疑問を抱きつつ、話を聞くことに。 なお今回、Aさんがオーマイニュースに対して行ったのはいわば詐欺行為であり、同様のことをさまざまなところで行っているという確度の高い情報も得ているが、余罪に関しては確証を得るまでにはいたっていない。このため、当記事では、彼の名を「Aさん」と記述する。 Aさんは言う。 「打ち明けたいことがあります。実は、河合豊彦の名で記事を書いていたのは私です。彼はそのことを知りません」 「???」 言わんとしていることがわからない。質問を繰り返すも、話はかなり込み入っていた。Aさんの突然のカミングアウトに、私の理解がおよばない部分も多々あったので、あらためて細かな事情を文面でもらうことにする。 2日後、Aさんからメールが届いた。長文のため、要約して掲載する。 「今回の件に関しまして、事実関係を詳しくご説明いたします。ことの発端は、オーマイニュースの韓国市民記者交流会でした。私はこの交流会に、同じ団体で活動をしていた河合豊彦・市民記者を誘いました。誘った名目は、『無料で韓国に行けるという、記者の催しがある』というもので、誘うに当たって、私が河合記者の市民登録をし、私の友人のミクシィに書かれた日記を全文そのまま転載し、オーマイニュースに登録しました。前後して、本人が創作していない川柳2作品や日記を無断で投稿し、オーマイに掲載していました。これは、市民記者として活動をしていないと見られた場合、韓国に招待してもらえなくなるのではないかと思い、事前に投稿の実績を作っておこうと考えての行動でした」 要するに河合さんを韓国に連れて行くため、虚偽登録し、実績を作るために第3者の作品を河合名で投稿したわけだ。そして次々と新たな事実が判明する。 いったいどこが善意? 交流会参加者をつのる際には、「交流会参加を希望する目的」などの項目からなるアンケートをとったのだが、河合さんから届けられた回答には「市民メディアの可能性を探りたい」などと、意欲的な内容が書かれていた。熱意を感じ取ったからこそ、彼に参加を打診したのだが、実は、そのアンケートもまたAさんが処理しており、私が「熱意ある」と感じた文章は、第3者のブログの転載だというのだ。 続いてAさんは今回の問題の発端を、こう書いていた。 「帰国後、2本の記事を河合さんのブログから転載しました。これら一連に関して問題だったのが、ブログの記事も、川柳や日記の転載も、本人の了解を取らずに無断でオーマイに投稿してしまったということです。この事実を知った河合記者から問い合わせがあり、『名誉にかかわることなので、早急に削除の対応をしてほしい』という要請がありました。そのため、私が差出人・河合豊彦のメールアドレスで削除依頼を出したわけです」 そして、最後にこう締めくくる。 「これら一連の行動は、河合記者と韓国に行き、ともに見聞を深めたいという善意であり(行為自体は悪意的だということは十分理解しています)、その行動が行き過ぎてしまったということです」 河合豊彦名義で、まるで一貫性のない記事を投稿し続け、コメント欄には彼の名で、常識を疑う書き込みをする。「ともに見聞を深めたい」相手に対する行為とは到底思えない(ちなみに「見聞を深める」という表現はない。正しくは「見聞を広める」、あるいは「見識を深める」)。 いったい何をもって「善意」などと言っているのか。ずうずうしいにもほどがある。 この段階で、河合豊彦名義の記事はすべて削除。原稿料の件もクリアにし、それ以外の対応に関しては、直接顔を突き合わせて話し合うことになった。メールだけではよくわからない部分がある。こちらから質問したいこともある。一応、情状酌量の余地があるかどうかを検討せねばならない。愉快な面会とはいえないが、何があったのかを知るためには仕方がない。 「本当に何も知りませんでした」 5月7日、17時。Aさんとの面会の場が設けられた。河合さん同席した。当然ながら、一連の出来事に河合さんは激昂(げっこう)し、Aさんの態度次第では「訴訟を起こすことも辞さない」とのこと。 この日の目的は、Aさんからさらに細かい状況を聞くこと。しかし、それ以外にも私には追及したいことがあった。そもそも、河合さんは、本当に“何も知らなかったのか”ということだ。韓国に実際に“無料”で行っており、さらに現地で市民記者同士の交流を行っている。これで、「事情を何も知らなかった」ということがありえるのだろうか。 河合さんは言う。 「本当に知りませんでした。というよりも、市民記者でなければ韓国に行けないということを理解していませんでした。私は当時、Aさんを尊敬していましたし、オーマイニュースと太いパイプでつながっており、顔がきくのだと理解していました。市民メディアに関する知識もない状態でした。彼が何もかも、いいように段取ってくれているものだと思っておりましたが、それが私の甘さだったことは認めます」 実際に韓国に行くと、編集部の人間から「この交流会に参加したことを記事を書いてください」的なニュアンスのことを言われる。しかし、オーマイニュースどころか市民メディアに対する理解がなく、さらに、交流会の趣旨や目的も理解していない状態だったため、事情をよく飲み込めなかったという。 帰国後、自分が市民記者登録されていること(Aさんの手で)は、漠然と理解しながらも、日々の忙しさにかまけ、何も確認せずにいた。 するとある日、知人から、「オーマイニュースで記事書いてるね」と言われたのだという。寝耳に水。Aさんに確認してみたところ、前述のことが発覚したのである。 その結果、編集部に届けられたのが、冒頭の河合豊彦の名を騙(かた)った、Aさんからのメールだったというわけだ。 何もかもが信用できない 河合さんの話を聞き終え、続いてAさんに事情を質問した。 驚きの連続だった。彼がこのような行為を働いたのは実は今回が初めてではなかった。つまり詐欺の常習犯だったのである。 今回の一連の出来事と前後し、別の市民メディアでも同様の行為を行っていたことが発覚し、そこではすでに除名されていた。また、かつて所属していた団体では、理事の名に、許可も得ていない政治家の名前を書き、それが発覚し、団体は解散に追い込んだ。自身が開設しているホームページには、数多くの受賞歴や、メディア出演歴が書き連ねられていたが、どうやら、それらもほとんどがウソのようなのだ。あまりにひどい。 いろいろな話を聞くにつれ、「今、現在聞いている話すら、本当なのかどうか」と疑いを禁じえなかった。彼の口から語られる何もかもが信用できないのである。そんな人物が書いた記事など、まったく信用に値しないだろう。 面会の結果、編集部はAさんの行為を「非常に悪質」と判断。市民記者登録の無期限抹消、全記事取り下げ。そして、韓国への旅行費用の全額を返金、そして公開を前提に、顛末(てんまつ)書の執筆を要請した。 最後に、河合さんから編集部へと依頼があった。それは、「名誉回復のために、今回の顛末(てんまつ)を編集部で記事として出してほしい」というもの。Aさんは異論を唱(とな)えられるわけもなく、承諾。 それがこの記事というわけだ。なお、編集部は河合さんの旅費もまた、回収することにした。本人から「返却する」との申し出があったからだ。 読む気すら失せてしまった 最後にAさんの顛末書を掲載しよう。 ことの発端は、昨年度に開催された、オーマイニュースの韓国市民記者交流会でした。私はこの交流会に、同じ団体で活動をしていた河合豊彦・市民記者を誘いました。誘った名目は、『無料で韓国に行けるという、記者の催しがある』というもので、誘うに当たって、私が本人の同意の上で河合記者の市民登録を代行し、オーマイニュースに登録しました。 これは、市民記者として活動をしていないと見られた場合、韓国に招待してもらえなくなるのではないかと思い、事前に投稿の実績を作っておこうと考えての行動でした。その後、帰国後に河合記者が多忙のために韓国記者交流会での記事を掲載できなかったため、不自然ではないように2本の記事を河合さんのブログから転載しました。そして、これらの一連に関して問題だったのが、本人にブログの記事に関しても、川柳や日記の転載に関しても、本人の了解を取らずに無断でオーマイに投稿してしまったということです。 お気づきの方もいるだろうが、この文章はほとんど、以前送られてきたメールのコピペである。顛末書がコピペ。反省している者の態度とはまったく思えない。読む気すら失せてしまった。 これにより、編集部との相談の場を設け、記者登録を抹消し、退会処分にすることで同意いたします。また、関係者に心から謝罪します。 これほど軽い「心から謝罪」はないだろう。きっと今後も、同じようなことを繰り返そうとするにちがいない。今までも繰り返してきたわけだから。その都度、本人にツケがかえり、その繰り返しによって、いつか彼が更正することを望みたい。
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