「子供のころテレビで見た『メッダフルック』にそっくりだ」。親日国トルコから日本文化研究のため筑波大に留学していた01年、東京の寄席で初めて見た落語に目を見張った。
メッダフルックはイスラム教の説教に端を発する話芸。一人の話し手が高座で、ハンカチとつえを小道具に観客を笑わせる。ただし、流行していたのはオスマン帝国時代の13世紀末から20世紀初頭まで。伝承者がおらず、衰退している。
「落語こそ日本とトルコの文化の懸け橋」。そう思い、勉強を始めたが、初めは面白さが分からなかった。独特の言い回し、そして落ち……。多少日本語ができる程度では、客がなぜ大声で笑うのか、不思議だった。
そこで噺(はなし)を丸暗記し、口まねで話芸を磨くうち、落語が体に染み込んできた。大学の同好会などで口演を重ね、03年には柳家さん喬(きょう)さんに師事。我楽亭巴里飛(わらっていはりと)の名をもらい、昨年初めてプロの噺家と高座に上がった。
持ちネタには小佐田定雄さんの出世作「幽霊の辻」も。3月には、京都で新作落語「おしゃべり往生」に挑戦。手ぬぐいならぬハンカチをかぶって老婆に化けるなど笑いを取った。「いつか落語でトルコ中を笑いに包んでやる。そしてメッダフルックに挑戦したい」。そんな野望に燃えている。【珍田礼一郎】
【略歴】Mizirakli Halit(ムズラックル・ハリト)さん イスタンブール出身。05年から阪大大学院で「日本の笑い」を研究。ダンサーの妻と2人暮らし。30歳。
毎日新聞 2008年5月25日 0時04分(最終更新 5月25日 0時05分)