2008年05月05日
相次ぐ食品偽装・価格高騰を読み解く
このところ、また次々に出てくる期限切れ食品の問題。ミートホープや比内地鶏のような詐欺は別にして、老舗有名菓子や食品会社がシールの張り替え、といようなことは、企業がやってはならないことだ。しかし、現場からは「まだ十分に食べられるものを捨てるのは忍びない。もったいない」という声も聞こえてくる。先日報道された船場吉兆の食べ残し使いまわし事件に関しても「もったいない精神と言いますか…」とコメントされている。
コンビニでも毎日多くの食品が期限切れというだけで捨てられているのはご存知だろうか。コンビニチェーンは、そういう捨てるコストも見込んで定価を付けているため、捨てられる弁当の料金が他の弁当にのっているはず。おなかを壊したりしたら、確かにいけないのは当然だ。特に、老人、子供はそのために生命の危機に陥ることもある。しかし、それでも、納得いかないところを感じるのは私だけだろうか。
不二家や雪印はやりすぎた感じがあって、被害を受けた購入者もあった。しかし、赤福も、白い恋人も、あれだけ販売期間を伸ばしてきても、巻き直しをしてきても、おなかを壊した、という話は聞かない。私自身も、何度も赤福や白い恋人を食べてきたけれど、変な味、を感じたことはない。もしかしたら、いま、日本の食品はもっと日持ちがするようになっているのではないか、食品衛生法が、実体に即していないのではないか、と感じるのだ。こういう疑問を持っている人は、けっこういるのだろう。食品原料価格の高騰により、食の問題がますます深刻化している。
私たち一般人は、食品衛生法のことを知らない。だから、厚生労働省が摘発、といったら、それだけで悪い会社と見なしてしまう。ほんとうにそうなのだろうか？ ＨAＣＣＰを始め、日本の食品管理技術は非常に進んでいる。それに厚生労働省がついてきていないとしたら、そこにこそメスを入れる必要があるのではないだろうか。衛生法の見直しをしないことによる、不作為の罪が起こっているのではないだろうか。食の問題は、待ったなしの時代になっている。日本の食料の自給率も国家の危機管理の点から問題と言えるほど、下がっている。そんなときに、法律が遅れていることによる食品の大量投棄問題が起っている。
食品衛生法は、どのように作られ、更新されてきたか。食品衛生法の中で、販売期限についての概略説明、不二家、赤福、白い恋人等々で何が起こっていたのか。覆面でもいいので、食品関係者、専門家から、何が問題なのか、意見を集める仕事を始めた。ポリリン酸など防腐剤に依存する食品衛生でいいのか。こういう問題を起こさないために、何を是正すべきなのか。かしこい消費者として、どうすればよいのかを考えていく必要があるだろう。
(著者：上杉幸憲／農業ジャーナリスト)
コンビニでも毎日多くの食品が期限切れというだけで捨てられているのはご存知だろうか。コンビニチェーンは、そういう捨てるコストも見込んで定価を付けているため、捨てられる弁当の料金が他の弁当にのっているはず。おなかを壊したりしたら、確かにいけないのは当然だ。特に、老人、子供はそのために生命の危機に陥ることもある。しかし、それでも、納得いかないところを感じるのは私だけだろうか。
不二家や雪印はやりすぎた感じがあって、被害を受けた購入者もあった。しかし、赤福も、白い恋人も、あれだけ販売期間を伸ばしてきても、巻き直しをしてきても、おなかを壊した、という話は聞かない。私自身も、何度も赤福や白い恋人を食べてきたけれど、変な味、を感じたことはない。もしかしたら、いま、日本の食品はもっと日持ちがするようになっているのではないか、食品衛生法が、実体に即していないのではないか、と感じるのだ。こういう疑問を持っている人は、けっこういるのだろう。食品原料価格の高騰により、食の問題がますます深刻化している。
私たち一般人は、食品衛生法のことを知らない。だから、厚生労働省が摘発、といったら、それだけで悪い会社と見なしてしまう。ほんとうにそうなのだろうか？ ＨAＣＣＰを始め、日本の食品管理技術は非常に進んでいる。それに厚生労働省がついてきていないとしたら、そこにこそメスを入れる必要があるのではないだろうか。衛生法の見直しをしないことによる、不作為の罪が起こっているのではないだろうか。食の問題は、待ったなしの時代になっている。日本の食料の自給率も国家の危機管理の点から問題と言えるほど、下がっている。そんなときに、法律が遅れていることによる食品の大量投棄問題が起っている。
食品衛生法は、どのように作られ、更新されてきたか。食品衛生法の中で、販売期限についての概略説明、不二家、赤福、白い恋人等々で何が起こっていたのか。覆面でもいいので、食品関係者、専門家から、何が問題なのか、意見を集める仕事を始めた。ポリリン酸など防腐剤に依存する食品衛生でいいのか。こういう問題を起こさないために、何を是正すべきなのか。かしこい消費者として、どうすればよいのかを考えていく必要があるだろう。
(著者：上杉幸憲／農業ジャーナリスト)
2008年03月02日
番組制作の裏側-ﾘｻｰﾁｬｰという仕事-
山形は今日も吹雪でした。私は今日から、番組制作会社のリサーチャーというお仕事を担当します。例えば「あるある大辞典」などの番組では、いろんな健康野菜が紹介されていますよね。その調査をする仕事がリサーチャーなのです。
まず生鮮卸売市場に行き、アピオスやガルギールと呼ばれている耳慣れない野菜を調査します。これらは�狄郡虧邵�"と呼ばれ、栄養価が高く、近年人気が上昇しているとか。早くも、群馬産のふきのとうや群馬産の山菜なども売られていました。やはり旬の野菜って良いですよね。青果物担当者に調理方法や流通量、消費者の声などを聞き取りをして、ホテルに戻ってきてからデータベース化する。
一連の作業を行ってみて、番組制作ってほんと地味な仕事だと痛感しました。しかも、事前調査やリサーチは、番組制作会社(いわゆる下請け会社)の社員が血眼になって調査し、番組を制作してるんです。番組が出来たら、その時点でテレビ局のディレクターがチェックして放送する、っていう流れが主流だとか。
１本３０分の番組が、こんなにもいろいろな人に支えられて制作されていると知り、改めてテレビは奥が深いと感じました。華やかな世界の裏側で、頑張っている人がたくさんいます。例えば看護師の世界。青森県の看護師の初任給(年収)は２００万円台。過重労働なのに、大切な医療を守るために奮闘しています。こうした"縁の下の力持ち"のおかげで日本という国家が支えられているのですね。
今日学んだことは、表面上だけでなく物事の裏側をしっかりと見抜く確かな目を養うこと。そして、いろいろな人に支えられて１つの仕事が完成されることの面白さ。ヘンにかっこつけず、自然体で生きていくことも大切だなと感じました。華やかなのは、表だけではありません。裏方さんたちも輝いていました。
(著者:上杉幸憲／農業者交流ネットワーク･"アグリング(AGURING)"代表)
2008年01月31日
原油価格高騰、農家は冬を乗り切れるか？
原油価格の高騰が、農業を営んでいる生産者に大きな打撃を与えている。
極寒の冬でも、スーパーからは、新鮮な野菜が途切れることはない。小松菜、ほうれん草、春菊などは、ほぼ周年栽培することが可能だ。これは、ハウス栽培をはじめとする施設で生産されているためだ。ハウス栽培では、内部の温度を一定に保つために、暖房機が導入されている。暖房機からは、ハウス内の全箇所を一定に保つためのビニール配管が施されている。
私もかつて、イチゴとサツマイモの苗木生産に取り組んだことがある。この暖房のための燃料費の価格変動が、農家にとっては大きな悩みのタネでもある。暖房には通常、灯油を使用するが、その灯油価格が年々高騰しているのだ。2004年4月には1リットル単価が38円だった。それが2007年12月には93円。3年半の期間で、実に3倍近くに高騰している。
原油価格が大幅に高騰したからといって、すぐに野菜の価格を引き上げることは出来ない。青森県を中心に、施設園芸による“冬の農業”を営む農家からは、悲鳴が広がっている。正直なところ、農家の収支は、完全に赤字になっている。生産者と消費者の関係は、実に密接に関係しあっているのだ。にもかかわらず、スーパーから野菜が途切れないのは、農家による壮絶な努力がある。
青森県では、灯油の代わりに、ガソリンスタンドや工場から出る廃油を格安で引き取り、自家精製して暖房に使用する農家も現われた。
青森県三戸郡新郷村では、村の独自策として、生産農家に対して1リットル当たり20円、薪の場合は300キロ当たり1000円（ともに上限2万円）の特別補助を決めた。村役場では、「原油価格の高騰が、生産意欲の低下につながってはいけない。大きな危機に直面している農業を、どうにかして守りたい」と一致団結してこの危機を乗り越えようとしている。
ところが、他の市町村では、大半が原油価格高騰による農家への補助対策を講じず、見て見ぬふりをしているのが現状だ。そのうち、スーパーから野菜が消えてしまうかもしれない。いまこそ、地方自治の底力が試されようとしている。
http://www.ohmynews.co.jp/news/20080130/20342
(著者・上杉幸憲／農業者交流ネットワーク･"アグリング(AGURING)"代表)
2008年01月25日
環境保全としての林業を見直す
私は林野庁・文部科学省共催のプロジェクト「森の聞き書き甲子園」の一環として、兵庫県丹波市の林業家の仕事現場を訪問する機会を得た。
夏のある日、荻野さんの案内で山林の中に入っていった。そこには、見るも無残な状況があった。山林は荒れ果て、見渡す限りの倒木が広がっていた。太陽の光が地表まで届かず、うっそうとしていた。この周辺の山林の多くは、採算が取れずに管理が放棄され、手放されてしまったという。いまではベテランの林業家でも、山中ではデコボコの斜面に苦戦し、足を踏み外してけがをすることが起こり、時には自分のいる位置がわからなくなって遭難することもあるという。
林道を走っている時にも、土砂崩れの現場を幾度も目にした。確実に山の地力が低下している。「ワシが若いころには、この辺でたくさんのマツタケが採れたもんだ」と荻野さんは何度も私にいわれたが、到底信じられないものだった。マツタケが採れる赤松の山林は、定期的な下草狩りや間伐、伐採などの森林管理が行われないと、マツタケの菌糸が育たないのだという。
2年前の夏、環境財団のスタッフに案内していただき、長野県黒姫で見た白樺（しらかば）林は、丁寧にすみずみまで整備され、地表まで太陽がいきわたり、下草が青々と生い茂っていた。川べりにはたくさんの山野草が見ごろを迎えていた。アルプスの雪解け水が集まってできた小川には、たくさんの魚が泳いでいた。近くの農家の人に聞くと、ニジマスの稚魚だという。ニジマスはきれいな水の場所にしかすめない。私はあの光景が当たり前だと思っていた。
芝浦工業大学で土木工学を学ぶ中村元哉さん（21歳）は、C.W.ニコル氏の故郷・ウェールズのアファンの森で自然保護官のボランティアに取り組んできた。美しい森林を守るためには、地味な間伐作業や枝打ち作業が不可欠だ。彼は英国で森林保全を学び、その経験を生かして日本に帰国後、環境保護活動に取り組んでいる。「将来は日本の土木技術を生かして、途上国の現場で環境保全にかかわりたい」と目を輝かせている。
美しい山林には、多くの費用と労働力が必要だ。とはいえ、近年では国産材の大木が多く育ってきている。国産材は外国材と比べて価格は割高であるが、日本の林業と森林保全のためにも国産材の普及と理解を広めなければいけない。「外材のほうが安いから」という理由で自国の林業を軽視する国家は、必ずそれ以上の報いを受けることになるだろう。環境問題が取りざたされる中、日本の林業に関して見直す必要がある。
http://www.ohmynews.co.jp/news/20080122/19975
(著者・上杉幸憲／農業者交流ネットワーク･"アグリング(AGURING)"代表)
夏のある日、荻野さんの案内で山林の中に入っていった。そこには、見るも無残な状況があった。山林は荒れ果て、見渡す限りの倒木が広がっていた。太陽の光が地表まで届かず、うっそうとしていた。この周辺の山林の多くは、採算が取れずに管理が放棄され、手放されてしまったという。いまではベテランの林業家でも、山中ではデコボコの斜面に苦戦し、足を踏み外してけがをすることが起こり、時には自分のいる位置がわからなくなって遭難することもあるという。
林道を走っている時にも、土砂崩れの現場を幾度も目にした。確実に山の地力が低下している。「ワシが若いころには、この辺でたくさんのマツタケが採れたもんだ」と荻野さんは何度も私にいわれたが、到底信じられないものだった。マツタケが採れる赤松の山林は、定期的な下草狩りや間伐、伐採などの森林管理が行われないと、マツタケの菌糸が育たないのだという。
2年前の夏、環境財団のスタッフに案内していただき、長野県黒姫で見た白樺（しらかば）林は、丁寧にすみずみまで整備され、地表まで太陽がいきわたり、下草が青々と生い茂っていた。川べりにはたくさんの山野草が見ごろを迎えていた。アルプスの雪解け水が集まってできた小川には、たくさんの魚が泳いでいた。近くの農家の人に聞くと、ニジマスの稚魚だという。ニジマスはきれいな水の場所にしかすめない。私はあの光景が当たり前だと思っていた。
芝浦工業大学で土木工学を学ぶ中村元哉さん（21歳）は、C.W.ニコル氏の故郷・ウェールズのアファンの森で自然保護官のボランティアに取り組んできた。美しい森林を守るためには、地味な間伐作業や枝打ち作業が不可欠だ。彼は英国で森林保全を学び、その経験を生かして日本に帰国後、環境保護活動に取り組んでいる。「将来は日本の土木技術を生かして、途上国の現場で環境保全にかかわりたい」と目を輝かせている。
美しい山林には、多くの費用と労働力が必要だ。とはいえ、近年では国産材の大木が多く育ってきている。国産材は外国材と比べて価格は割高であるが、日本の林業と森林保全のためにも国産材の普及と理解を広めなければいけない。「外材のほうが安いから」という理由で自国の林業を軽視する国家は、必ずそれ以上の報いを受けることになるだろう。環境問題が取りざたされる中、日本の林業に関して見直す必要がある。
http://www.ohmynews.co.jp/news/20080122/19975
(著者・上杉幸憲／農業者交流ネットワーク･"アグリング(AGURING)"代表)
2008年01月21日
地域に根ざした伝統農法‐「温海かぶ」にみる村おこし‐
戦後、日本の農業は大規模化が推し進められ、単一の品目を大量生産する生産方式へと移行を遂げてきた。化学農薬、化学肥料の到来は、さらに農業の省力化を進める上で、大きな役割を担ってきたが、近年は、全国各地で有機農業、減農薬栽培への動きが活発化してきている。中でも脚光を浴びつつあるのが、自然との共生を主体に置いた「伝統農法」の見直しだ。
山形県鶴岡市では、400年も前から、在来野菜である「温海かぶ」が原始的な焼畑農法で栽培されてきた。表面はきれいな赤紫色、中は真っ白な色をした「温海カブ」は、その太い根っこが急な斜面でもしっかり張り付き、だんだん大きく育っていく。旨み成分のグルタミン酸が白カブの2倍から4倍も多く含まれており、その旨みとほどよい辛味、そしてシャキシャキした歯ざわりが特徴だ。中でも、漬物に加工された温海かぶの味は格別である。
鶴岡地域で栽培されている在来野菜のカブは、ほとんどが焼畑で作られている。焼畑というと、森林を伐採し、環境を破壊するというマイナスの印象が強い。しかし、きちんと定められた周期で山焼きを行うことで、持続可能な農業を実現することが出来る。
それは、畑地を焼くことによって、土の中の窒素含有量が増え、土に養分が増えるからだ。鶴岡地域の土壌は火山灰性で、カルシウム、カリウム、ナトリウムが豊富だ。杉の栽培地だった場所は、枝葉が落ちると、それが天然の肥料となり、畑地を焼くことで病原菌も排除され、無農薬栽培が可能となる。こうした方法は、東南アジアのインドネシアやパプワニューギニアでも古くから行われている。
しかし、問題なのが、人口の増加や需要の増加によって、自然のサイクルが回復する前に焼畑を行うことで、次々に森林が減少してしまうことだ。本来は持続可能なはずの焼畑が、環境破壊の要因になってしまう。また、焼畑を行う際に出る二酸化炭素が、地球温暖化を加速させることも指摘されている。
今後、求められるもの。それは、地域や風土に根付いた伝統農法を守り、共存していくことだ。伝統農法の良い部分を、うまく現代農業とミックスさせることが大切だ。そうなれば「持続可能な開発と農業」という言葉に置き換えることが出来るだろう。
http://www.ohmynews.co.jp/news/20080121/19944
(著者・上杉幸憲／農業ジャーナリスト、NPO法人日本水フォーラム節水リーダー)
(資料提供・鶴岡市温海庁舎)
2008年01月07日
人間力の著しい低下への危惧
年末に取材で山奥に行く機会があった。携帯の電波は入らず、テレビも見ることができない。当然、インターネットの設備すら集落にはなかった。完全に世俗と隔離された場所で、朝は鳥の鳴き声を、夜は古老の昔話を聞いて過ごした。
そこで感じたことは、現代社会は電子機器に侵されているということである。携帯が繋がらなければウズウズするし、パソコンでメールチェックができないと、仕事にもならない。都会の生活の大半が、ボタン1つ、極端に言えば指1本でこと足りる時代だ。しかし、そこでの暮らしはパーマカルチャーの精神に基づいて、薪を割って飯を炊き、囲炉裏にあたって暖をとった。食事は地元産の野菜とクマ肉の鍋である。昔の人が衣食住の全てに手間暇かけて生活していたことがいかに大変だったかということを感じた。
大地震によって都市機能がダウンし、電気が止まったら人間は生きていけなくなるのではないか。世田谷で育ったある箱入り娘が、結婚して夫のために料理を作った時の話である。ご飯を炊くときに洗剤で米を磨ぎ、健康のために玄米を混ぜたら米の色が少し黒いからと漂白剤を入れて飯を炊いたという。私はこの話を聞いた時、あまりの無知さに驚愕した記憶がある。
生活は豊かになったが、人間力は著しく低下しているのではないか。この豊かさは、いつまでも続いてくれるとは限らない。青森県では、地球温暖化の影響で年々降雪量が減少し、夏場の水不足が顕著だ。危機的な状況に直面したとき、行動が取れる人間力の向上が不可欠なのではないだろうか。
http://www.ohmynews.co.jp/news/20080105/19319
(著者・上杉幸憲／農業ジャーナリスト、NPO法人日本水フォーラム節水リーダー)
そこで感じたことは、現代社会は電子機器に侵されているということである。携帯が繋がらなければウズウズするし、パソコンでメールチェックができないと、仕事にもならない。都会の生活の大半が、ボタン1つ、極端に言えば指1本でこと足りる時代だ。しかし、そこでの暮らしはパーマカルチャーの精神に基づいて、薪を割って飯を炊き、囲炉裏にあたって暖をとった。食事は地元産の野菜とクマ肉の鍋である。昔の人が衣食住の全てに手間暇かけて生活していたことがいかに大変だったかということを感じた。
大地震によって都市機能がダウンし、電気が止まったら人間は生きていけなくなるのではないか。世田谷で育ったある箱入り娘が、結婚して夫のために料理を作った時の話である。ご飯を炊くときに洗剤で米を磨ぎ、健康のために玄米を混ぜたら米の色が少し黒いからと漂白剤を入れて飯を炊いたという。私はこの話を聞いた時、あまりの無知さに驚愕した記憶がある。
生活は豊かになったが、人間力は著しく低下しているのではないか。この豊かさは、いつまでも続いてくれるとは限らない。青森県では、地球温暖化の影響で年々降雪量が減少し、夏場の水不足が顕著だ。危機的な状況に直面したとき、行動が取れる人間力の向上が不可欠なのではないだろうか。
http://www.ohmynews.co.jp/news/20080105/19319
(著者・上杉幸憲／農業ジャーナリスト、NPO法人日本水フォーラム節水リーダー)
2007年12月31日
韓国王室の東洋医学健康法
今月2日、韓国大手メディアからの招待を受け、私はユネスコの世界遺産にも登録されている昌徳宮（チャンドックン）に足を運んだ。昌徳宮は1405年、朝鮮王朝の正宮である景福宮の離宮として建造され、現在も13の建物が残っている。私は、現地で仲良くなった韓国人大学生の李賢旭さんにガイドしていただきながら、昌徳宮の中を散策した。
その私の目に付いたものが、王様が使用していたという便所である。便所の下には、小さな扉が付いている。この扉から、王家直属の皇医（医師）が毎朝、平たい容器を差し込み、王様の大便が、その容器の中に入るようにしていたという。そして、皇医は、用を足し終えた王様に対し、「梅の花が咲きました……」などと声をかけるそうだ。間違っても「あぁ、くさい！」などと言ってはいけなかったという。
王様が便所を出た後、皇医は扉を開き、中の容器を取り出し、特別な箸（はし）を使ってソレをほじくり返す。これには、もちろん意味がある。消化物などから、王様の健康状態をチェックするのである。皇医は、毎朝この作業を繰り返し、王様の健康維持に努力していたのだという。
インドネシアのとある民族は、毎朝、自分の小水を飲んで、健康状態をチェックするという。またベトナム奥地の少数民族も、自分の糞で健康状態を調べるそうだ。朝鮮大陸には食糞の文化もある。日本でもまた、検便で自分の健康状態を知るという方法が古くから行われている。健康維持は、日常生活の食事から。便は健康のバロメーターである。現代の予防医学においても、韓国王室のこの慣例から学べることがあるのではないだろうか。これは東洋医学に共通して言えることである。
http://www.ohmynews.co.jp/news/20071214/18519
(著者：上杉幸憲／農業ジャーナリスト、NPO法人日本水フォーラム節水リーダー)
その私の目に付いたものが、王様が使用していたという便所である。便所の下には、小さな扉が付いている。この扉から、王家直属の皇医（医師）が毎朝、平たい容器を差し込み、王様の大便が、その容器の中に入るようにしていたという。そして、皇医は、用を足し終えた王様に対し、「梅の花が咲きました……」などと声をかけるそうだ。間違っても「あぁ、くさい！」などと言ってはいけなかったという。
王様が便所を出た後、皇医は扉を開き、中の容器を取り出し、特別な箸（はし）を使ってソレをほじくり返す。これには、もちろん意味がある。消化物などから、王様の健康状態をチェックするのである。皇医は、毎朝この作業を繰り返し、王様の健康維持に努力していたのだという。
インドネシアのとある民族は、毎朝、自分の小水を飲んで、健康状態をチェックするという。またベトナム奥地の少数民族も、自分の糞で健康状態を調べるそうだ。朝鮮大陸には食糞の文化もある。日本でもまた、検便で自分の健康状態を知るという方法が古くから行われている。健康維持は、日常生活の食事から。便は健康のバロメーターである。現代の予防医学においても、韓国王室のこの慣例から学べることがあるのではないだろうか。これは東洋医学に共通して言えることである。
http://www.ohmynews.co.jp/news/20071214/18519
(著者：上杉幸憲／農業ジャーナリスト、NPO法人日本水フォーラム節水リーダー)
2007年12月18日
夢と現実とのギャップにとまどう学生たち
先日、都内某大学で、青少年討論会(ディベート選手権)が開催され、審査員の1人として出席をした。テーマは「夢を選ぶか、現実を選ぶか」とあって、案の定、激論となった。大学生には避けては通れないテーマだけにいろんな意見が繰り広げられた。
なかでも多かったのが、「夢を追いかけるなんて出来ない。所詮はきれいごとだ。親は公務員になれと言ってくる。私も親に学費や生活費を払ってもらっている引け目があるから、両親の意見を反映して就職活動をやった。けど、やりたいことが見つからなかった。4年生の後半になって、あせって何社か受けて内定が取れたが、やっぱりやりたいことが見つからなくて困っている」という内容だった。
N大学の学生は、こう発言した。「高校時代に国連の職員を目指し、大学で国際系の学部を専攻した。しかし、いろんな現実に打ちのめされて、結果としては夢をあきらめることになった。だが、後悔はぬぐいきれない。かといって、すべてを捨てて夢に挑戦する気力もない」
その意見に対して、審査員の1人から次のような質問があった。
「大学4年間で、いくらでも時間はあったでしょ？もう少し世間を見るべきだった。大学生なんて、時間余ってるでしょ 夢を追いかける気迫を持つべきではないか。なぜ頭で考えて、行動に移せないのかな？」
その問いかけに、R大の学生が猛反論を繰り広げた。
「大学生が暇だなんて思っているのは間違いだ！大学生は研究室やバイトで忙しいし、自分と向き合う時間なんて少ない。気がつかないうちに、あっという間に時間が過ぎていくんだ。現実と向き合う機会が自然に増える。だんだんとギャップに戸惑う。それでもあなたは夢を追いかけろと、無責任な発言が出来ますか？」
その時、審査員1人が答えた。
「あなたが生まれてきた意味って考えたことある？生まれてきたことは、誰もが運命で、意味があるの。自分以外のすべてを否定しようとは思わないで。自分以外の価値観を共感できるようにならなくちゃ」
私はその時まで、生まれてきた意味なんて考えたことなかった。この世にはいろんな職業があって、社会を支えている。この世に無駄な職業なんてないのだという話に心が動かされた。
社会に出て働く、社会人になるということは、大きな精神的、肉体的負担を伴う。しかし、同時に大きな社会貢献に参加し、労働の対価として報酬を得るという使命感もある。
仕事にやりがいを見つけることは、そう簡単なことではない。現実にいまの職場や仕事に不満を持ちながらも、職務に従事している人は多い。自分を変えようと思いつつも、そういった時間が取れない、転職する勇気がない人が多い。これは現実問題として難しいことだ。
「たった1度の人生、楽しく有意義に」なんて、誰もが頭の中では理解していること。なのに、実行できている人は意外に少ない。大会を見学していた一人は、「中高を無意味に過ごして、目標が見つからないまま、とりあえず大学に進学して、大学でも結局何も見つけられずに、とりあえず入れる会社に就職して、なんて人の方が多そうですね。仕事してるうちに何かを見つけられれば良いでしょうが、何も見つけられなければ、定年を迎えた挙句に何もやることが無くて"生ける屍"になるのがオチでしょう」とコメントされた。
国連が「幸福度指数」を統計化しようとする動きが出てきた。恋愛や仕事、家庭などの幸福度を点数化し、各国ごとにランクをつけるものだ。日本はモノに恵まれて幸福なはずなのに、家庭内暴力や夫からの暴力、教育現場の崩壊などで不幸せを訴える人が多い。
若者に希望を与えることが出来る日本にするためには、どうすれば良いのだろうか。この夜の懇親会でも、議論に花が咲いたことは言うまでもない。
http://www.ohmynews.co.jp/news/20071217/18590
(著者：上杉幸憲／農業ジャーナリスト、NPO法人日本水フォーラム節水リーダー)
なかでも多かったのが、「夢を追いかけるなんて出来ない。所詮はきれいごとだ。親は公務員になれと言ってくる。私も親に学費や生活費を払ってもらっている引け目があるから、両親の意見を反映して就職活動をやった。けど、やりたいことが見つからなかった。4年生の後半になって、あせって何社か受けて内定が取れたが、やっぱりやりたいことが見つからなくて困っている」という内容だった。
N大学の学生は、こう発言した。「高校時代に国連の職員を目指し、大学で国際系の学部を専攻した。しかし、いろんな現実に打ちのめされて、結果としては夢をあきらめることになった。だが、後悔はぬぐいきれない。かといって、すべてを捨てて夢に挑戦する気力もない」
その意見に対して、審査員の1人から次のような質問があった。
「大学4年間で、いくらでも時間はあったでしょ？もう少し世間を見るべきだった。大学生なんて、時間余ってるでしょ 夢を追いかける気迫を持つべきではないか。なぜ頭で考えて、行動に移せないのかな？」
その問いかけに、R大の学生が猛反論を繰り広げた。
「大学生が暇だなんて思っているのは間違いだ！大学生は研究室やバイトで忙しいし、自分と向き合う時間なんて少ない。気がつかないうちに、あっという間に時間が過ぎていくんだ。現実と向き合う機会が自然に増える。だんだんとギャップに戸惑う。それでもあなたは夢を追いかけろと、無責任な発言が出来ますか？」
その時、審査員1人が答えた。
「あなたが生まれてきた意味って考えたことある？生まれてきたことは、誰もが運命で、意味があるの。自分以外のすべてを否定しようとは思わないで。自分以外の価値観を共感できるようにならなくちゃ」
私はその時まで、生まれてきた意味なんて考えたことなかった。この世にはいろんな職業があって、社会を支えている。この世に無駄な職業なんてないのだという話に心が動かされた。
社会に出て働く、社会人になるということは、大きな精神的、肉体的負担を伴う。しかし、同時に大きな社会貢献に参加し、労働の対価として報酬を得るという使命感もある。
仕事にやりがいを見つけることは、そう簡単なことではない。現実にいまの職場や仕事に不満を持ちながらも、職務に従事している人は多い。自分を変えようと思いつつも、そういった時間が取れない、転職する勇気がない人が多い。これは現実問題として難しいことだ。
「たった1度の人生、楽しく有意義に」なんて、誰もが頭の中では理解していること。なのに、実行できている人は意外に少ない。大会を見学していた一人は、「中高を無意味に過ごして、目標が見つからないまま、とりあえず大学に進学して、大学でも結局何も見つけられずに、とりあえず入れる会社に就職して、なんて人の方が多そうですね。仕事してるうちに何かを見つけられれば良いでしょうが、何も見つけられなければ、定年を迎えた挙句に何もやることが無くて"生ける屍"になるのがオチでしょう」とコメントされた。
国連が「幸福度指数」を統計化しようとする動きが出てきた。恋愛や仕事、家庭などの幸福度を点数化し、各国ごとにランクをつけるものだ。日本はモノに恵まれて幸福なはずなのに、家庭内暴力や夫からの暴力、教育現場の崩壊などで不幸せを訴える人が多い。
若者に希望を与えることが出来る日本にするためには、どうすれば良いのだろうか。この夜の懇親会でも、議論に花が咲いたことは言うまでもない。
http://www.ohmynews.co.jp/news/20071217/18590
(著者：上杉幸憲／農業ジャーナリスト、NPO法人日本水フォーラム節水リーダー)
2007年12月14日
疲弊する韓国農村を現地取材
縁あって、韓国大手メディアからの招待を受け、韓国の農村を取材する機会を得た。日本で、都市と農村の格差問題・農村社会問題を取材している私は、今回は、主に韓国における農村社会の現状と格差について取材することにした。
私が３日間宿泊させていただいたのは、首都ソウルから１時間ほど離れた江華島にある廃校を再利用した宿舎である。仁川国際空港から江華島へと向かう車中から見えるのは、見渡す限りの田園地帯。江華島における主な作付け農産物は、水稲・高麗人参・唐辛子などが中心であった。車を降り、唐辛子の露地栽培をしている畑を見学した。日本と比べて粗放栽培であるが、収量は日本の1.5倍である。韓国では栽培方法よりも優秀な遺伝子を持った品種を導入している傾向が強い。
干潮の差が激しい江華島周辺は、古くから開拓が盛んに行われ、水田稲作に取り組まれてきたという。ガイドをしてくれた韓国人大学生の李賢旭さんによると、韓国でも農村部の疲弊が著しいという。日本においても大都市への人口の流出・一極集中が顕著だが、韓国では日本を越える都市集中が進んでいるそうだ。韓国でも日本と同じように農産物価格の低下や農民の自殺が起きているという。韓国の農村部にも足を運んだが、あばら家が立ち並ぶ光景が目に付いた。こういった農村衰退現象は、秋田県や青森県の中山間地でも同じような光景が見られる。
こういった背景には、米国と韓国の自由貿易協定（FTA）交渉の締結が見え隠れしている。この交渉では、コメを除く自動車や農畜産物などで、韓国側は8％の関税を即時撤廃したほか、牛肉の現行40％関税を、今後15年間で撤廃することを受け入れた。
日本と同じく食糧自給率の低下が進む韓国でも、自国の自給率を上げようとする政策を軽視し、「海外諸国のお友達を増やす政策」へと移行したのである。
その結果、韓国の農村荒廃はますます進みつつある。農業は多面的な機能を有している。農村の荒廃によって今まで維持されてきた機能が低下し、時には水害時にその脆弱さを露見することとなる。
韓国の失敗から日本は何を学ぶべきか。日本はいま、日豪FTA交渉を行っている最中である。日本とオーストラリアにおける農業規模の違いなどは、すでにマスコミなどで論じられてきている。こうした農業問題は、両国の間に課せられた共通の課題である。
http://www.ohmynews.co.jp/news/20071210/18321
(著者：上杉幸憲／農業ジャーナリスト、NPO法人日本水フォーラム節水リーダー)
私が３日間宿泊させていただいたのは、首都ソウルから１時間ほど離れた江華島にある廃校を再利用した宿舎である。仁川国際空港から江華島へと向かう車中から見えるのは、見渡す限りの田園地帯。江華島における主な作付け農産物は、水稲・高麗人参・唐辛子などが中心であった。車を降り、唐辛子の露地栽培をしている畑を見学した。日本と比べて粗放栽培であるが、収量は日本の1.5倍である。韓国では栽培方法よりも優秀な遺伝子を持った品種を導入している傾向が強い。
干潮の差が激しい江華島周辺は、古くから開拓が盛んに行われ、水田稲作に取り組まれてきたという。ガイドをしてくれた韓国人大学生の李賢旭さんによると、韓国でも農村部の疲弊が著しいという。日本においても大都市への人口の流出・一極集中が顕著だが、韓国では日本を越える都市集中が進んでいるそうだ。韓国でも日本と同じように農産物価格の低下や農民の自殺が起きているという。韓国の農村部にも足を運んだが、あばら家が立ち並ぶ光景が目に付いた。こういった農村衰退現象は、秋田県や青森県の中山間地でも同じような光景が見られる。
こういった背景には、米国と韓国の自由貿易協定（FTA）交渉の締結が見え隠れしている。この交渉では、コメを除く自動車や農畜産物などで、韓国側は8％の関税を即時撤廃したほか、牛肉の現行40％関税を、今後15年間で撤廃することを受け入れた。
日本と同じく食糧自給率の低下が進む韓国でも、自国の自給率を上げようとする政策を軽視し、「海外諸国のお友達を増やす政策」へと移行したのである。
その結果、韓国の農村荒廃はますます進みつつある。農業は多面的な機能を有している。農村の荒廃によって今まで維持されてきた機能が低下し、時には水害時にその脆弱さを露見することとなる。
韓国の失敗から日本は何を学ぶべきか。日本はいま、日豪FTA交渉を行っている最中である。日本とオーストラリアにおける農業規模の違いなどは、すでにマスコミなどで論じられてきている。こうした農業問題は、両国の間に課せられた共通の課題である。
http://www.ohmynews.co.jp/news/20071210/18321
(著者：上杉幸憲／農業ジャーナリスト、NPO法人日本水フォーラム節水リーダー)
2007年12月11日
揺らぐ中国食品の安全問題
中国・雲南省昭通市で、即席めんを食べた小学生が中毒死するという痛ましい事件が起きた。12月7日、公安庁はこの事件に関する記者会見を開き、即席めんと一緒に食べた豚の油かすに、殺そ剤が付着していたことが原因と発表している。
この事件は12月3日の朝、小学生4人が通学途中、即席めんと豚の油かすを食べたところ、1時半後に口から泡を吐き、四肢を痙攣、意識をなくすなどの症状を示し、まもなく死亡したという。豚の油かすを意図的に即席めんに混入したのではなく、事故であったというが、こうした問題はほんの氷山の一角に過ぎないだろう。
中国食品の安全性を揺るがす事件は、過去に何度も発生している。6月20日には、冷凍食品用の中国産ピーマンから、殺虫剤のピリメタニルが基準値を超えて検出されたとして、厚生労働省は食品衛生法に基づく検査命令を出した。
中国産の野菜に、ピリメタニルが含まれていたケースは、その時が初めてなのではない。2006年の8月にも、中国産のニンニクから、基準値以上のピリメタニルが検出されている。また、中国産の養殖ウナギからも、基準値を超えるエンドスルファンが検出され、輸入停止の寸前になった過去もある。
中国の農産物の残留農薬基準は、日本のポジティブリストの導入によってさらに厳しくなっている。ピリメタニルは、殺虫剤の成分として、多くの農産物に使用されている。農薬は適正に使用すれば人体には問題はないといわれているが、中国では土壌に農薬が残留して、土壌汚染が深刻化しているという。
今回の残留量は決して致死量ではないものの、環境への影響を考えると、農薬の使用に関しては再度徹底的に見直す必要性があるのではないだろうか。
2008年には、北京オリンピックの開催を控えている中国。各国のオリンピックに出場する選手たちのなかには、汚染された空気の影響を恐れて大会直前に入国し、競技が終了すると即座に出国しようという選手も多いという。また、選手村での食品安全は厳守されている、と公表されているものの、食品安全問題を多く抱え、不安要素を残すままの開催となりそうだ。
http://www.ohmynews.co.jp/news/20071211/18366
(著者：上杉幸憲／農業ジャーナリスト、NPO法人日本水フォーラム節水リーダー)
この事件は12月3日の朝、小学生4人が通学途中、即席めんと豚の油かすを食べたところ、1時半後に口から泡を吐き、四肢を痙攣、意識をなくすなどの症状を示し、まもなく死亡したという。豚の油かすを意図的に即席めんに混入したのではなく、事故であったというが、こうした問題はほんの氷山の一角に過ぎないだろう。
中国食品の安全性を揺るがす事件は、過去に何度も発生している。6月20日には、冷凍食品用の中国産ピーマンから、殺虫剤のピリメタニルが基準値を超えて検出されたとして、厚生労働省は食品衛生法に基づく検査命令を出した。
中国産の野菜に、ピリメタニルが含まれていたケースは、その時が初めてなのではない。2006年の8月にも、中国産のニンニクから、基準値以上のピリメタニルが検出されている。また、中国産の養殖ウナギからも、基準値を超えるエンドスルファンが検出され、輸入停止の寸前になった過去もある。
中国の農産物の残留農薬基準は、日本のポジティブリストの導入によってさらに厳しくなっている。ピリメタニルは、殺虫剤の成分として、多くの農産物に使用されている。農薬は適正に使用すれば人体には問題はないといわれているが、中国では土壌に農薬が残留して、土壌汚染が深刻化しているという。
今回の残留量は決して致死量ではないものの、環境への影響を考えると、農薬の使用に関しては再度徹底的に見直す必要性があるのではないだろうか。
2008年には、北京オリンピックの開催を控えている中国。各国のオリンピックに出場する選手たちのなかには、汚染された空気の影響を恐れて大会直前に入国し、競技が終了すると即座に出国しようという選手も多いという。また、選手村での食品安全は厳守されている、と公表されているものの、食品安全問題を多く抱え、不安要素を残すままの開催となりそうだ。
http://www.ohmynews.co.jp/news/20071211/18366
(著者：上杉幸憲／農業ジャーナリスト、NPO法人日本水フォーラム節水リーダー)
2007年11月29日
見た目重視の日本人──小さなキズでもゴミ箱行き!?
11月上旬、リンゴの名産地である青森県弘前市のリンゴ農家を取材する機会があった。そのときはちょうど、農家ではリンゴの収穫真っただ中。農園からはリンゴのいい香りが漂ってきた。倉庫には、収穫されたリンゴが大量に積まれている。この後、数時間もたたないうちにリンゴは近くのJA相馬村にある大規模なCA貯蔵庫（=Controlled Atmosphere。貯蔵庫の空気を人工的に変えて貯蔵する方法）へと運ばれ、年間を通して保存される。CA貯蔵では、1年たっても鮮度はほとんど変わらずに長期貯蔵が可能だ。中国では、この日本の高度な貯蔵技術を持ち帰り、日本と代わりのない貯蔵技術を確立しつつあるという。
私は農家の倉庫の隅に大量に詰まれた木箱が目に付いた。中を見ると、大量のリンゴが入っている。しかし、間もなく廃棄するのだという。よく見ると、リンゴの表面には小さいキズや変色した部分がある。しかし、普通なら問題なく食べられるはずだ。
しかし、日本の消費者は見た目の良くない農産物は好まない。よく「曲がったキュウリは売れない」とか「青虫が葉っぱをかじったキャベツは売り物にならない」といわれるものだ。少しでもキズのあるものは、市場流通が困難なために廃棄されるという。農家では、全収穫量の10〜20%がキズや変色などの理由で廃棄されているという。本当にもったいない話である。
弘前市相馬（旧・中津軽郡相馬村）では、こうしたキズのついたリンゴを回収して、リンゴジュースを生産している。リンゴの半分が腐っていても、半分を切り取れば食糧として利用することができる。最近では、不揃い品や規格外品を扱う「B級マート」も全国各地に誕生しつつあるという。
農産物や食品は多くの課題を抱えている。しかし、こうした地道な努力が食品の大量廃棄を防ぐアイデアなのである。農家の苦労が無駄にならぬよう、「モッタイナイ」の精神を生かすことが大切である。
http://www.ohmynews.co.jp/news/20071128/17867
(著者：上杉幸憲／農業ジャーナリスト、NPO法人日本水フォーラム節水リーダー)
2007年11月19日
農を目指す若者たち‐「新・農業人フェア"07」密着取材
11月17日、東京都飯田橋の東京しごとセンターで「新・農業人フェア’07」が開催され、全国から農業を志す若者や学生が集結した。
新・農業人フェアとは、農業をどうしたら始められるかの相談の第一歩から、農業法人の会社説明会、独立就農するにあたってのご相談まで、就農したいという気持ちを持つすべての方を対象にした、総合イベントで、東京のほかに札幌や大阪でも開催されている。
日本は、全国的に農業後継者が不足し、農業は「衰退産業」だと言われている。しかし、一方で、全国各地で若者が新規就農し、元気な農家が増えてきているという。今回も、会場には新規就農を目指す若者や脱サラした人、農学部で学ぶ大学生で、会場は大賑わいを見せていた。
会場に出展していた農事組合法人・和多農産(石川県能美市)は、「平成18年度（第45回）農林水産祭天皇杯」を受賞した、全国でも有名な農業法人だ。請け負いも含めて、80ヘクタール近い面積で減農薬稲作に取り組んでいる。
新技術の導入にも熱心に取り組み、99年には、湛水直播栽培を導入。現在は、その直播が水稲作付面積の約4割に及んでいる。独自の研修宿泊施設を持ち、これまで300人を超える農業後継者や学生などの研修生を受け入れてきた。
そんな大きな法人で主力として活躍しているのが、専務理事の和多真智さん(31歳)だ。現在は地元石川県の農業リーダーとして活躍している。和多さんは「石川は古くから加賀百万石といわれた米どころ。米価下落で多くの農家が悲鳴をあげている中で、独自の栽培技術と安心、安全なコメを栽培することで、差別化を図っている。若い人の意見を取り入れて、新しい時代の農業を築いていきたい」と語る。
若者が夢や希望を持って農業を選択している。政府や自治体は、若者の夢を壊さないように、しっかりと安定した農政に取り組んでいくことが求められるだろう。いま、農業が大きく変わろうとしている。
(著者：上杉幸憲／農業ジャーナリスト、NPO法人日本水フォーラム節水リーダー)
追記：本年度、3年連続で毎日農業記録賞(毎日新聞社主催)の受賞が決まりました。
また、第62回毎日映画コンクールの選考委員に選出されました。
http://www.ohmynews.co.jp/news/20071119/17494
2007年11月14日
りんご習慣で「医者いらず」へ‐ガンに効く脅威の効能-
日本一のりんご産地・青森県では、ここ数年、急速にりんごの消費量が低迷している。以前お伝えしたように、りんご農家の廃業も著しいため、大学や研究機関などはさまざまな秘策を練っているという。
弘前大学農学生命科学部(青森県弘前市)の城田安幸准教授が、「1日1杯のりんごジュースを飲めば、がんを予防する効果がある」という研究結果を最近明らかにした。みのもんたが司会を務める「おもいっきりイイ!!テレビ」（日本テレビ系）のなかでだ。城田助教授によると、この放送後、りんごの効能が再び注目を集めているという。
城田助教授がした実験はこうだ。生後5週目のマウスを10匹づつ5つのグループに分けた。そして、各グループごとに、�〔廼櫃靴真紂↓�2％のりんごジュース、��サナギダケ（冬虫夏草の一種）、�い蠅鵑乾献紂璽垢箸気覆�竹の煎じ液、�ゥ曠簔蟒丱┘�スを与え、45日後にがん細胞を植え付け、経過を観察してみたという。
すると、りんごジュースを与えていたグループでは10匹のうち、8匹の癌が消滅したという。その他のグループでは、半分以上が死んでしまい、生存率は30〜50％にとどまった。この比較を考えると、りんごジュースには、確かに注目すべき効果がある。また、滅菌水を与えたマウスの平均寿命は40日であったのに対し、りんごジュースのマウスでは77日と驚異的な結果を導き出した。
城田助教授は、父親が癌と誤診され、必要の無い手術で亡くなった事がきっかけで、既存のがん治療に疑問を持つようになったという。その中で中国の医食同源に着目、自然から生み出される食から癌をやっつけられる方法は無いかと研究を始めたのだという。
"An apple a day keeps the doctor away." （1日1個のリンゴは医者を遠ざける）
このヨーロッパのことわざは、果物と健康との関わりについて簡明に言い表した養生訓として有名だ。同様の記述は、すでに1866年刊行の英季刊誌 The Jouornal Notes and Queries の中にもある。ポリフェノールなどのりんごの効能は早くから認められていたといえる。
戦後、わが国の医療の技術は格段に進歩した。その反面、それまで庶民レベルで行われてきた家庭医療や東洋医学が衰退した。先進国でりんごの消費量が減少したのは、じつは日本だけである。食は生命の根源だ。食生活から見直し、「医食同源」の精神を大切にすることで本当の意味での健康が維持できるのではないだろうか。
(著者：上杉幸憲／農業ジャーナリスト、NPO法人日本水フォーラム節水リーダー)
追記 一連のりんご特集記事が、OhmyNews11月の第2回週間市民記者賞に輝きました。
http://www.ohmynews.co.jp/news/20071114/17320
弘前大学農学生命科学部(青森県弘前市)の城田安幸准教授が、「1日1杯のりんごジュースを飲めば、がんを予防する効果がある」という研究結果を最近明らかにした。みのもんたが司会を務める「おもいっきりイイ!!テレビ」（日本テレビ系）のなかでだ。城田助教授によると、この放送後、りんごの効能が再び注目を集めているという。
城田助教授がした実験はこうだ。生後5週目のマウスを10匹づつ5つのグループに分けた。そして、各グループごとに、�〔廼櫃靴真紂↓�2％のりんごジュース、��サナギダケ（冬虫夏草の一種）、�い蠅鵑乾献紂璽垢箸気覆�竹の煎じ液、�ゥ曠簔蟒丱┘�スを与え、45日後にがん細胞を植え付け、経過を観察してみたという。
すると、りんごジュースを与えていたグループでは10匹のうち、8匹の癌が消滅したという。その他のグループでは、半分以上が死んでしまい、生存率は30〜50％にとどまった。この比較を考えると、りんごジュースには、確かに注目すべき効果がある。また、滅菌水を与えたマウスの平均寿命は40日であったのに対し、りんごジュースのマウスでは77日と驚異的な結果を導き出した。
城田助教授は、父親が癌と誤診され、必要の無い手術で亡くなった事がきっかけで、既存のがん治療に疑問を持つようになったという。その中で中国の医食同源に着目、自然から生み出される食から癌をやっつけられる方法は無いかと研究を始めたのだという。
"An apple a day keeps the doctor away." （1日1個のリンゴは医者を遠ざける）
このヨーロッパのことわざは、果物と健康との関わりについて簡明に言い表した養生訓として有名だ。同様の記述は、すでに1866年刊行の英季刊誌 The Jouornal Notes and Queries の中にもある。ポリフェノールなどのりんごの効能は早くから認められていたといえる。
戦後、わが国の医療の技術は格段に進歩した。その反面、それまで庶民レベルで行われてきた家庭医療や東洋医学が衰退した。先進国でりんごの消費量が減少したのは、じつは日本だけである。食は生命の根源だ。食生活から見直し、「医食同源」の精神を大切にすることで本当の意味での健康が維持できるのではないだろうか。
(著者：上杉幸憲／農業ジャーナリスト、NPO法人日本水フォーラム節水リーダー)
追記 一連のりんご特集記事が、OhmyNews11月の第2回週間市民記者賞に輝きました。
http://www.ohmynews.co.jp/news/20071114/17320
2007年11月09日
偏った農政と被害者である農家
11月6日にヤフーニュースに寄稿した「青森県のりんご農家の悲劇」には、多くの反響をいただいた。今回は、青森県の農家ではいま何が起こっているのかをレポートしたいと思う。
前回でも、弘前市ではここ5年間で3000戸のりんご農家が廃業し、自殺する農家が多いことは述べた。これは、りんご農家に限らず、コメや野菜を栽培している農家でも同じ事が言える。青森県の自殺率は全国2位に及んでおり、公共事業が減少したことによる建設業の衰退も目を覆うばかりだ。
父や祖父の代から、正業(職業)として続けてきた農業をやめるということが、その家にとってどういう意味を持つのかを深く考える必要がある。就職して3年程度で、会社を辞める最近の若者とはわけが違うのである。
青森県の米作は完全な赤字、りんごも1ヘクタールの農家の年収が150万円前後(手取りです)という状況である。それでもなお辞めないのは、「先祖から受け継いできた農地」という資本と、家族経営による農業が展開されているためだろう。
東京で23年間の貿易商社勤務を経て、昨年の春から故郷・弘前市に戻ってきた農家の青年に話を聞いた。
「父が腰を悪くしたので、実家に戻ってきて農業を継ぎました。正直言って、農業に希望が持てないんですよ。集落全体にもそういった空気が満ちている。土曜も日曜も農作業に従事しているのに、収入はサラリーマン時代の4分の１にも満たないですし…」
話しの最後のほうは、ほとんど泣き顔に近い表情だった。
小泉前首相は、2003年10月の会見で「農業鎖国は続けられない。農業改革は舞ったなしだ」と財界の要求に沿って、いっそうの輸入拡大を広言していた。
それ以後の日本農政は、ますます農業自由化への動きが加速した。同時に、外国の安い農産物に勝てない日本の農業は、衰退の一途をたどっている。
青森県在住の農業ジャーナリストは、「市場を開放してしまったら、安い外国産農産物は、日本既存の農業市場をますます破壊するだろう。目先の利益を重視した政策がいかに危険なのかは、今回の東北衰退を見れば明らかだ。日本の農村を守り受け継いでいくためにも、日本の農業基盤を強化しなければいけないのでは」と話す。
消費者としても、安い外国産農産物よりも、日本産の安全で思いの詰まった農産物を選ぶ努力をする必要があるだろう。美しい農村を次代に受け継ぐことは、今を生きる私たちに課せられた使命でもある。
(著者：上杉幸憲／農業ジャーナリスト、NPO法人日本水フォーラム節水リーダー)
http://www.ohmynews.co.jp/news/20071108/17103
前回でも、弘前市ではここ5年間で3000戸のりんご農家が廃業し、自殺する農家が多いことは述べた。これは、りんご農家に限らず、コメや野菜を栽培している農家でも同じ事が言える。青森県の自殺率は全国2位に及んでおり、公共事業が減少したことによる建設業の衰退も目を覆うばかりだ。
父や祖父の代から、正業(職業)として続けてきた農業をやめるということが、その家にとってどういう意味を持つのかを深く考える必要がある。就職して3年程度で、会社を辞める最近の若者とはわけが違うのである。
青森県の米作は完全な赤字、りんごも1ヘクタールの農家の年収が150万円前後(手取りです)という状況である。それでもなお辞めないのは、「先祖から受け継いできた農地」という資本と、家族経営による農業が展開されているためだろう。
東京で23年間の貿易商社勤務を経て、昨年の春から故郷・弘前市に戻ってきた農家の青年に話を聞いた。
「父が腰を悪くしたので、実家に戻ってきて農業を継ぎました。正直言って、農業に希望が持てないんですよ。集落全体にもそういった空気が満ちている。土曜も日曜も農作業に従事しているのに、収入はサラリーマン時代の4分の１にも満たないですし…」
話しの最後のほうは、ほとんど泣き顔に近い表情だった。
小泉前首相は、2003年10月の会見で「農業鎖国は続けられない。農業改革は舞ったなしだ」と財界の要求に沿って、いっそうの輸入拡大を広言していた。
それ以後の日本農政は、ますます農業自由化への動きが加速した。同時に、外国の安い農産物に勝てない日本の農業は、衰退の一途をたどっている。
青森県在住の農業ジャーナリストは、「市場を開放してしまったら、安い外国産農産物は、日本既存の農業市場をますます破壊するだろう。目先の利益を重視した政策がいかに危険なのかは、今回の東北衰退を見れば明らかだ。日本の農村を守り受け継いでいくためにも、日本の農業基盤を強化しなければいけないのでは」と話す。
消費者としても、安い外国産農産物よりも、日本産の安全で思いの詰まった農産物を選ぶ努力をする必要があるだろう。美しい農村を次代に受け継ぐことは、今を生きる私たちに課せられた使命でもある。
(著者：上杉幸憲／農業ジャーナリスト、NPO法人日本水フォーラム節水リーダー)
http://www.ohmynews.co.jp/news/20071108/17103
2007年11月03日
日本農業の崩壊が始まった‐青森県のりんご農家の悲劇
近年、日本農業の衰退がさまざまなメディアで報じられている。しかし、農業の崩壊はすでにはじまってしまっている。りんごの生産量が日本一の年間１４万トンを誇る弘前市では、安い中国産・アメリカ産のりんごの影響で廃業が相次ぎ、ここ５年間で３千戸が廃業した。食生活がグローバル化する中で、そのしわ寄せが生産者に向けられている。りんごの価格低下も顕著だが、借金を抱えて自殺する農家も少なくないという。
農家の婦人が朝起きると、隣で寝ていたはずの夫の姿がない。床はまだ暖かかったので、便所にでも行ったのだと鷹をくくっていたという。昼過ぎになっても夫は一向に戻ってこない。さすがに遅い、と心配になって農園を探しに行くと、一番古いりんごの木に農作業用の荒縄で首をかけ、白目を剥いて自殺をしている夫の姿を見つけたという。
机の上には何枚もの遺書があった。遺書には長々と、農業への不安が綴られていた。「借金がかさみ、もう農業を続けていくことが出来ません。長年守ってきたりんご畑も、借金のために差し押さえられました。妻へ、先立つ不幸をお許しください。私が死んだ保険金で、子供たちを大学に行かせてあげてください」と。
私は先日、青森県西目屋村のりんご農家を歩いた。一面に広がっているりんごの耕作放棄地。近くの農家の人に話を聞いてみると、「今年の農薬代も買えず、農業をやめてしまったんだべ」と言う。りんごの木をよく見ると、病害虫の巣になっていた。ここから近隣の畑へ病害が飛来すると、大事になるだろう。しかし、耕作放棄地を管理する若者はもう、この村にはいない。また、自殺をしてまで家族を守ろうとした農家の主人の心情は、いかばかりであったか。その思いを察すると、私の胸は張り裂けそうになる。日本農業は今後、どこへ向うのだろうか。
(著者：上杉幸憲／農業ジャーナリスト、NPO法人日本水フォーラム節水リーダー)
追記 本記事は、OhmyNews11月の第2回週間市民記者賞に輝きました。
http://www.ohmynews.co.jp/news/20071103/16891
農家の婦人が朝起きると、隣で寝ていたはずの夫の姿がない。床はまだ暖かかったので、便所にでも行ったのだと鷹をくくっていたという。昼過ぎになっても夫は一向に戻ってこない。さすがに遅い、と心配になって農園を探しに行くと、一番古いりんごの木に農作業用の荒縄で首をかけ、白目を剥いて自殺をしている夫の姿を見つけたという。
机の上には何枚もの遺書があった。遺書には長々と、農業への不安が綴られていた。「借金がかさみ、もう農業を続けていくことが出来ません。長年守ってきたりんご畑も、借金のために差し押さえられました。妻へ、先立つ不幸をお許しください。私が死んだ保険金で、子供たちを大学に行かせてあげてください」と。
私は先日、青森県西目屋村のりんご農家を歩いた。一面に広がっているりんごの耕作放棄地。近くの農家の人に話を聞いてみると、「今年の農薬代も買えず、農業をやめてしまったんだべ」と言う。りんごの木をよく見ると、病害虫の巣になっていた。ここから近隣の畑へ病害が飛来すると、大事になるだろう。しかし、耕作放棄地を管理する若者はもう、この村にはいない。また、自殺をしてまで家族を守ろうとした農家の主人の心情は、いかばかりであったか。その思いを察すると、私の胸は張り裂けそうになる。日本農業は今後、どこへ向うのだろうか。
(著者：上杉幸憲／農業ジャーナリスト、NPO法人日本水フォーラム節水リーダー)
追記 本記事は、OhmyNews11月の第2回週間市民記者賞に輝きました。
http://www.ohmynews.co.jp/news/20071103/16891
2007年10月16日
東北農業の生き残りをかけた闘い-米価下落にどう立ち向かうか-
スタジオジブリ作品・映画「おもひでぽろぽろ」では、山形の美しいベニバナ農家や有機稲作農家の風景が映し出されている。私自身も東北に居を移してから半年になる。
東北の農家がいま、重大な転機を迎えようとしている。東北地方は戦後、米に特化した農業を継続してきた。近年、米価は下落の一途をたどっており、生産価格を割り込む赤字になろうとしている。消費者の米離れや、国際市場解放が大きな原因と見られている。
１２００ヘクタールの水田を持つ秋田県大潟村。農家・奥平さん宅では、乾燥機を新規に購入して１６００万円の設備投資を行った。しかし、米価の下落が著しく、銀行側は「借金をすぐに返済しなければ、今後の取引は停止する」という。秋田県では、限度額の２５００万円以上の借金を抱えている農家も少なくないという。
農家・涌井徹さんは、大潟村で最大の５３ヘクタールの水田で農業経営を行っている。涌井さんは米に付加価値をつけるべく、米の販売会社を創業した。減農薬栽培で生産された米を、６０キロ１５０００円で米を買い取っている。ちなみに、今年の平均米価は１１０００円だと見られており、大きな赤字になる可能性がある。しかし、独自の流通ルートで販売を確立しつつあるため、有機米は１０キロ７３００円の高値で通信販売されている。
涌井さんは「面積で勝負するのではなく、農業戦略で打ち勝たなければいけない。国際競争に打ち勝てるように、付加価値の高い米を生産していくことが打開策になる」と話す。産地間競争の中で、どの農家も必死で努力をしているため、従来の農業生産方法では打ち勝つことは出来ないのだ。
弘前大学農学生命科学部の宇野忠義教授(農業経済学)は、「大規模化を推し進めても、外国産の安い米が入ってこれば、日本産の米は立ち行かなくなる。農業を守るということは公的費用であって、単に食料を生産するだけの機能でないことを訴えていかなければ。」と強調する。
アメリカ・サクラメントバレー。ここでは日本と同じ品種のあきたこまち、こしひかりが栽培されている。日本の米ビジネスに参入しているカーギルをはじめとする海外の穀物企業が、虎視眈々と日本の農業市場を狙ってきている。東北の農家は生き残れるだろうか。日本農業の存亡を賭けた闘いが続いている。
(著者：上杉幸憲／農業ジャーナリスト、NPO法人日本水フォーラム節水リーダー)
■上記記事が緑色記者の「YAHOO!ニュース」の地域版に掲載されました。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20071019-00000004-omn-pol
記事元：http://www.ohmynews.co.jp/news/20071017/16195
東北の農家がいま、重大な転機を迎えようとしている。東北地方は戦後、米に特化した農業を継続してきた。近年、米価は下落の一途をたどっており、生産価格を割り込む赤字になろうとしている。消費者の米離れや、国際市場解放が大きな原因と見られている。
１２００ヘクタールの水田を持つ秋田県大潟村。農家・奥平さん宅では、乾燥機を新規に購入して１６００万円の設備投資を行った。しかし、米価の下落が著しく、銀行側は「借金をすぐに返済しなければ、今後の取引は停止する」という。秋田県では、限度額の２５００万円以上の借金を抱えている農家も少なくないという。
農家・涌井徹さんは、大潟村で最大の５３ヘクタールの水田で農業経営を行っている。涌井さんは米に付加価値をつけるべく、米の販売会社を創業した。減農薬栽培で生産された米を、６０キロ１５０００円で米を買い取っている。ちなみに、今年の平均米価は１１０００円だと見られており、大きな赤字になる可能性がある。しかし、独自の流通ルートで販売を確立しつつあるため、有機米は１０キロ７３００円の高値で通信販売されている。
涌井さんは「面積で勝負するのではなく、農業戦略で打ち勝たなければいけない。国際競争に打ち勝てるように、付加価値の高い米を生産していくことが打開策になる」と話す。産地間競争の中で、どの農家も必死で努力をしているため、従来の農業生産方法では打ち勝つことは出来ないのだ。
弘前大学農学生命科学部の宇野忠義教授(農業経済学)は、「大規模化を推し進めても、外国産の安い米が入ってこれば、日本産の米は立ち行かなくなる。農業を守るということは公的費用であって、単に食料を生産するだけの機能でないことを訴えていかなければ。」と強調する。
アメリカ・サクラメントバレー。ここでは日本と同じ品種のあきたこまち、こしひかりが栽培されている。日本の米ビジネスに参入しているカーギルをはじめとする海外の穀物企業が、虎視眈々と日本の農業市場を狙ってきている。東北の農家は生き残れるだろうか。日本農業の存亡を賭けた闘いが続いている。
(著者：上杉幸憲／農業ジャーナリスト、NPO法人日本水フォーラム節水リーダー)
■上記記事が緑色記者の「YAHOO!ニュース」の地域版に掲載されました。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20071019-00000004-omn-pol
記事元：http://www.ohmynews.co.jp/news/20071017/16195
2007年09月27日
日本とブラジルのパートナーシップ−日伯友好年を来年に控えて
先月１９日、自民党の麻生太郎・衆院議員（当時は外務大臣）がブラジルを訪問した。麻生氏は若い頃に１年間ブラジルに住んでいた経歴を持っている。その縁で、現在でも日伯国会議員連盟の会長などを務めているなど、ブラジルとは深い関係を持っている実力者の一人だ。
麻生氏のブラジル訪問の目的のひとつとして、日本とブラジルにおける農業貿易の連携を強化したいという思惑があるという(関係者談)。その証拠に、８月２０日から２１日にかけて、麻生議員はサンパウロ近郊にある東山農場やサンマルチーニョ社のバイオエタノール工場を訪問している。東山農場は、１９２７年に三菱創業者の岩崎弥太郎氏の長男・久弥氏が、日本移民に対して熱帯農業を指導するための農場として創設したもので、現在では日本文化の普及に大きな役割を果たしている農場だ。現在は岩崎弥太郎氏の直系の玄孫・岩崎透氏が社長を務めている。
現在、近い将来に直面すると言われている世界の食糧危機に、ブラジルの農業生産力が大きな期待を集めている。それは、ブラジルが世界最大の日系人居住地であり、約１５０万人の日系人がブラジル経済の重要な地位を占めているからである。ブラジルのセラード（不毛のサバンナ地帯）を開墾し、有機農業によって二十年近くの農業実績のある株式会社コチヤ青年セラード開発・副社長の横田尚武氏にブラジルの近況を聞いてみた。
「ブラジルではバイオエタノールの需要拡大によって、大豆やトウモロコシなどの穀物価格が高騰している。ここ数年は中国やアメリカの商社によって、ブラジルの農地買い占めが進んでいます。大手穀物メジャーの多くは、アマゾンの熱帯雨林を伐採し、そこを農地に転用している現場を幾度も見てきました。アマゾンは地球の肺。自然環境を破壊してまで農業生産を行うことに意味があるのでしょうか？私たち日系人の農業移民は、環境を破壊せず、有機農業の技術を確立して農業を行っています。これが私たち日系人農業者の誇りなのです。」
こうした近年の穀物高騰にいち早く目をつけたのが、麻生議員だった。日本とブラジルの関係は１００年近い歴史を持っている。来年の２００８年は、日本からブラジルへの農業移民が神戸港から始めて渡伯してから、ちょうど１００年を迎える年だ。両国間では多くの移民１００年祭や日伯友好年のイベントが開催されるという。麻生議員は、日伯友好年実行委員会の名誉会長として、さまざまなイベントに出席が予定されている。
日本の食糧危機を救えるのはブラジルしかない。今年７月６日の外務大臣演説で、麻生氏は次のように話している。「中南米が今や、歴史的な転換期にある。日本にとって中南米とは、幾重にも重要なパートナーなのだと思います。」両国間の友好をさらに深め、なおいっそうの国際関係を築いていくことが求められている。今後の両国親善に大きな期待をしたい。
□お知らせ
この度、平成19年8月27日付けで「NPO法人日本水フォーラム」(会長・森喜朗元首相)より節水リーダーを拝命いたしました。今後、フォーラムなどの講演会で発言したり、農業や環境問題の報道を通して水環境資源の保全に尽力できたらと思います。
(著者：上杉幸憲／食農環境ジャーナリスト、前・国際交流親善大使)
麻生氏のブラジル訪問の目的のひとつとして、日本とブラジルにおける農業貿易の連携を強化したいという思惑があるという(関係者談)。その証拠に、８月２０日から２１日にかけて、麻生議員はサンパウロ近郊にある東山農場やサンマルチーニョ社のバイオエタノール工場を訪問している。東山農場は、１９２７年に三菱創業者の岩崎弥太郎氏の長男・久弥氏が、日本移民に対して熱帯農業を指導するための農場として創設したもので、現在では日本文化の普及に大きな役割を果たしている農場だ。現在は岩崎弥太郎氏の直系の玄孫・岩崎透氏が社長を務めている。
現在、近い将来に直面すると言われている世界の食糧危機に、ブラジルの農業生産力が大きな期待を集めている。それは、ブラジルが世界最大の日系人居住地であり、約１５０万人の日系人がブラジル経済の重要な地位を占めているからである。ブラジルのセラード（不毛のサバンナ地帯）を開墾し、有機農業によって二十年近くの農業実績のある株式会社コチヤ青年セラード開発・副社長の横田尚武氏にブラジルの近況を聞いてみた。
「ブラジルではバイオエタノールの需要拡大によって、大豆やトウモロコシなどの穀物価格が高騰している。ここ数年は中国やアメリカの商社によって、ブラジルの農地買い占めが進んでいます。大手穀物メジャーの多くは、アマゾンの熱帯雨林を伐採し、そこを農地に転用している現場を幾度も見てきました。アマゾンは地球の肺。自然環境を破壊してまで農業生産を行うことに意味があるのでしょうか？私たち日系人の農業移民は、環境を破壊せず、有機農業の技術を確立して農業を行っています。これが私たち日系人農業者の誇りなのです。」
こうした近年の穀物高騰にいち早く目をつけたのが、麻生議員だった。日本とブラジルの関係は１００年近い歴史を持っている。来年の２００８年は、日本からブラジルへの農業移民が神戸港から始めて渡伯してから、ちょうど１００年を迎える年だ。両国間では多くの移民１００年祭や日伯友好年のイベントが開催されるという。麻生議員は、日伯友好年実行委員会の名誉会長として、さまざまなイベントに出席が予定されている。
日本の食糧危機を救えるのはブラジルしかない。今年７月６日の外務大臣演説で、麻生氏は次のように話している。「中南米が今や、歴史的な転換期にある。日本にとって中南米とは、幾重にも重要なパートナーなのだと思います。」両国間の友好をさらに深め、なおいっそうの国際関係を築いていくことが求められている。今後の両国親善に大きな期待をしたい。
□お知らせ
この度、平成19年8月27日付けで「NPO法人日本水フォーラム」(会長・森喜朗元首相)より節水リーダーを拝命いたしました。今後、フォーラムなどの講演会で発言したり、農業や環境問題の報道を通して水環境資源の保全に尽力できたらと思います。
(著者：上杉幸憲／食農環境ジャーナリスト、前・国際交流親善大使)
2007年08月27日
イギリスへの旅立ち 農林業の再生へ向けて
さて、海外取材のため明日午後の便で青森空港を出発し、成田経由で２８日１２時発ロンドン行きの便でイギリスに飛び立つことになりました。英国は物価が高く、地下鉄の初乗り価格は900円、電車も30キロ移動すれば5000円だとか。恐ろしい物価です。
英国・ウェールズは「森と渓谷の国」と呼ばれ、この季節の最低気温は６℃で、日中との温度差は実に１８℃差。すでに美しい紅葉が広がっているそうだ。私はここで３週間のあいだ、ウェールズ・アファンの森で、森林保護と植林、国立公園の保全活動に従事しながら英国の農林業を学ぶ予定だ。イギリスのグリーンツーリズムや、自然エネルギーについても取材をする。飛行機の機内では、ワインを飲みすぎて泥酔しないようにしなければ(笑)9月15日に無事帰国できますように…
(下記はC.W.ニコルアファンの森財団のHPより一部引用)
1981年から長野県黒姫に居を定めて作家活動に入り、エッセイや講演などを通して環境問題に積極的な発言を続けてきたC．W.ニコル氏は、南ウェールズ・ニースの出身です。
そのニコル氏が、1980年代の「樹齢を重ねた森の木々が次々に切り倒され、川はコンクリートのせいで変わり果てた姿となり、湿地はゴミで埋め立てられていく日本」に失望していた時、生まれ故郷のウェールズを訪ねる機会がありました。そこで見た森の再生にかけるウェールズの人々の努力と情熱に感銘を受け、「自分もただ文句を言うのはやめて愛する日本の為に力を尽くそう」と心に決めたそうです。
それがきっかけになってまず長野県黒姫で森林の保全を始め、やがて出身地Neath（ニース）の近くにあるアファン・アルゴード国立公園と提携して情報交換や人材交流を推進することになりました。
英国のアファン・アルゴード森林公園は、Port Talbotから北西へ10マイルほど上がったアファン渓谷の中にあり、森林の緑と狭い渓谷の水の美しさで有名な所です。既に日本からの植物も多く植えられています。
現在では、アファン・アルゴード森林公園で公園内の管理作業や保全活動研修を受ける為に世界各地の学生や社会人、ジャーナリストたちが集うようになりました。ここで学んだ人たちは、帰国後それぞれの持ち場で環境保護のリーダーとして活動に取り組んでいます。
今回、活動協賛をいただきました某新聞社様に、取材に関する費用(40万円相当)を提供していただきました。ご尽力くださいました関係者の方々に感謝申し上げます。
(著者：上杉幸憲／農業ジャーナリスト、前・国際交流親善大使))
英国・ウェールズは「森と渓谷の国」と呼ばれ、この季節の最低気温は６℃で、日中との温度差は実に１８℃差。すでに美しい紅葉が広がっているそうだ。私はここで３週間のあいだ、ウェールズ・アファンの森で、森林保護と植林、国立公園の保全活動に従事しながら英国の農林業を学ぶ予定だ。イギリスのグリーンツーリズムや、自然エネルギーについても取材をする。飛行機の機内では、ワインを飲みすぎて泥酔しないようにしなければ(笑)9月15日に無事帰国できますように…
(下記はC.W.ニコルアファンの森財団のHPより一部引用)
1981年から長野県黒姫に居を定めて作家活動に入り、エッセイや講演などを通して環境問題に積極的な発言を続けてきたC．W.ニコル氏は、南ウェールズ・ニースの出身です。
そのニコル氏が、1980年代の「樹齢を重ねた森の木々が次々に切り倒され、川はコンクリートのせいで変わり果てた姿となり、湿地はゴミで埋め立てられていく日本」に失望していた時、生まれ故郷のウェールズを訪ねる機会がありました。そこで見た森の再生にかけるウェールズの人々の努力と情熱に感銘を受け、「自分もただ文句を言うのはやめて愛する日本の為に力を尽くそう」と心に決めたそうです。
それがきっかけになってまず長野県黒姫で森林の保全を始め、やがて出身地Neath（ニース）の近くにあるアファン・アルゴード国立公園と提携して情報交換や人材交流を推進することになりました。
英国のアファン・アルゴード森林公園は、Port Talbotから北西へ10マイルほど上がったアファン渓谷の中にあり、森林の緑と狭い渓谷の水の美しさで有名な所です。既に日本からの植物も多く植えられています。
現在では、アファン・アルゴード森林公園で公園内の管理作業や保全活動研修を受ける為に世界各地の学生や社会人、ジャーナリストたちが集うようになりました。ここで学んだ人たちは、帰国後それぞれの持ち場で環境保護のリーダーとして活動に取り組んでいます。
今回、活動協賛をいただきました某新聞社様に、取材に関する費用(40万円相当)を提供していただきました。ご尽力くださいました関係者の方々に感謝申し上げます。
(著者：上杉幸憲／農業ジャーナリスト、前・国際交流親善大使))
2007年08月06日
自民・民主の農業政策を徹底検証する
OhmyNews日本版で8月2日に掲載していただいた「安倍総理の「美しい日本」という虚像」の記事に対して、多くの読者から賛否両論の反響を戴いた。前後して、評論家の先生方のブログに当ブログが紹介されたことから、アクセス数が約10倍に増えたので私も驚いている。そこで、再度「美しい日本」とか何か、自民・民主の農業政策の中身について検証してみたいと思う。
安倍総理は「美しい国・日本」のあり方について、自著の中で「自信と誇りの持てる国」、「いま日本という国のかたちが変わろうとしている」と述べている。具体的な政策案としては、教育の再生・ナショナリズムの在り方・社会保障の将来などを揚げて指針を明示している。しかし、大衆からは「安倍総理の言葉は、具体的な意味を持たず、上滑りしてしまっているように聞こえる」という声が大多数を占めており、国民に対して真意が伝わっていないようだ。これは産経新聞の世論調査からも数字で現われている。
さて、今回の参院選でも大きな焦点となった農業政策について、農村部である秋田や青森などの１人区では民主党が圧勝している。農村部の声を聞くと、民主党の農業政策への圧倒的な信頼を感じさせる。しかし、本当に民主党の農業政策は正しいのだろうか。民主党のマニフェストを検証してみたい。
民主党は農産品の生産価格が市場価格を下回ったら、零細農家に対しても総額一兆円の所得保障をするとマニフェストに掲げている。９０年代まで食糧自給政策の旗の下にコメを買い上げた食管会計制度の復活を彷彿とさせる、旧態依然としたバラマキ政策である。食管会計が巨額の赤字を抱え、売れないコメが倉庫に山積みになったことを国民は忘れたのだろうか。
民主党の農業政策を実践すれば日本の農業はますます疲弊し、海外の農産品に太刀打ちできなくなるだろう。その差額を国民の税金で無制限に穴埋めする時代に逆戻りしてしまう恐れもある。農業に対して、国への財政依存が進めば、自立を目指して努力をしている日本農業の基盤を弱体化させることにつながらないだろうか。
コメに関しては食管会計を廃止して流通を自由化し、コメ作りを大規模化しかおかげで、ミニマムアクセスの影響もあってコメは輸出産業になろうとしている。「攻めの農政」は着実に実績を上げているものの、農産物の輸入額は年々増加傾向にある。民主党の政策は農業を統制経済に逆戻りさせるもので、全くの時代錯誤のバラマキ政策と言わざるをえない。自給率を本気で上げようとする姿勢はあるだろうか。
一方の自民党案は、5ヘクタール以上の農地を持った農業者を「認定農業者」とし、集落単位での集落営農を推進している。しかし、これも小規模切捨ての農業政策だと批判を受けている。秋田県では、政府の「品目横断的経営安定対策」に対して反感を持つ農業者が急増している。
では、何が一番正しいのか。私は、民主党案と自民党案のちょうど中間の、バランスの取れた農業政策の必要性を訴えたい。バラマキではなく、農業者の自立と基盤の強化を重点に置いた公平や補助金制度の新設と、農業の担い手を育成するための具体的な支援策。例えば、将来農業経営者を目指す学生に対して、奨学金制度を新設する。その例は、自衛官育成のための防衛大学校のシステムを参考にするといいだろう。
いずれにしても、農業者の立場に立った農業政策の立案が必要不可欠だ。
(著者：上杉幸憲／食農環境ジャーナリスト、前・国際交流親善大使)
安倍総理は「美しい国・日本」のあり方について、自著の中で「自信と誇りの持てる国」、「いま日本という国のかたちが変わろうとしている」と述べている。具体的な政策案としては、教育の再生・ナショナリズムの在り方・社会保障の将来などを揚げて指針を明示している。しかし、大衆からは「安倍総理の言葉は、具体的な意味を持たず、上滑りしてしまっているように聞こえる」という声が大多数を占めており、国民に対して真意が伝わっていないようだ。これは産経新聞の世論調査からも数字で現われている。
さて、今回の参院選でも大きな焦点となった農業政策について、農村部である秋田や青森などの１人区では民主党が圧勝している。農村部の声を聞くと、民主党の農業政策への圧倒的な信頼を感じさせる。しかし、本当に民主党の農業政策は正しいのだろうか。民主党のマニフェストを検証してみたい。
民主党は農産品の生産価格が市場価格を下回ったら、零細農家に対しても総額一兆円の所得保障をするとマニフェストに掲げている。９０年代まで食糧自給政策の旗の下にコメを買い上げた食管会計制度の復活を彷彿とさせる、旧態依然としたバラマキ政策である。食管会計が巨額の赤字を抱え、売れないコメが倉庫に山積みになったことを国民は忘れたのだろうか。
民主党の農業政策を実践すれば日本の農業はますます疲弊し、海外の農産品に太刀打ちできなくなるだろう。その差額を国民の税金で無制限に穴埋めする時代に逆戻りしてしまう恐れもある。農業に対して、国への財政依存が進めば、自立を目指して努力をしている日本農業の基盤を弱体化させることにつながらないだろうか。
コメに関しては食管会計を廃止して流通を自由化し、コメ作りを大規模化しかおかげで、ミニマムアクセスの影響もあってコメは輸出産業になろうとしている。「攻めの農政」は着実に実績を上げているものの、農産物の輸入額は年々増加傾向にある。民主党の政策は農業を統制経済に逆戻りさせるもので、全くの時代錯誤のバラマキ政策と言わざるをえない。自給率を本気で上げようとする姿勢はあるだろうか。
一方の自民党案は、5ヘクタール以上の農地を持った農業者を「認定農業者」とし、集落単位での集落営農を推進している。しかし、これも小規模切捨ての農業政策だと批判を受けている。秋田県では、政府の「品目横断的経営安定対策」に対して反感を持つ農業者が急増している。
では、何が一番正しいのか。私は、民主党案と自民党案のちょうど中間の、バランスの取れた農業政策の必要性を訴えたい。バラマキではなく、農業者の自立と基盤の強化を重点に置いた公平や補助金制度の新設と、農業の担い手を育成するための具体的な支援策。例えば、将来農業経営者を目指す学生に対して、奨学金制度を新設する。その例は、自衛官育成のための防衛大学校のシステムを参考にするといいだろう。
いずれにしても、農業者の立場に立った農業政策の立案が必要不可欠だ。
(著者：上杉幸憲／食農環境ジャーナリスト、前・国際交流親善大使)
2007年07月30日
美しい日本という虚像-日本の心を守るために-
７月２９日、参院選が終わった。結果を見てみれば、閣僚の失言が相次いだ自民党が惨敗している。しかし、この日は歴史が大きく変わる契機になったのだと私は感じている。いま、国民は大きな変化を求めているし、今回の選挙結果は国民が選んだ決断なのだと捉えたい。しかし、国民の心は動き易い。今回の選挙公約のマニフェストを検証してみると、民主党案はいい加減な点が多い。特に農業政策での詰めが甘いことが見受けられる。参院第１党となった民主党が、今後人心を掌握できる手腕を兼ね備えているかを見守ってゆきたいと思う。
安倍首相がしきりに提唱している「美しい日本」とは何をさしているのだろうか。日本テレビの世論調査によると、国民の７割近くが美しい日本という意味を理解していないのだという。私論ではあるが、私は日本農業の活性化こそ美しい日本への大きな前進になると感じている。
さて、外国人から見た日本はどのように写っているのだろうか。日本人は、自国の景観の美しさや気高き精神文化の誇りを忘れつつある気がする。今月15日の「情熱大陸」に出演し、大きな反響を呼んでいる東洋文化研究家・アレックス=カーの処女作「美しき日本の残像(朝日新聞社)」に再び注目が集まっている。
彼は12歳で父の仕事の都合で来日し、その後慶応大学に留学して日本の文化や自然美の虜になった。21歳で徳島県祖谷の茅葺民家を購入し、修復して住むようになったという。1960年当時はまだ、美しい日本が残されていた。しかし、高度経済成長期の日本は日本の伝統を打ち捨てたスクラップアンドビルドの粗悪な都市開発が進み、京都の美しい町並みも“コンクリートジャングル”へと化した。その後の日本は、先進国に追いつき追い越せと開発を繰り返し、日本の主要な都市はコンクリートのビルが立ち並ぶ単調な景観に様変わりしてしまった。
では日本の農村はどうか。同じく農村でも急速な開発が進み、電柱と立て看板だらけの景観に様変わりしてしまっている。フランスやウェールズの農村とは対照的である。
(社)外国特派員協会の理事が、外国人観光客が日本に来ると、多くの人が失望して帰国していくらしいと言っていた。その意味が、なんとなく共感できてしまうのは私だけだろうか。
再度読者に問いたい。私たちは日本に誇りを持って生きているだろうか。いま再び、昭和30年代に注目が集まっている理由は、あの時代にはまだ「日本らしい日本」が残されていたからだと私は感じる。しかし、私はまだ日本人に美しい日本の心が息づいていると信じている。日本が忘れつつある美しい日本の真の姿を見つめなおす一冊に、美しい日本の真実が隠されているのではないだろうか。
(著者：上杉幸憲／食農環境ジャーナリスト、前・国際交流親善大使)
※本編は著者書き下ろし。後日、産経新聞掲載予定。
安倍首相がしきりに提唱している「美しい日本」とは何をさしているのだろうか。日本テレビの世論調査によると、国民の７割近くが美しい日本という意味を理解していないのだという。私論ではあるが、私は日本農業の活性化こそ美しい日本への大きな前進になると感じている。
さて、外国人から見た日本はどのように写っているのだろうか。日本人は、自国の景観の美しさや気高き精神文化の誇りを忘れつつある気がする。今月15日の「情熱大陸」に出演し、大きな反響を呼んでいる東洋文化研究家・アレックス=カーの処女作「美しき日本の残像(朝日新聞社)」に再び注目が集まっている。
彼は12歳で父の仕事の都合で来日し、その後慶応大学に留学して日本の文化や自然美の虜になった。21歳で徳島県祖谷の茅葺民家を購入し、修復して住むようになったという。1960年当時はまだ、美しい日本が残されていた。しかし、高度経済成長期の日本は日本の伝統を打ち捨てたスクラップアンドビルドの粗悪な都市開発が進み、京都の美しい町並みも“コンクリートジャングル”へと化した。その後の日本は、先進国に追いつき追い越せと開発を繰り返し、日本の主要な都市はコンクリートのビルが立ち並ぶ単調な景観に様変わりしてしまった。
では日本の農村はどうか。同じく農村でも急速な開発が進み、電柱と立て看板だらけの景観に様変わりしてしまっている。フランスやウェールズの農村とは対照的である。
(社)外国特派員協会の理事が、外国人観光客が日本に来ると、多くの人が失望して帰国していくらしいと言っていた。その意味が、なんとなく共感できてしまうのは私だけだろうか。
再度読者に問いたい。私たちは日本に誇りを持って生きているだろうか。いま再び、昭和30年代に注目が集まっている理由は、あの時代にはまだ「日本らしい日本」が残されていたからだと私は感じる。しかし、私はまだ日本人に美しい日本の心が息づいていると信じている。日本が忘れつつある美しい日本の真の姿を見つめなおす一冊に、美しい日本の真実が隠されているのではないだろうか。
(著者：上杉幸憲／食農環境ジャーナリスト、前・国際交流親善大使)
※本編は著者書き下ろし。後日、産経新聞掲載予定。