地方から大都市への人口流出に歯止めをかけ、過疎地域の生活機能を維持する方策を検討してきた総務省の研究会が報告書をまとめた。人口5万人以上の中心市に都市機能を集約し、周辺地域と共有する「定住自立圏」を作るという内容だ。
現在の大都市への人口流入は高度成長期、バブル経済期に次ぐ第3の波といわれる。この結果、人口減が続く地方では医師不足などが深刻になり、地域消滅の危機にある「限界集落」が増えている。人の流れを止めることは難しいとしても、過疎地域の最低限の生活機能を守る方法を探ることは政府の責務である。
従来のように全国隅々まで補助金をばらまいても効果が小さいことは歴史が証明している。この点、研究会の報告書は「もはやすべての市町村にフルセットの生活機能を整備することは困難である」と指摘している。国、自治体ともに財政状況が厳しいだけに正しい認識だろう。
このため、報告書では都市機能を中心市に集約し、あらかじめ協定を結んだ周辺地域と共同利用する方式を提案している。医療ならば、中心市に総合病院を設置して周辺地域の診療所には病院から医師を派遣し、遠隔医療も可能にする。教育ならば、中心市に中高一貫校を置き、通学バスで周辺との足を確保する。協定に基づく事業は周辺地域も費用を負担し、国は中心市への財政支援のほか、教員人事権を都道府県から中心市に移すことを検討するという。
「平成の大合併」で3200あった市町村は1790弱まで減ったが、人口1万人未満の町村が今も480程度ある。今回の構想に対して「小規模町村の切り捨てだ」という声もあるようだが、自治体間の自主的な取り組みが前提なのでそうした批判は当たらないだろう。むしろ、地方分権が進むなかで、当面合併しない道を選んだ地域に新たな選択肢を示したと評価したい。県境をまたいで定住圏を作ることができる点も従来の制度にはない発想だ。
人口10万6000人の長野県飯田市を中心とする地域のように検討を始めたところもある。新たな行政の仕組みを地域から作り上げてほしい。
しかし、「人口流出を防ぐダム機能」(増田寛也総務相)を定住圏が十分に果たせるかどうか疑問も残る。中心市の人口規模が5万人程度の場合、雇用面の受け皿や産業創出の基盤としては力不足だ。道州制をにらんで仙台や福岡などのブロック中心都市の機能をさらに強化し、そのうえで生活の場として定住圏を位置づけるのが妥当であろう。