現在位置:asahi.com>文化・芸能>文化>文化一般> 記事 漱石「幻の講演」、旧満州地元紙に 「人には三タイプ」2008年05月24日15時05分 作家夏目漱石が明治末、旧満州(中国東北部)の大連で行った講演の内容が、地元の「満州日日新聞」に掲載されていたことがわかった。講演していたことは知られていたが、内容はこれまで「不詳」とされていた。漱石の人間観がうかがえる興味深い内容だ。(牧村健一郎)
漱石は1909年9月から10月にかけ、旧満州、朝鮮半島を旅し、講演を3回している。うち大連での講演については、岩波書店刊の漱石全集でも「掲載紙誌の有無についても不詳」とされていた。 満州日日によると、09年9月12日午後7時から、大連の満鉄(南満州鉄道)従事員養成所で200人の聴衆を前に1時間余り講演した。この内容が「物の関係と三様の人間」というタイトルで、9月15日から同紙1面に5日間にわたり連載されている。400字詰め原稿用紙にすると約22枚分の分量がある。 人には「物と物との関係を明(あきら)める人(科学者など)」「物と物との関係を変化せしむる人(軍人や満鉄社員など)」「物と物との関係を味(あじわ)う人(文芸家など)」の三つのタイプがあり、社会の進展には、三様がバランスよく発展していく必要がある、と述べる。英国の画家ターナーの絵や新興のアメリカに芸術家が少ないことに言及、人間観、文明観をわかりやすく説き、漱石の肉声がうかがえる。 満州日日新聞は満鉄傘下の日刊紙。国立国会図書館は同紙を所蔵しているが、07年の同紙創刊から2年ほどは欠けていた。同図書館は97年に同紙のほぼ全期間をカバーするマイクロフィルムを購入、このマイクロフィルムに講演記事があった。 岩波版漱石全集の元編集者で漱石研究家の秋山豊さんは「初めて見た。人間を三様に分けて考えることはかつての講演にもあるが、(新開地の)大連に多い『変化せしむる人』にも他の二様が必要であることや、『変化せしむる人』はせわしなく生きざるを得ないと指摘し、この視点が後の日本の開化への批判につながる」と分析している。 原武哲・福岡女学院大学名誉教授(近代文学)の話 講演の事実は知っていたが、内容が判明したとは驚いた。講演だから親しみやすいのではないか。漱石研究者だけでなく、漱石ファンにも喜ばしい知らせだ。 PR情報この記事の関連情報文化・芸能
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