支度部屋で父・ステファンさんと抱き合って喜びを爆発させる琴欧洲(左)=両国国技館 |
「大相撲夏場所14日目」(24日、両国国技館)
夢にまで見た頂点に立った。ブルガリア出身の大関琴欧洲が関脇安馬を送り倒して初優勝を決めた。師匠の佐渡ケ嶽親方(元関脇琴ノ若)、緊急来日した父のステファンさん(52)、いとこのニコライさん(23)、天国の先代師匠・鎌谷紀雄さん(元横綱琴桜)にささげる笑顔の大団円となった。欧州出身力士の優勝は初。佐渡ケ嶽部屋からの優勝は01年秋場所の琴光喜以来。かど番大関の優勝は06年初場所の栃東以来7人目となった。
◇ ◇
夢心地だった。目はうつろで、うっすらと笑みを浮かべていた。館内にこだまする歓声を一身に浴び、ひとつ息をついた。父と師匠が見守る中、期待に応えて男になった。「言葉が出ない。頭がぼーっとした」。目に涙はなかった。
優勝を意識するあまり安美錦に惨敗した13日目から一夜明け、気持ちの整理をつけて土俵に上がった。動きの素早い安馬をしっかり捕まえると、そのまま前へ。相手の首投げがすっぽ抜けて背後を取った。勝機と見るや身長202センチ、体重155キロの体を預ける。初優勝の重圧を押しつぶす豪快な送り倒しで、欧州出身力士として初の栄誉をつかみ取った。
「とにかく前に出た。今日決めるとは思っていなかった。信じられない。今まで苦労をしてきたことを思い出した。何回もチャンスがあって逃してきたから」
喜びに浸りながら自分を支えてくれた人たちの顔を思い描いた。家族、師匠、部屋の仲間以外に支えになったのは先代師匠の鎌谷さんだ。定年後も「横綱にするまでわしが指導する」とゲキを飛ばす姿に「何で終わったのにいるの」と心の中で反発したこともあった。しかし、02年の入門以来の恩人は昨年8月に急逝(享年66)。やっと果たせた恩返しに「自分のそばについてくれている。どこかで見てくれている」と感無量だった。
かど番から一転、7月の名古屋場所では綱とりがかかる。同じ優勝でも13勝と14勝では印象が大きく違ってくる。「最高の親孝行です。まだ明日、相撲がある。取り切ってから、これから考えたい」。次の夢は番付の頂点。綱を張る日まで琴欧洲の挑戦は終わらない。
|